100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

37話 繋がるなにか

 お使いから帰った俺は、ゴブリン保護の為に別の場所で修行するように提案し、皆も快く納得してくれた。

 毒泉場を後にした俺達は水の都ベネツィのすぐ隣にある盗賊の森へと来ていた。と言っても今回は特別な用がある訳ではなく、森を抜ける為に森の中を歩いていた。

 以前、訪れた時とは違い辺りには、斧が木の幹に食い込む音、注意喚起を叫ぶ声、何本もの小枝が弾ける音、倒れた木が大地を激しく叩く音、ノコギリが幹を削り取る音、それら木こり達の仕事の音が木霊して騒がしかった。お嬢ちゃんは目を閉じて、それらの音に聞き入っていた。この森を離れてまだ二週間くらいだがどこか懐かしく感じるのかも知れない、あるいは寂しいとか。だから俺は聞いてみた。

「お父さん、会ってく?」

 お嬢ちゃんは少し驚いた表情をしてから、視線を足元に落として何かを考えるようにしてから、やがて顔を上げ、

「……遠くから、ちょっとだけ」

 そう言って、上目遣いで俺を見る。

「うんっ、じゃあ行こう!」

 そして俺達はお嬢ちゃんに先導してもらい森の中を歩き始めた。獣道を草木を掻き分け向かう途中で、お嬢ちゃんが教えてくれた事だけど木こり達の中にはグループがあって、スケペイさんのグループは基本的に森の中央周辺で仕事をするらしく、俺達はスケペイさんがいるという森の中央へと向かった。

 森の中央に向かっている最中でお嬢ちゃんが急に立ち止まった。何かあったのかとお嬢ちゃんの顔をのぞき込むと、お嬢ちゃんは静かに目を閉じてなにやら集中しているらしかった。

 暫くの間そうしていたが何かに納得いったのか、やがてまた歩き出した。だが今まで歩いていた獣道から少し左に逸れた草むらの方へ進路を変更し、膝の高さくらいの雑草を踏みつけながら慎重に歩を進める。木々の仄かに香る甘い匂いに、青臭い匂いが混ざりあう。

「何で獣道から逸れたの?」

「お父さんは今日こっちにいるみたい」

「ん? 何でわかるの?」

「音で分かるんです、ノコギリとか斧の音……リズムっていうのかな、お父さんのリズム」

 そう言われて注意深く聞いてみたけれど、どれも同じに聞こえて全然分からなかった。

「おじいちゃん分かる? 僕、全部同じだと思う……」

「いんや、さっぱり分からんのう! 幼い頃からずっと聞いておったお嬢さんにしか、分からんのではないか?」

「この……トンテンカカカン! じゃね? 何かそんな気がする。ね!? お嬢ちゃん当たりでしょ?」

「全然違います。ほら、今の。あっ、また。トテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテン! って方です」

「ねえよ! そんな音!」

「バレました?」

 ちょいちょいボケ入れてくるんだよな……。

「あっ――」

 草むらを少し歩いた所で再びお嬢ちゃんの足が止まった。

 お嬢ちゃんの視線の先にある大きな木を取り囲むように、数人の木こり達が集まっていた。その木こり達の中で圧倒的な存在感を放つ見るからにベテランの木こりにお嬢ちゃんの視線は釘付けになっていた。

「ちげえよアホ! ノミで木を切り倒すのか!? ああ、お前そこは危ない。枝が飛んでくっぞ! もっと左に立て。こらこら、お前達は二人で同じ木に登ってどうやってロープ渡すんだ? 登る時に気付けよ……。だーかーらー! この作業はノミじゃねえだろ? あ? 大きさ変えたって切れやしねえよ! おおうっ!? お前……斧は木を叩く物じゃねえぞ!? 何で平らな所で叩こうと思った? 奇跡かお前! 普通、歯が付いた方だろう……ったく、どうしようもねえなお前達は! だっはははははははは!」

 ベテランの木こりの大声に慌ただしく作業を進める若手の木こり達。そんな弟子達を見守るベテランのその後ろ姿は紛れもなくスケペイさんだった。

 弟子達にげきを飛ばし、時に笑い転げ、和気あいあいと仕事をこなすその姿を見て満足したのか『行きましょう』と言い出したお嬢ちゃん。

「会わなくていいの?」

「いいんです。仕事中に話し掛けると、すごく機嫌が悪くなって怒鳴ったりするんです」

「へえ……。でも、会えば喜ぶと思うけどな」

 お嬢ちゃんに促され、歩き出そうとした瞬間。

――スケペイさんが右手を上げて手を振った。

 お嬢ちゃんはそれを見て顔を真っ赤にして、先に歩いて行ってしまった。

 少年と村長も慌ててお嬢ちゃんの後を追っていき、一人残された俺は暫くの間スケペイさんの背中を見つめて、全てを理解する。

『仕事中に話し掛けると怒鳴るんです』という事は、今よりもずっとずっと幼い頃からお嬢ちゃんは見ていたのだ、スケペイさんの働く姿を――

 そしてスケペイさんもまた見ていたのだ、幼い頃から仕事を覗きに来ていたお嬢ちゃんを――

 なるほど。

 そういう事か、『お父さんのリズム』も。お嬢ちゃん、いや。あの親子にしか分からない特別な何かがあるんだろう。

 俺はスケペイさんに背を向け歩き出す、耳に心地よい木こり達の奏でるメロディーを聞きながら。

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