100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

14話 夢見る少年

 武器を作って貰ってる間に、あのお姉さんの所に行き《特別サービス》とはいったい何なのか、詳細を確認しなければいけない事を思い出し、先程の宿屋へ向かっていた。だが、路地を何度も右に左に曲がったので、来た道が分からなくなってしまい大通りさえ見つけられずにいた。

 路地をいくつか折れていい感じに迷子になり、すっかり涙目になった所で少し開けた場所に行き当たる。そこは居住区域の小さな公園のようで、広場の真ん中には陽の光を独占するように小振りの木が一本立っていて隅の方に小さなベンチが置かれているだけの簡素なものだった。

 そこに少年が一人で佇んでいた。

 年齢は12才くらいで綺麗に切り揃えられた黒髪からは活発な印象も、品の良さも感じられた。おそらくここらへんに住む子供なのだろうが一人で何をしているのだろう?  

 少年は木と対面し目を閉じている。

 俺は足音をたてずに移動し、木を間に挟む形で少年の正面に回り込む。

 腰に剣を模した木の棒が携えてある所を見ると剣士なのだろうか?

「…………」

 しばらく経っても反応が無いので、そばまで近寄って声をかける。

「あの……」

「――っ! 聞こえた! 木の精霊の声!」

 木の精霊? 少年はまだ目を閉じたままだが精霊と話をしていたのか? なんだかスピリチュアルな話だ。
 
「いや違うよ? 精霊の声じゃなくて、俺は――」

「やっぱり! 木の精なんだ! ハハハやったぞ!」

 少年はそう言って目蓋を開けて俺を見る。

「あれ? 何か普通だな、羽根とか生えて飛ぶんじゃないんだ」

と呟き、幻滅した様子だった。

 勘違いされたあげく、勝手に幻滅された俺は語気を強め少年を現実に引き戻す。

「俺は木の精霊じゃない! それはお前の気のせいだ!」

 うわ、自分で言って何か恥ずかしい。

 だが俺に指摘されて、ようやく状況を理解し照れる少年、なんなんだコイツ。

「で、何やってたんだ?」

「修行だよ。僕は将来この街を守る剣士になりたいんだ、でも今はまだ自警団へ入れてもらえないから一人で修行中なんだ」

「ほう……修行とな」

 どんな分野の話でも夢に向かって頑張る人は大好きだ、精一杯のお手伝いや応援をしたくなる。

「精神統一して耳を済ませば木の精霊とか風の精霊とかの声を聞いて力を借りられないかなって思ったんだ!」

 修行という事を考えれば、それ自体の方向性は決して間違っていない。しかし精神統一はどちらかというと魔法使いの分野であって剣の修行としては効率的ではない。

 剣士はやはり模擬刀を使った修行が一番効果的だろう、格上の相手と戦う事で得られるものは計り知れない程に大きい。そして俺もこう見えて勇者だし剣の扱いなら少しくらいは教えてあげられる事はあると思う。だから――

「俺って、こう見えて実は勇者やってるんだけどさ――」

「ええ!? ゆっ、勇者しゃま!? 本ちょに!?」

 そんなに驚く事? 文章凄い事になってるよ。

「俺でよければ、修行に付き合ってあげようか?」

 武器が出来るまでどうせ暇だし少しだけ修行に付き合ってやることにした。(特別サービスはその後ゆっくりと確認しよう)

「へえっ!? に、にいのっ!? 勇者しゃまと修行!?」

「興奮しすぎだろ……」

 というわけで、そのへんにあった枝を使って剣術を教える事にした。

「えいっ! はっ! やあ!」

 ふむ、筋は良い。一人で頑張ってきた事が剣筋にありありと現れている、しかしまだ荒っぽく拙い部分が見て取れる、剣術の試合で優勝は出来るだろうが相手がモンスターとなると話は別だ。中には胸を貫かれながらも反撃してくるタフネスさを持つモンスターもいる。そんなタフネスさは人間には無いものだ。

 俺は少年の枝を受けたり、受け流したり一方的に攻められる状況だったがここで反撃を試みる。

「ほいっ!」

「うわっ! あぶねっ!」

――避けられた。当てるつもりだったんだが……。もう一度試してみるも、またも避けられてしまった。ならばこれならどうだ?

「とりゃ!」

 俺は少年の突きを避けて左脇に挟む、そこから少年の頭めがけて右腕の枝を振り下ろした。攻撃を受けながらも反撃してくるモンスター、多くの戦士がやられる状況だ。さあ、どうする少年?

「――抜けないっ」

 結果、俺の放った攻撃は地面を抉った。少年は自分の剣が抜けないと判断するやいなや、すぐさま回避行動をとった。大正解の行動だった、しかも武器を無くした少年は素手による攻撃体勢に入っている。なんだこの少年、本能的に戦闘の心得を分かっている。この少年ひょっとすると……。

「よく避けられたな! さっきのでやられる剣士は結構多くいるんだぜ?」

「だって、当たったら痛い!」

「……まあ、痛いだろうね」

 ああ、なるほど。痛いのが嫌だから精一杯避けたのか……。

 しかし戦場でのかすり傷は命に関わる問題になりかねない。人間としての戦い方は《無傷で勝つ》が基本だ。

 そこで俺はこの少年に興味が湧いてしまった……悪い癖だ。

「なあ、少年」

「なに?」

「将来強い剣士になりたいんだろ? もしよかったら俺と一緒に旅に出ないか? 強くなる為の旅へ」
 
「――っ!? 勇者しゃまと旅に!? ハア……ハア……ハア……に、にくー!」

「だから興奮しすぎだっての………なんなのよ、この少年」

 こうして少年が新しい仲間に加わった。

《仇を討ちたい村長》
《強い剣士になりたい少年》

 なんだか、人生応援物語みたいな話になってきたけど大丈夫なのだろうか?

 まあ時間は腐るほどあるし……二人の夢を叶えてから、ゆっくりと魔王を退治しよう。

「さて……」

 どうやら100回目の勇者人生は今までにない全く新しいストーリーが開始しているようだ。

「こんな気持ちは久しぶりだな。なんだか、わくわくしてきたぜ」

 かったるいだけの勇者人生が一変して見えてきた、そんな秋の日の一日だった。

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