100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

19話 完成! 最強の武器?

 少年とお嬢ちゃんを新たに仲間に加えて俺はベネツィの街に戻ってきていた。

 そして今は例によって名物の人混み流れに身を投じている。緩やかな、それでいて逆らいがたい力強さを持った流れに身を任せてこんな事を切り出す。

「いやあ、今だから言うけどさ、少年があの本をお嬢ちゃんに渡したじゃん? 俺あの時、絶対お嬢ちゃん怒ったなって思ったよ! 絶対怒られるって覚悟してた! でも、全然怒ってなくて良かったよ」

「うん。僕も兄貴に言われて急に怖くなって凄いドキドキしてた」

「ああ……あれね、大丈夫。ドン引きしてるから、お父さんにも僕にも勇者様にも」

 なんてこった……俺もか。お嬢ちゃんの放った一言は俺達の胸にクリティカルヒットした。急に足取りが重くなった。

「そこ……左です」

 すっかり意気消沈の少年が言う。

 そのまま、ほぼ無言で少年の指示に従って歩く事約10分、あの男の仕事場に到着した。さすがは地元の人間だ、迷う事なくこれた。

 ゆっくりとドアを開けると、あの男は椅子に深く腰掛け一息ついていた。ちょうど作業が終わったのだろうか? かなり汗だくで、疲れきっていたが俺の顔を見るなり。

「おお! 待ちかねたぞ! 見てくれ俺の作った作品を!」

 テーブルの上に並べられた武器をじっくりと観察する、左から杖が二本、細身の剣、そして大、小二本の刀がある。今は静かにテーブルに横たわっているが内に秘めた力強さを肌で感じる事が出来る、それぞれの武器の中にバカでかいエネルギータンクがあって、エネルギーが今にも溢れ出しそうなのを外殻が悲鳴をあげながらも何とか押さえ込んでいる光景を無理やり想像させられる。

 俺は慎重に大、小二本の刀を手に取る。

 計り知れない力の塊が大波となって俺の全身に流れ込んでくる。油断するとその大波に飲み込まれそうになるように感じる。

「長い方がアンタが言ったように木刀を媒体にして作った武器だ、こいつは魔法の力を取り込み自らの攻撃力を高める事が出来る所謂、魔法剣って奴だ。で、短い方が光の星屑のみを使って作った武器だ、こっちは大抵の魔法を跳ね返す事が出来る。この二本の刀《エックスカリバー》は二本で一つだ、片方だけ持ってても真の力を発揮出来ないから気を付けろ」

 何かぎりっぎりな名前だな。

「しかし……今回の仕事は初めて取り入れた技法ばかりだったからかなり大変だったが納得のいく生涯最高の武器を作ることが出来た。礼を言うよ、ありがとう」

「さすがは魔界一の刀匠、名に恥じぬ仕上がりだ。大切に使わせて貰うよ、本当にありがとう!」

 俺は細身の剣を少年に、杖をお嬢ちゃんに手渡した。

「おお! 本物の剣だ! すごい、すごいぞ! そして軽い!」

「なに……これ……。頭の中に何か流れ込んで来る……これは知識?」

 二人も武器の持つただならぬ存在感、潜在能力に気付いたようだ。その様子を見て刀匠は満足げに言う。

「二人も武器に気に入られたようだな、武器が喜んでやがる。強力な武器は気難しい奴が多いから心配だったが安心したよ。相棒だと思って仲良くしてやってくれ」

「ああ! こちらこそ宜しくな!《星屑の正義剣スターダストジャスティス》!」

「よろしくね!    《星降る英知の杖ヒステリックロッド》!」

「ぬっ……。いったいどうした? 少年、お嬢ちゃん。様子が、というかネーミングセンスがおかしいぞ……」

 まあ、少年はステータスを見る限り厨二病らしいから普通なのかもしれないけれど、お嬢ちゃんはどう考えても変だろう。どうやったら《星降る英知の杖》にヒステリックロッドというルビが振られるのだろう。

「あはは! やめろよ、くすぐったいだろ。やめろって《星屑の正義剣スターダストジャスティス》あははは!」

「きゃっ! そんな所入らないの、さっ出ておいで《星降る英知の杖ヒステリックロッド》ほらっ! 怖くない、怖くない」

「違う!《銀河を統べる悪蛇神ギャラクシーサーペント》と《冥王星の見聞録プルートメモリーズ》だあああ!」

「お前もいったいどうした……」

 目の前の凄惨な状況が上手く伝わらないかもしれないけれど、武器をまるで恋人のように、あるいはペットのように、はたまた自分自身のように語りかけ、抱きしめ、口づけし、寝転がり、泣いたり、嘆いたり、喧嘩したり、二人はそれはそれは色濃い青春という言葉では決して表現出来ないような濃厚で濃密なヒューマンドラマを繰り広げていた。渋春というのだろうか?

「……おい、正気に戻れ。あの武器呪われてないか? 完全に精神取り込まれてるよね? あれ」

「うっ、いや……そんな筈は……おかしいな。ちょっと待て、説明書見てみる」

 ……何だよ説明書って、お前が作ったんだろ。

「えー……これだ!『この武器は大変強力なので取り扱いに十分注意して下さい。もしお肌に合わない時はレベルを少し上げてから再度試して下さい。お肌に異常がある時は、あぶないので近付かないで下さい』だそうだ!」

 お肌に合わないって……。 

「要するにまだレベルが低いから、武器に振り回されてるって感じなのか?」

「ああ、恐らく。……どうする? 消費者センターに連絡しとくか?」

「――ぷっ!」

 不覚にもちょっと笑っちまったじゃねえかよ。やるなこいつ。

「もういい、このまま連れてく。じゃあな! ありがとよ」

 俺はかなり陽気になった少年とお嬢ちゃんの手を引いて大通りに出た。

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