100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

36話 絶滅危惧種

「はあ……はあ……はあ」

 俺は大量の薬草を抱えて草原を走っていた。

「確かこの辺りだったと思うけれど……皆どこいった?」

 まさかドーグさんと同じで謎の失踪を遂げたとか……。

《モンスターが現れていた!》

 現れて? 初めて聞いたぞ……そんなナレーション。

 突然の出来事に狼狽していたが、ふと草原の中に皆の姿を発見する。

「おっ! いたいた! 何だ。寝てるのか?」

 しかしよく見ると、ゴブリンの群れが皆を取り囲むようにしており、今まさにゴブリンが自慢の角で皆を串刺しにしようと一斉に飛びかかっている最中だった。

「お……おいっ! お前等っ!」

 飛び掛かったゴブリン達が一斉に吹き飛ばされる。

 お馴染み、村長の光のヴェールである。

「あ、すげえ。光のヴェールってシェア出来るんだ。へえ……」

 俺は新たな発見につい感心してしまったが、気持ちを切り替えすぐさま駆け寄り武器を構えたが、思いとどまり武器を下ろしゴブリン達を追い払おうと躍起になる。

「こらっ! お前等あっちいけ! 止めろって!」

 絶滅するかもしれない貴重なゴブリン数匹を退治する事も出来ずに悪戦苦闘していたが、ふとお嬢ちゃんの寝顔が目にとまる、横向で背中を丸めて眠るその姿を見て。

「うわ……あ……。可愛い……子猫じゃん」

 いつもの、つんっとした表情はどこかへ消え去り穏やかで、愛くるしく、幼さがいつもよりも際立って見てとれるその寝顔は、母性本能を否応無しに駆り立てられ護りたいという気持ちが芽生える。しかし、護りたいという気持ちはしだいに近くで見たい、という気持ちに変化し、更には触れたいという気持ちに変化し、最終的にはチューしたいという気持ちに変化した。

「ちゅっ――。くらいなら大丈夫かな? ぶっ殺されるかな? しかし幸せの絶頂を味わって死ぬのなら……いやいやいや! 待て待て俺! 幸せの絶頂で死んだらとんでもない仕打ちを受けたじゃないか! もう忘れたのか!? あの、屈辱的なケーキやカフェオレの味を! でも、それでも……」

 頭を抱えて葛藤する俺の事など気にも止めずにゴブリン達は、俺に標的を変えて襲ってくる。

「だああ! もうっ! うざいって! 俺、Lv99の勇者だぞ? お前等、俺に勝てそうか!? こういう時は戦力差にビビって逃げるのが普通だろ!? ほらっ見逃してやるから逃げろ!」

 ゴブリン達は必死になって、俺に攻撃を続ける。数匹涙目になっていたのを俺は見逃さなかった。が、圧倒的な戦力差があれど自慢の角で刺されるのは、以外と痛くて――。

「もうっ! 地味に痛い!」

――――――手が出てしまった。

 と言っても、素手で叩いた程度だ。

「ガッ……」

 クリティカルヒットしたのか、ゴブリンがその場に倒れて痙攣し始める。

「あっ!? ごめん、キュア!」

 モンスターに回復魔法使うのは始めての経験だ。なんか複雑……。

「ギャア!」

 元気になったゴブリンが攻撃を再開する。身体チクチクして、すげえムカつく。回復してやった恩を忘れたか!

 気を紛らわせる為に、お嬢ちゃんの寝顔を見て癒される。

「スケペイさん幸せ者だな、毎日この寝顔見て、癒されてたんだろうなあ」

 あっ……でも、彼氏とか連れて来たら……。やっべ、考えただけで胃を貫通して、背中まで穴開きそう。頭の中で彼氏を滅ぼす手順が着々と決まっていく……最も酷たらしい方法が。

 暴走する思考を無理やり抑え込んで。

「撫でるくらいならギリギリOKかな……?」

 お嬢ちゃんの寝顔に手を伸ばした、その時。

 村長の頭部をついには浮かせつつあった巨大な、はなちょうちんが突如として破裂した。

 破裂音が辺りに響き渡りお嬢ちゃんの目が一瞬で開いた。

 驚いた俺の視線と寝起きのお嬢ちゃんの視線が絡み合う。

「おおお……。寝てしもうたか」

 村長がゆっくりと上体を起こす、お嬢ちゃんも同時に上体を起こした。視線はやはり俺を見たままだった。しかし、いまだ眠り続ける少年もなぜか起き上がった。眠ったままだからか、首が左斜め後ろの嫌な方へ曲がっている。

「えっ!? 連動もするの!?」

 村長があくびをしながら、両手を上げて伸びをする。お嬢ちゃんはあくびこそしなかったが、やはり村長と同じく両手を上げ、少年も両手を上げていた。が、少年は寝たままなので何と言うか、脱力状態の操り人形のような気味悪さがあった。

「もう……なによ……」

 お嬢ちゃんは明らかな怒気を孕み、そう呟くと杖でゴブリン達を全滅させた。

《戦闘に勝利した!》

「ええ!? 退治しちゃった! 絶滅するとか言ってたじゃん! だから俺、何とか追い払おうと――」

「だって……うるさいんだもん」


 ――――うるさいんだもん


 種が滅ぶ理由は意外にもそんな些細な理由なのかも知れない。と、痛感させられた。




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