100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

17話 精霊の彫刻?

 少年が指差した方向――その先には。

 そこには洗練された部屋の装飾とはどうしても折り合いが付かないような非常に奇天烈、摩訶不思議な光景が孤立していた。それは大きなゴミ箱から大人の両脚だけが逆さまに覗いているというものであり、明らかに人の手によって施された芸術品のようだった。

「あれ……スケペイさん……?」

「違う! 絶対違う! そんな訳あるもんか、あれはお前……あれだよ、樹の精霊をモチーフにした木彫りの彫刻だよ、俺前に見たことあるもんっ!」

 納得出来ない様子の少年を無理やり説き伏せ、『お待たせー』っと運ばれてきたお茶に視線を落とす。

「なんだ……お菓子は無いのか……」

「黙りたまえよ、少年。失礼だろ」

 本当なに考えてんだこいつ。死にたいのか? こいつのペースに乗ってちゃダメだ、いつか殺される。早く話を進めよう。

「そ……それで? なにかお話でもあるのでしょうか? お嬢様?」

 聞きたくないけど早く楽になりたい、エロ本の事で殺されるのか、本当にただ招かれただけなのか。恐いけど知りたい、楽になりたい。もう胃が痛くて死にそう、死にたい。死にたくはないけど……。

「実は……お願いがあって……」

「ほ……ほっほう! お願いですと? それはまた珍しい! して、お願いとはいったいなんでありましょうかね?」

 緊張で変な口調になっちゃう……。

「私、見ての通り木こりの娘でお父さんは『跡継ぎになれ! 跡継ぎになれ!』っていつも言うんですけど……私には酒場を開きたいっていう夢があって、でもお店を開くための資金も全然無くて……」

 思い詰めたように言葉を紡ぐお嬢ちゃんの口調は重々しく、自分の夢と父親の願いが混ざり合って処理出来ずに悩みとして吐き出されている。当然自分の夢を叶えたいだろう、しかし育ててくれた親の頼みとあっては無下にする事も出来ない。決して折り合いが付かない事柄をなんとか形だけでも折り合いが付くように必死に頑張っている。優しいお嬢ちゃんだ。

「てめぇ……何でそれを言わねえ」

 精霊の彫刻から低く唸るような、あからさまな怒気を孕んだ声が聞こえて来た。

「夢があるなら何故追いかけねえ……。お前が望んだやりてえ事なんだろう? だったらやれよ! 何でこんな所でくすぶってやがる。お前それでも俺の娘かよ? だっせえ奴だな」

『根性見せやがれボケ!』と怒声が家中に響き渡り、お嬢ちゃんの身体に激しく叩きつけられる。

「でも……でも! お父さんの仕事もあるし、私。この家好きだし!」

「てめえの面倒もまともにみれねえ奴が人の心配してんじゃねえ! ガキに心配される程、落ちぶれてねえっての! あとな、早く家から……家から……出てけ! いつまで子供のつもりでいやがるんだ!」

 激しい言葉が飛び交う中、俺は少年を連れて家の外に出た。荒々しい言葉の中には互いを想う本音が見え隠れしていた、他人が立ち入るべきではないだろうと思っての事だ。

 俺は家の近くの広場で少年に剣の稽古を付けていた。時間にして約30分が経つ頃。

「さっさと、出ていけえええ!」

 今日一番の大声と共に家からお嬢ちゃんが飛び出し森の方へ走って行った。
 
 俺は少年にお嬢ちゃんを追うように言って、俺はスケペイさんの家に戻る事にした。

「お邪魔します。俺は猛と言います、あなたの本を返しに来た奴の連れです。さっきはいきなりだったんで、失礼ですがお二人の会話聞かせて貰いました」

 俺は精霊の彫刻に話しかける。

「うむ……」

「娘さんを応援したいんですね……。あなたの言葉にはそれが溢れていた、私に子供はいませんが、大切な人を想うその気持ちは私にもよくわかります」

「うむ……。俺も見ての通りぶっきらぼうな職人気質だから、あんなふうにしか言えん。それに……湿っぽい別れは……嫌いなんだよ」

「スケペイさん……」

「うむ……」

 スケペイさんは黙って何か考えていたが、やがて。

「初めてあった人間にこんな事頼むのも可笑しな話だが、あんたなら信用出来そうだ。あいつが夢に向かって歩けるように最後の背中の一押ししてくれねえか?」

「……分かりました」

 俺は精霊の彫刻のそばまで歩み寄り『引き抜きましょうか?』と訊ねる。

「いや……ズズッ……今はまずい。後で落ち着いたら……ズズッ……じ……自分で出る」
 
 感情が豊かな親子だな、本当にそっくりだ。

「ああ、そうだ……最後に伝言頼む」

「……どうぞ」

「いつでも帰って来いって、伝えてくれ」

「はい」

 俺はスケペイさんの家を出て澄み渡る空を仰ぎ見て思う。あのクソ親父も俺の事を心配したりするのだろうか? 

「ないない……絶対ない」

 不思議な確信が沸き立った所で俺はお嬢ちゃんと少年の後を追って走り出した。

 

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