100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

20話 幸せの代償

 最強の武器? を手に入れた俺達は当初の目的である《村長》の装備を購入する為、ベネツィきっての武器防具屋にきていた。

「いらっしゃいませ、本日はどういった商品をお探しでしょうか?」

 黒を基調としたフリフリ付きのエプロンがなんともたまらない、元気いっぱい若さが溢れまくりの、看板娘と思しき可愛い子ちゃんが出迎えてくれた。

「……おおう! まさに君みたいな子を探していたんだ! 君、今日の夜は暇? 良かったら今夜、俺の部屋に……」

 店内全体を揺るがす程の振動を生み出したその踏み込みは容赦なく俺の左足を捉え、床板と俺の足を木っ端みじんに呆気なく粉砕した。

「――あっ」

 可愛い子ちゃんの表情が一瞬にして固まる。

「……お嬢ちゃん。君は手加減や冗談とかって言葉を知らないのかね? 足、砕けたぜ?」

「手加減? 何それ?」

「……ははは。知らないならいいんだ」

 武器のせいなのか、お嬢ちゃんはとても危険な状態だ。(危険に晒されるのは俺ばかりだ)レベルが上がるまでは今後悪ふざけは止めようと密かに心に誓った俺だった。

「少年手を貸してくれ! 足を引き抜きたい」

 少年の手を借り足の付け根まで床に突き刺さった左足を慎重に引き抜いていく、ようやく足首辺りまで抜けかかったその時。

「えいっ!」

「――あっ」

 少年が急に手を離した。なので俺はまた最初の状態に逆戻り。

「「いえーい!」」

 少年とお嬢ちゃんは喜び勇んでハイタッチを交わす。

 ……何はしゃいでんだ。仲良いな! 楽しそうだな! 俺も交ぜろよ。

 二人のはしゃぎっぷりに触発されたのか、通りを挟んだ向かいの店からとてつもなくデカい声で『いええええええええええええええええええええええええええええええええええええい!』と聞こえてきた。

 街の外、あるいはスケペイさんの家まで聞こえたかも知れない大声だったが、通りを行く人々は何事も無かったかのように、歩を進める。 

「何だ、誰だあれ……」

 俺の呟きは誰の耳にも入る事は無く、宙を彷徨い消えていった。

「はあ……」

 俺は自力で足を引き抜き足についた木屑を手で払い落としていると、両の膝が突如として折れた、否。折られた。

――お嬢ちゃんによる《ひざカックン》である。

 一般的なそれとは大きく異なり物理的攻撃力を伴って放たれた一撃は、見事に俺の下半身の機能を奪いさり、俺の上半身は支えを失ってその場に崩れ落ちていく。その刹那、崩れ落ちる俺の身体に更なる追撃が襲う。

――少年だった。

 鞘こそしていたが例の細身の剣、スターダストなんとかの切っ先で右の肩辺りを突かれ、俺の身体は可愛い子ちゃんの胸元へと押し込まれる形となった。

 胸元へ顔からダイブして、ちゃっかり両手も腰の位置に回して上半身全てを使い可愛い子ちゃんを堪能する。していると、息つく間もなくやってきた鼻孔を駆け抜けていく柔らかな、優しさをも感じさせる良い香りが肺いっぱいに広がって、満たされて、俺は幸せの絶頂へと誘われる。

 本当に《この香り》は、なんなのだ。なぜ女の子はこんなにも魅力的な良い香りがするのだろう? だいたい同じ物を食べて同じような生活をしている筈なのに、何故こんなにも違う? 謎は深まるばかりだが、俺は決して諦めずに真実を解明する為、決死の想いでこの幸せの香りを身体中に、細胞の隅々に至るまで深く深く刻み込み香りの正体を検証していく。調べれば調べる程に理性が吹き飛びそうになるのは何故だろう? 

「あっ……もしかして……」

 心当たりがある。確か、天界で転生待ちをしている際に隣に並んでいた《皇帝》って人がこんな事を言っていた。

『俺さこの前、ロマンス佐賀2丁目って所に転生したんだけど女のボスキャラが酷い特技を使ってきてさー、これ食らうと男キャラが全員混乱状態になっちゃって、味方同士で攻撃しちゃったりしてまるで勝負になりゃしない。あれはちゃんと見切っておかないとダメなんだけど、分かってはいるんだけど……食らっちゃうよね。男って素敵だよね』

 そんな会話を交わしていた。これが《皇帝》って人が言ってた男の最大の弱点を突く、女の子の特技《テンプテーション》か!? なるほど、なるほど。謎は全て解けた。聞いていた以上に確かに恐ろしい技だ、このままでは確実に俺は逮捕されてしまうだろう。魔王を討伐する事も出来ずに牢屋へ入れられ、死刑に。そして俺の魂を消滅させるって算段か、可愛い顔してとんでもない事考えてやがるな。しかし、嫌いじゃないぜ!

 粗方の自問自答を終え納得の出来る答えが出た所で、俺の顔を目掛けて高速で向かってくる物体に気付いた。やれやれ、可愛い子ちゃんに抱き付いて、香りで満たされ、こんなにも幸せを噛みしめてから約3秒が経とうとしている。そろそろ夢の時間が終わり、現実に引き戻される頃合いなのだろう。束の間の幸せの、その#対価を支払わなければなるまい。

「きゃー!」

 可愛い子ちゃんの悲鳴が耳に入るのと同時ぐらいに、可愛い子ちゃんの右の掌が俺の左頬を捉え、身体ごと右方向に吹き飛ばす――筈だったのだが、俺の身体は最初の位置から動かない。可愛い子ちゃんの力を反対側から押し返す力が働いたのだ。

――お嬢ちゃんだった。

 後方からのビンタは俺の右頬を正確に捉えていた、二人のビンタに挟まれる形となった俺の顔面では、強力な力同士がぶつかり合い大爆発を起こしたように火花が散って、深刻な大ダメージを刻みつけ俺の視界はふっつりと閉じていった。


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