100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

32話 失われし大いなる力《召喚魔法》

 村長様の劇的な大進化を目の当たりにして、俺は一人困惑していた。

「えっ……えっ? うちってさぁ、他では流行ってるチートとかさ……無かったよね? インチキ無しでやる。それが売りだったよね? 一般市民を応援して、互いに成長していくっていう物語じゃなかったっけ……? そしてこの状況さ、もう勇者いらなくね? 村長様一人で魔王の城の外から魔法ぶち込めば、それで終わりじゃね?」

――――――簡単じゃね? 

「さっきから何を一人でブツブツと言っておるんじゃ? 勇者殿、ちと変じゃぞ?」

「え? ああ……はい」 

 村長様は、随分と変ですけどね……。

 助けを求める様に少年とお嬢ちゃんの方を見る。

「「えいっ! このお!」」

 二人は二人で攻撃が通用しない事が納得いかないようで、何度も何度も村長様の後頭部に武器を振り下ろしていた。やがて……。

「「…………」」

 二人は肩を竦めて『なんなのこれ、聞いてないよ』とか『本当ね、話が違うじゃない』と言いたげな顔でこちらを見るのだ。

「ホッホッホッ! ずいぶん元気な少年とお嬢さんじゃ、勇者殿も二人を見習わんといかんぞい。あ、そうじゃ。凄いものを見せてあげよう」

 村長はその場で両手を広げ目を閉じて何やら集中しているようだった。すると右手に持つ杖から水の龍が現れ、杖の少し上の空間でピタリと止まり、こちらを凍てつくような強い視線で睨み付けていた。

 また、広げた左手からは炎の鳥が現れて村長様の手のひらの上にピタリと止まり、こちらに高貴な鋭い視線を送っていた。

 村長様はそのまま両手を空に掲げるようにすると、二匹は空に舞い上がりやがてぶつかり合い激しい光を放ったのち、今まで見た事もない程に光輝く宝石のような色とりどりの無数の星屑となって、大空を隙間無く埋め尽くした。さっきまでの清々しい程の青空が一変し、一瞬で満点の星空へと変わり俺達の心を奪い去った。

 星空を見上げ心を奪われていると、無数の星達がゆらゆらと自分達めがけて降ってきた。俺はそっと手を伸ばし星屑を受け止めると、指先で弾けてふわりと消えた。星屑達は大地を次々と彩り、染め上げ、幻想的な景色を作り出し足元に広がる毒の泉も今となっては、その毒素が抜けたように星屑達を全身で受け止め着飾っていた。気が付けば俺は村長様と少年とお嬢ちゃんの手を取り円になって、星降る幻想的な光景をいつまでも、いつまでも見上げていた。





 村長様の作り出した幻想的な星降る宝石の世界も終わり、皆の意識は一気に現実世界へと引き戻された。

「すごかったねえ! 僕、あんなの始めて見たよ」

「ええ、本当に。言葉を失うってああいう事をいうんでしょうね」

「満足して貰えたようじゃな、ホッホッホッ!」

「村長様? 先程のあれはいったい……?」

「ん? 知らん」

「知らんって……」

「なんとなくイメージして、やってみたら出来たんじゃ。それで凄く綺麗じゃったから勇者殿が帰ってきたら見せてあげようと思ってのう、ホッホッホッ!」

――――――あれは間違いなく生命体だった。

 現象を起こす魔法ではなく、生命体そのものを作り出したあれは……?

 こんな伝説がある。かの大賢者ガウスは五匹の神の使いと呼ばれる聖獣達を従えて世界に水を、火を、風を、土を、雷を生み出し育んだと。

 まさかその聖獣だろうか? 聖獣なんだろうな、きっと。

    もう驚きはしないぜ。だとしたら。

「村長様?」

「なんじゃ?」

「さっきの奴は今ので最後にしましょう」

「えー!? あんなに綺麗なのに!? 勇者殿は気に入らんかったか?」

「いえ、とてつもなく綺麗で何度でも繰り返し見ていたいんですけれど……あれは大変危険な行為だと思います」

「危険とな?」

「あれは恐らくですが……遥かな太古に途絶えた《召喚魔法》ではないでしょうか? 村長様のご先祖様が使っていたものと同じかと。だとするとあれは世界を壊す事も、再生させる事も出来てしまう力だという事です」

『ほほう』と目を輝かせて俺の顔を覗き込む村長様。

「ですので仮に何かの間違いで、山とか大地とかに直撃してしまうと魔王も、人間も、大地さえも消えてしまうかも知れません」

「なんと、なんと……」

「ですので大変残念ですが、今後一切の使用は控えて下さい」

「仕方ないのう……あんなに綺麗なのに残念じゃ。ん? という事はあの日、ゴブリンに向けて使わなくて大正解という事じゃな? 危うく世界を滅ぼした魔王になる所じゃったわい、ホッホッホッ!」

 今さらっと、とんでもないこと言ったよ村長様……。知らない間に世界が滅びかけてたよっ!

 まとめると村長様はとんでもなく、ぶっ飛んだ存在になったと言う事か。チートは無しってルールの物語だったんだけど、村長様の能力はチートになるんだろうか? 

 でもよく考えると大賢者の遺伝子を引き継いでいただけで今まで普通に村長やってて、スライムと戦ってあっさり負けて、それでも諦めずに自らの努力でその才能を引き出し開花させたのは、あくまで村長様の頑張りによるところだ。

 だとすると、これはチートとは違うだろう。村長様は努力して相応の力を手に入れただけにすぎない。良かった。物語の根底が崩れたのかと思っていたけれど、そうじゃなかったんだ。

――友情、努力、勝利! 物語を熱くするのは、やはりいつの時代も人間の人間による人間臭さなのかも知れない。

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