100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

42話 到着。魔王の城

 辺りは凍える程に冷え込み、季節はすっかり冬になっていた。

「皆、本当にありがとうね」

「何回目だよ兄貴、あと何回それ言うの?」

「本当にもう、勇者様ったら……」

「だって本当に嬉しかったんだもん。ねえ、チューしていい? チュー」

「我が身を護りたまえ《ウォール》」

「あ……お嬢ちゃん、魔法使ってまで防御されると結構辛いな……」

 でも、くそう。このぐらいやられないとゾクゾクしなくなってきてる……。

「ごめんごめん冗談だって! 皆の気持ちが本当に嬉しかったから……本当にありがとう」

 何度もお礼の言葉を口にする俺に、少年とお嬢ちゃんは肩を竦めて笑う。

「おっ、あれじゃないか? あの見るからに悪そうな城。外壁も血色が悪そうじゃ、紫の死人みたいな色をしておるのう、あんな城に正気の人間は住めんな、あそこに住めるのはまさしく魔族や魔王と言った連中だけじゃろう」

「そうだね。あそこが大魔王マオが住む城だ」

「大魔王マオ……何か妙に気持ちのいい名前だね」

「ふむ。大魔王マオ、ダイマオウマオ、大魔王馬男だいまおううまおつい何度も口に出してしまうのう」

「馬男って村長様……それただの配下のケンタウロスじゃないですか……」

 超レアな、お嬢ちゃんのツッコミが決まった。

「おおう! そうじゃなあ! 魔王は一番偉いのに配下のモンスターにしてしまっては悪いのう。魔王に謝らねばいかん。ん? マオに? マオウに? ウマオに? あれ、誰じゃっけ? 真央に? 真央って誰じゃっけ? お嬢さんの名前じゃっけ? 婆さんの名前じゃっけ? ワシ店長じゃっけ?」

「何屋の店長になったんだ……。そして魔王ループに嵌まるな。誰かと同じ事してんじゃん」

 まったくもう……。

「兄貴! 入り口はここかな?」

「ああ、そこだそこだ。でもまだ入るなよ? 入る前に作戦会議だ」

 俺はいつものように円陣を組んで、地面に簡単なイラストを書いて主に戦闘に関する細かい作戦を伝えた。

「今までより兄貴とおじいちゃんが左右に広がって更に前に出て、僕等は今まで通りの後方位置からの支援だね」

「そうださすがに、ここのモンスターはかなり強い。俺と村長だけだと複数の敵に遭遇した際に手が回らなくなる場合が出てくる。そうなると正直キツいから少年とお嬢ちゃんの助けが必要になる、お嬢ちゃんのサポート魔法での戦闘能力値上昇に加えて、少年のスピードを活かした撹乱作戦、それに村長の強烈な魔法攻撃、皆の、仲間との連携が必要だ」

「ふむふむ、今までより更に広範囲に気を配る必要がある訳じゃな」

「そう。俺と村長は後ろの二人をカバーしながら戦うから、今までよりも行ったり来たりが大変だよ」

「分かりました。全力でサポート致します」
 
「あと、HPとか全回復してるか確認しておこう。ステータス!」

――――――――――

 勇猛

 Lv     99
 HP     999/999
 MP     99/99

 職業 コメディアン勇者
 装備 エックスカリバー
    旅人の服
    旅人の靴
 お金 0G
 状態 とっても嬉しい気分



世界を創造せし悠久の賢者ガウスの子孫そんちょう

 Lv     77
 HP     373/373
 MP    ズボボダガガたすけてププジジザザ
 職業 村長
 装備 最長老の杖 
    守りのクリスタル 
    水仙人のローブ
    水仙人の靴
    水仙人のバンダナ
 お金 0G
 状態 腰痛(弱)

 
 少年

 Lv     70
 HP     515/515
 MP     19/19
 職業 学生
 装備 星屑の正義剣スターダストジャスティス
    水竜の胸当て 
    水竜の靴
    水竜の盾
    水竜の髭
 お金 0G
 状態 厨三病


 お嬢ちゃん

 Lv     68
 HP     388/388
 MP     997/999
 職業 木こりの娘、兼ヒステリー
 装備 星降る英知の杖ヒステリックロッド
    水姫の羽衣 
    水姫の靴
    水姫のストール
    水姫の鏡
    木こりの守り
 お金 1030944G
 状態 お金持ち

――――――――――

「……コメディアン勇者って」

    そのうち勇者でもなくなるかも……。

 しかし相変わらずクセの凄いステータス画面だな。完全にバグってるだろ……。

「うわあ! おじいちゃんのステータス怖い!」

「復活の呪文みたいですね……」

 お? 知ってるんだ……お嬢ちゃん。スケペイさんの影響かな?

「ああ……。村長のステータスに関しては何も言うな、もう手遅れで手がつけられん、無法地帯だ」

「でも、だって!『たすけて』って書いてあるよ!?」

「ああ? 助けて? どこに? 誰が助けを求めてる?」

「本当だわ……。よく見ると確かに書いてある、誰のメッセージなのかしら」

「おお? ホッホッホッ! 確かに書いてあるのう。じゃが、たまたまじゃないか? 前後の文字も意味不明じゃし」

「もしかしてガウス様とか……」

「お嬢ちゃん、それはないだろう……だってもう何百年も、何千年も? 前の人間だろう?」

「ですが村長様の名前のルビには《悠久の賢者》とあります。悠久とは果てしなく続くとか、永久に永遠にって意味ですから。それにガウス様なら肉体が滅んだ後も自身を思念体にして、世界を見守る事も可能なのではないでしょうか?」

 むう。流石お嬢ちゃん、鋭い観察力と説得力のある意見だ、否が応でも納得してしまう。

「でも、例えガウス様だったとしても何で『たすけて』なんだ? なにかしらのピンチに陥っているのか?」

「それは私にも……村長様はとてもお元気ですし」

「ずっとずっと、生きてきて疲れちゃったとか?『ワシもう無理じゃー、嫌じゃー』みたいな」

 以外にも少年によるガウス様の物真似は面白いものだった。(当然似ているのかどうかは分からないが)

「ふむ。それについては答えは出らんじゃろう。この際《たまたまそうなった》でいいのではないか? 別に困る事もないじゃろう?」

「そうだな。村長の言う通り細かい事は気にするな、だ」

「でも、本当にステータス画面って面白いよね。毎回見るのが楽しみだもん」

「そうね。私も密かに楽しみにしてた、見る度についつい笑っちゃう」

「ホッホッホッ! 皆の成長を表す、アルバムみたいなもんじゃからのう」

「でも、本当はもっとシンプルで何の面白みもないんだぜ? 今回が、このパーティーだけが特殊で面白いんだ」

「そうなの?」

「ああ!」

 結局、俺達は魔王の城の前で最後の作戦会議を約二時間に渡り、じっくりと大爆笑しながら行ったのだった。

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