100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

22話 そういう仕組みだったのか……

 半透明。手の輪郭が薄れ、色が薄れ、存在が薄れている。腕越しに見える世界は極普通の当たり前の世界であり当たり前の日常である。半透明になった俺の手だけが異常なのである。頭をフル回転し理解しようと試みる、どうなったのか考えるより実際に見た方が早かった。答えは気持ちがいいくらいに身体に顕著に現れていた。

 手だけじゃなく上半身や下半身までもが半透明だったのだ。と言うことは、頭部もやはり半透明なのだろう。つまり全身が半透明になっている、という事なのだ。だったら答えは一つだ。今、俺は幽体であり魂の状態であり、つまりは――死んでいる。判ってしまうと突然恐ろしくなって血の気が引いた。いや、引く血さえもないのか……。じゃあ、と思い下にある闇の世界に戻ってみると当然といえば当然なのだが俺の身体が横たわっていた。ようは闇の世界とは棺桶の中だったのだ、そこで『うわあこんな感じなんだ、自分が他人みたいに見えて気持ち悪い』と素直に心から思って、一刻も早く棺桶の中から逃げ出した。

 棺桶の上に浮かんで考える、しかししかししかし。俺の思考回路は、おおよそ3周廻って冷静で死亡状態の仕組みを考えていた。つまりは蘇生出来る死亡と出来ない死亡だ。どうなれば、あるいはどう死ねば蘇生出来る死亡状態になるのだろう? と言うか、死亡ではなく瀕死の状態とか? 今まではモンスターなどに殺されたら蘇生出来るのかなって漠然と思っていたけれど、モンスターじゃなくても蘇生出来るんだろうか? 今回は味方からの攻撃で死んだ訳だけれども。何となく、感覚的に俺は生き返る事が出来ると確信していた。とりあえず自分の現状は理解出来たから、早く教会へ連れて行って貰おう。

 辺りを見渡すと可愛い子ちゃんが泣きながら必死に謝っていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! びっくりしちゃってつい手が出てしまって……本当にごめんなさい!」

「大丈夫だよ! 気にしないでお店のお姉ちゃん! 兄貴だから平気だよ」

「ええ、勇者様ですから平気ですよ。だから気にしないで下さい」

 俺への絶対的信頼度はどこからくるのだろうか? 信頼してくれるのは嬉しいが決して大丈夫ではないし、気にしないでいい筈がない。少しは責任を感じなさい、仲間が死んでるんだから。主人公死んでるんだから!

 などと言っていても意味はないので、早く教会で蘇生してもらわないと……俺は少年の近くに移動しようとする、が。見えない壁に阻まれた……空気の壁でもあるのだろうか? 進もうとしても確かな質量を持った見えない壁に押し返されてしまう。見えない壁を手で伝い棺桶を一周してみるが、どうやら棺桶の縁に沿って見えない壁があるようで棺桶の外には出られないようになっているようだ。棺桶のスペースから出られず、喋れず、見えない。どうやら俺のコミュニケーション方法は壊滅したようだ、こうなったら少年やお嬢ちゃんに全てを委ねるしかない。

(頼む少年! お嬢ちゃん! 一刻も早く俺を協会に連れていってくれ!)

 必死に念じてみるが……。

「お腹が空いてきたな……星屑の正義剣スターダストジャスティスもお腹が減ったよね?」

「あら? 星降る英知の杖ヒステリックロッドもお腹が減ったの? じゃあ、何か食べようか? そういえば近くにパンケーキが美味しいカフェがあったわね。僕はケーキとか甘いものは好き?」

「――しゅっ、しゅき!」

「すぐそこだから行きましょう」

 魂の叫びは、彼等には届かなかったらしい……。
 

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