100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

43話 いざ、大魔王のいる城内へ

「じゃあ、最後に。絶対に無理をするな、命大事に!」

「「「はいっ」」」

 俺達は魔王の城へと潜入した。

 一歩入った瞬間から、はっきりと伝わる緊張感、邪悪な意思。足元を黒い霧が這い回り道に迷わせ、魔界へと誘う。城中を満たす冷たく尖った外気は命の温もりを凍てつかせる程に容赦なく全身を取り囲み、肌を刺すように体力を奪っていく。陽の光も差し込まない、否。陽の光が途中でかき消されている、闇に飲み込まれ存在が薄れ、消えている。どんよりと流れる風も、魔界から流れ込んでいるのか呼吸する度に気が狂い意識が飛びそうになる。人間にとって最悪なこの状況も、モンスターにとっては最高に心地良い状況で、狂気したモンスターの強さや勢いは普段のそれとは段違いである。

 Lvの低いパーティーなら即全滅は免れないが、皆はLvが高いお陰でこの城の負のオーラをものともしていない。

「さ……さすがに……さすがに、さすがだね」

「確かに流石だが、そこまで流石じゃねえだろう?」

「いやはや流石は大魔王の城。流石と言わずに何と言おう」

「流石です……」

 皆、緊張しているのか変な事を口走っている。そして俺も少し感化されている。緊張している場合じゃない気を引き締めないと、一瞬の気の迷いや判断ミスが命の危機に直結する。

 俺達は通路を慎重に歩いていき、幾つもの宝箱を開けて装備を整えた。(と言っても俺以外は既に上級の装備品なので、手に入れたのはほぼ全て俺の装備品ばかりだ)

 ふと思う。今まで気にした事が無かったんだが……。

「さっきさあ、宝箱にあれ入ってたじゃん? あの、あれ《死の鎧》」

「名前は格好いいんだけどねえ……あっ! でもあれは、さっきのモンスターに投げつけてやったよ!?」

「ああ、それは投げつけてくれて構わない。けど、思うんだよ。誰が装備するんだろうって。あれは明らかに魔族達のトラップだろ? 呪い状態にして弱った所を一網打尽にしてやる! 的な。でもさ、名前も見た目もあからさまに呪われてるじゃん? 鎧の全面に髑髏付いてんだぜ? どこのイカレたデザイナーがあんなパンチの効いたデザインするんだよ、普通に考えて……考えなくても一目で分かるだろ? これはダメだって」

「確かに……僕も呪われた武具は初めてみたけれど、最初は普通に格好いい! って思っちゃったけれど、すぐに『これはダメな奴だ』って本能で危険を感じ取ったよ」

「そうですね、私と村長様は箱の外からでも分かるみたいです。悪意を感じるというか、負のオーラが伝わってきます」

「じゃの。でも勘違いじゃったら勿体ないから箱を開けるまでは何とも言えんが」

「やっぱそうだろ? じゃあいったい、何の為に置いてあるんだ?    バレバレの落とし穴には誰も落ちたりしないだろう?」

「そう言われるとそうですね。明らかにトラップである事が分かるのに、なぜ設置したのか?」

「ふむふむ。魔界にはトラップ屋があって、まだ見習いの魔族が練習で作ったバレバレのトラップを心優しい大魔王殿が気遣って自身の城に設置してあげておるとか、かのう? いかん……涙出てきた。大魔王殿、粋じゃ。粋で鯔背いなせじゃ。鯔背大魔王、人情派じゃ」

「なんだ優しい大魔王なんだね。じゃあ、やっつけるの止めない? 見習いの魔族さんが可哀想だよ……。それに僕は精一杯応援したいし信じてる、見習いの魔族さんはいつかきっと魔界一のトラップ職人になれるよ!」

「私も、微力ながら応援します。まだ先の話ですが、私の店で使えるクーポン券を宝箱の中に入れていきましょう。トラップの考案に行き詰まったら、楽しくお酒でも飲んで……そしたらきっと素晴らしいトラップが完成するわ!」

 ……俺の頭の中ではこんなにも《悪いトラップ製造物語》が始まろうとしている。だろうか?

「はいはい……本当にそんな魔族さんがいたら精一杯応援してあげてね……。ほら! もう行くぞ」

 頑張る魔族さんの物語を強制終了させて、俺は皆の手を引いて歩き出した。

 次の瞬間――歩き出した俺の目に止まったものは、通路の片隅に転がった全身に呪いの武具を纏った白骨死体だった。

 

 魔族さんは着々とトラップ造りの腕を磨いているらしかった。

 

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