100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

29話 ただいま、

 毒泉場、毒々しく毒が湧き出る毒の泉。全てを腐らせ全てを朽ちさせる《生》とはおよそ無縁の世界。

 毒泉場のほとり、鼻の奥をつん――と刺すような刺激臭が辺りに漂っている。少年とお嬢ちゃんは顔をしかめて鼻をつまむ。

「鼻が痛い……」

「痛いし臭いわ……私もう帰える」

「気持ちは分かるが我慢してくれ。ここにいる筈なんだ村長は」

「うん……でもさあ兄貴。この匂いをずっと嗅いでたら毒になったりしないの?」

「それはさすがに大丈夫だ。だが、触れたら即アウトだな。だから間違っても触らないように――」

「えいっ!」

 可愛く『えいっ!』とか言いながら毒を塗り付けてくる仲間が過去にいただろうか? 答えはNOだ。いてたまるか、そんな奴。だが現実問題、目の前にいるこの少年はやりやがった。

 頭痛、吐き気、めまい、倦怠感、脱力感、喪失感が俺を襲い蝕んでいく。今想えばこの毒状態も懐かしいものだ、今回転生した直後から毒状態で始まって死にかけて、ドーグさんに助けられて……何で過去の回想なんて始めてるんだ俺は! まるで最終回みたいじゃあないか。……まさか最終回へ向けての伏線だろうか?

 俺は気持ちを切り替えて手早く毒消し草で解毒する。さっきまでの気分が嘘のように一転し爽やかさに包まれる。俺はケラケラと笑う少年を横目に捉えて、少年と同じ様に枝に毒液を付けて少年の方に向ける。

「ほーら付けちゃうぞー」

「……ちっ!……」

 え……舌打ち? 逆ギレ!? 凄いな、天真爛漫が過ぎる。

 本当にもう……ゾクゾクするぜ。

 少年が怒ったので仕方なく枝を泉に捨てて、改めて村長を捜す。

 怪しくかかった霧の向こう側に人影らしきものを発見し目を凝らして見る。人影らしきものは一切動く事なく、その場に留まっている。
 
「んん? あれは……木の影か?」
 
 俺が凝視していると、すっかり機嫌の直った少年が近寄ってきた。

「どれどれ? んー分かんないな。動かないし、木じゃない?」

「いえ、あれは人よ。間違いない」

 突如として、お嬢ちゃんが断言してきた。

 俺達はお嬢ちゃんの言葉を信じて、もう少し近寄ってみる事にした。

 距離を縮めた事で明らかになった人影の正体。それはすっかりくたびれた衣服に身を包み、勇猛果敢にゴブリンを待つ一人の老人だった。大地をしっかりと踏みしめて立つその姿は凛としていて、只ならぬ存在感を放っていた。

 見た目は逞しく以前のそれとは大きく違っていたが、村長独特のリズム感、和やかさ、柔らかさのある仕草は少しも変わっておらず見るものを安心させる不思議な何かがあった。

 そんな村長を見て、安心感や疲労感や達成感のような色々な感情が大波のように押し寄せて俺の胸を激しく揺り動かした。気が付けば俺の両の目からは大粒の涙が零れていた。

「そんっ……そ……」

 だめだ、言葉が出て来ない。……なに泣いてんだ俺は、やっと、やっと会えたのに!

 俺が声を掛けられずにいると。

「……勇者殿? おお、勇者殿! まさしく勇者殿じゃ! 見違えたぞ、ホッホッホッ!」

「……ただいま。村長」

 村長は両手を広げて俺を迎えてくれて、力強く抱きしめて、いつのもようにホッホッホッ! と笑うのだった、そして。

「待ちかねたぞい、勇者殿。変わりはないかの? 風邪は引いておらんか? 食事はちゃんと食べておったかの? 危険な目に会わんかったか? 寂しくなかったか? それから……」

「村長、質問ばっかり……。俺も子供じゃないんだから大丈夫だよ」

 俺の言葉に面を食らったような顔をして。

「ふむ。それもそうじゃの、ホッホッホッ! まあ、年寄りの老婆心とでも思っておくれ。ん? ワシは爺さんじゃから老爺心かのう? ホッホッホッ! まあ、ええわい」

 村長の爺ギャグも以前のまま健在だ、良かった安心する。

「――して、勇者殿。そちらの二人は?」

 そうだった、感動の再開ですっかり忘れてた。

「買い出しの時に出会った新しい仲間の、少年とお嬢ちゃんだよ」

「なんとっ!? 新しい仲間じゃと!? 勇者殿だけではなく、新たな仲間まで加わるとは……そうかそうか、これから楽しくなりそうじゃなあ。よろしく頼むよ、少年とお嬢さん」

「はっ、はい! よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。村長様」

 二人は緊張気味で村長に挨拶を済ませた。と、そこで。

「――むっ!」

《モンスターが現れた!》

 突然の事に驚き少年とお嬢ちゃんはパニック状態に陥り慌てふためいていたが、村長は一切モンスターから視線を逸らさずに二人に語りかける。

「モンスターから常に視線を逸らさず、ワシの後ろに隠れていなさい。大丈夫、ワシと勇者殿がついておる」

 その言葉に安心したのか、

「「はいっ!」」

 と、口を揃えて応える二人だった。

 4人パーティ初めてのバトルが今始まる!


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