100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

44話 ナイトメア現る!

 頑張る魔族さんに想いを馳せて俺達は何とか城の最上階、最深部まで到達する事が出来た。(途中少年が厨三病を抑えられずに、破滅の兜を被ってしまい大騒ぎになった。が、村長のお陰で大事には至らなかった)

「この通路を真っ直ぐ進むと大魔王の部屋がある。皆、準備は出来てるか?」

「もちろん! でも……信じられないよね。この間までただの街の子供だったのに、今じゃこんな所にいるなんて」

「本当に。今でも信じられません、まさか普通の木こりの娘がこんな所にくるだなんて」

「ワシもじゃよ? まさかこの歳になって大魔王と戦う事になるとはのう。人生分からんもんじゃ、ホッホッホッ!」

「行こう! 兄貴! 兄貴の目的を達成する為に!」

「皆が平和に暮らせる世界を創るために!」

「ワシ等の最後の仕事じゃ」

 俺達は大魔王の部屋のドアの前まで来ていた。ドアの前ではモンスター達の司令塔であるボスが待ち構えており、俺達の姿を確認するやいなや、

「待っていたぞ。随分と俺の部下を可愛がってくれたみたいだが、お前達の冒険はここで終わりだ。お前達は大魔王様に会う事もできずに死んでいくのだ! この魔界一の大剣豪――――」

――俺は右手の刀を投げつけた。

――俺の刀を追うように飛んできた一筋の光が煌めいて俺の真横を通り過ぎていく。

 俺の横を通り過ぎていく際に微かに見えた光の正体は……杖?

 俺の投げた刀は敵の左胸に直撃し、杖らしきものは右胸に直撃した。不意打ちをくらい後ろに吹き飛ばされた敵は、大魔王の部屋のドアを粉々に砕いて息絶えた。大きな音をたてて崩れ落ちるドア、舞い上がった埃の中、俺達は大魔王の部屋へと入り愛刀の片割れを引き抜く。

「最後まで喋りたかったか? でも、俺達が用があるのはお前じゃないんだ、ごめんな大剣豪ケンゴ」

「びっくりしたあ! 兄貴いきなり何してんの!?」

「本当ですっ! ちゃんと言ってからにしてください!」

「ホッホッホッ! ワシは何となく分かっておったよ。なにせ全力勇者じゃからのう、ホッホッホッ!」

「本当に。私を置いて行くなんて、どうかしてますねえ。間に合ったから良かったものの……まあ、愚かなあなた達ならでは、といった感じですかねえ」

「あ? お嬢ちゃん何か言った?」

「いえ。私は何も……村長様ではありませんか?」

「ん? ワシでもないぞ? 少年じゃないのか?」

「少年の喋り方じゃないだろう?」

「僕じゃないよ! あの杖……?」

 大剣豪ケンゴの胸で光るその杖、それは見覚えのある杖だった。いつの日か村長の為に造られた杖、その名は――

魔星に墜つ暗黒王の悪夢ナイトメア・オブ・ナイトメア!」

 そう……そうだ。ぼったくり教会のせいで貯金をほぼ無くした俺が、村長達の装備を買い揃える為に可愛い子ちゃんの店で手放したのが……魔星に墜つ暗黒王の悪夢ナイトメア・オブ・ナイトメア

「全く流石に私も売りに出されて、ほったらかしにされるなんて考えてもいませんでしたよ。すぐに買い戻されるものだとばかり……ねえ? エックス?」

魔星に墜つ暗黒王の悪夢ナイトメア・オブ・ナイトメアは静かな怒りを孕んだ様子で語り出す。

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