100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

16話 親子喧嘩(修羅場)

 俺と少年は顔を見合わせ勇気を振り絞り茂みから出る。仕方のない事だが足が震える。

「あ……あのう……」

 少女は振り返り、はっとした表情で俺と少年の顔を交互に見てから小走りで俺の胸に飛び込んできた。

「うわあああん! 怖かったよう! いきなり怖い男の人……いっぱい……いっぱい出てきて……うわあああん!」

 ええー!? ちょ……何これ。何この子。何が始まったの、やめて! 普通に怖い!

「そ……そう。でも、無事で良かった。ほら……もう泣かないで」

「私、怖くて……本当に怖くて……殺されちゃうかと……思って。必死に鞭を振り回してたら、いつの間にか皆いなくなってて」

「ああ……そう、そうだね、よしよし……もう大丈夫だよ」

 少女の頭を撫でる俺の手は、かなり震えていて軽く叩いているような形になり生きている心地がしなかった。勘違いされちゃったら、あの鞭で……。

「……はあ、おかげで随分と落ち着きました。ありがとうございます」

 そう言って顔を上げた少女は遠目で見た時は幼く感じたが、こうして近くで見てみると意外と大人びていて村娘というよりは、どこか上流階級の貴族の娘のような品の良さがあり少女というよりもお嬢様と言った方がしっくりくる。

「お姉ちゃんは……ここで何してたの?」

 警戒のレベルを下げたのか少年がお嬢ちゃんに話しかける。

「私は家に帰る途中だったの……ここから少し先に行った所にある木こりの家がそうなんだけど」

 お? じゃあこのお嬢ちゃんは、あの書物の持ち主の……。

「なんだスケペイさんの家族なのか!? じゃあ、これをスケペイさんに返しておいてもらえないだろうか!?」

 少年は無邪気に笑って、至って当たり前にエロ本をお嬢ちゃんに手渡す。

 え……少年お前バカなの? 何で娘に、女の子にそれ渡す……怒ったらどうすんの? 殺されるよ? さっき一緒に見たろ?

 しかし予想に反してお嬢ちゃんは、にこにこと微笑んで『あっ! お父さんの本ね、わかった。じゃあ付いてきて』と言ってお嬢ちゃんは手招きをする。

 お嬢ちゃんと少年と暫く歩くと木こりの家が見えてきた。大きな木をくり抜いて、木そのものを家にしたようなお洒落な家だった。お嬢ちゃんは『家の中が散らかってるから先に行って片付けてくる! ちょっとそこで待ってて!』と言い残し家に入って行った。

 お嬢ちゃんが家の中に入って行くのを見届けて、残された少年と俺は家の近くでお嬢ちゃんが出てくるのを待っていた。

「本返したら他に用は無いんだけどなあ、お姉ちゃん何で待ってろっていったんだろ?」

「さあ……エロ本返却を頼んだ報いを受けさせるとか? 半端ないくらいボッコボコにされたりして」

「ええ!? 何で? ダメなの!?」

 ダメだろ、普通に考えて。最近じゃセクハラとか多いんだから、気を付けようね。

 などと他愛のない会話をしていると、森の生き物達が一斉に逃げ出すような戦慄の瞬間が訪れた。

「お父さんいい加減にしてって、いつも言ってるでしょ!? 街の人達にあんないやらしい本ばっかり貸し出して! 何考えてるの!?」

「ばっきゃろい! いいか? 男には、ああいうもんが定期的に必要なんだよ! よく考えろ? コップの中に水が溜まっていくだろ? な? そんでな? それがついにいっぱいになったらどうなる!? もうお終いだ! なんやかんやびしょ濡れになるだろうが! わかったか、こら! 理屈じゃねえんだよ! 男はよ! わかったらすっこんでろ!」

「何の話だこら! そんな男の事情なんて知らねえんだよ! 私が恥ずかしいからやめろって言ってんのが分かんねえのか!? くそ親父! ああ……もう……バカが、くそが、何回も言わせやがってハゲが! ヅラ頭があ!」

「かぶってねえ! 俺は決してかぶってねえぞ! ハゲでもねえ! 頭の爽快感を演出してるだけだ!」

「頭の喪失感の間違いだろうが! 危険な遺伝子残そうとしやがって、なめてんのか! お母さんの遺伝子だけ選んで産まれてくるの、すっげえ大変だったんだぞ!? 分かってんのかこのボケが!」

「てめっ! 鞭は卑怯……痛っ! い……痛い! だあああ!」

 2人の叫び声が激しく続いていたがやがて静かになり、入口のドアがゆっくりと開いた。

「2人共お待たせー! 片付いたからどうぞ入ってー!」

「「スケペイさん、片付けられたあぁぁ!」」

 完璧なまでに少年とハモっちゃった。

 これ完全にお父さん殺っちゃってるよ、お父さんの声止んだもん! 

「何やってるのー? 早く入って!」

 お嬢ちゃんこそ何殺やってるのー!? 次は俺達を殺やっちゃう気!? 

「……行こう……兄貴!」

 少年は俺を盾にして歩を進める。待てよ少年、落ち着け。俺はまだ死ぬ訳にはいかないんだ。

「ちょっ……押すなって! こら」

 少年に押し切られ俺達は、とうとう家の中へ。

「ゲームオーバーだな……村長、もうそちらへは帰れそうにありません。ごめんなさい」

「なにをブツブツ言ってるの。さ、そこに座って! 今お茶入れてくるから」

 案内されたテーブルに座る俺達。部屋の中を一通り見てみたが、結構すっきりとした部屋で必要な物が必要な分だけ置かれているといった感じで殺風景と言えば殺風景とも言えるが、しかし場所によっては花が飾られていたり、木製の彫刻が置かれていたりしてそこまで寂しい印象は無い。洗練されていると言うのだろうか?

 部屋の中を見ていると少年が俺の右肘辺りを引っ張る。どうかしたのかと少年の方を見てみると、なにやら指差している。

「兄貴……あれ……」

「ん……あれは?」
 
 とんでもないものが視界に飛び込んだ。

 

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