100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

11話 角を掴めばやりたい放題(後編)

 木々は枯れ果て大地は腐り大気までもが朽ちて荒んでいく。腐った大地からおぞましく湧き出た毒沼は触れたものは勿論、見たものの生気さえも絡め取り飲み込んで終局へと導くような負のオーラが漂っていた。

「気持ちを落ち着けて、決して目をそらさずに奴の角一点に意識を集中して、奴が動いた瞬間――掴め!」

「ほりゃりゃ!」

 村長の左手が、がっちりと掴んだその角の持ち主である一角ゴブリンが何とか村長の手から逃れようとジタバタと暴れる。

「ホ……ホッホッホッ!」

 思った通り村長の力の値は一角ゴブリンの力の値を上回っていた。

「勇者殿! やったぞ!」

「ギギギ……ギャギ……」

 一角ゴブリンは成長の過程で角に栄養をとられすぎるのか手足が非常に短い。なので角さえ掴んでしまえばゴブリンは、なす術がなくなるのだ。

「よしっ! 叩けぇぇぇ!」

「ホッホッホッ!」

 右手に握り締めた杖をゴブリン目掛けて叩きつける。連続攻撃、9回目の攻撃がゴブリンの身体を打った所でゴブリンは力尽きた。

「ホッホッホッ! 何とか退治出来たようじゃ。しかし9回も叩かねばならんととはのう……ちと難儀じゃ」

「一角ゴブリンはスライムと違ってかなり強い方の敵だから仕方ないよ。でもそれだけ見返りは大きい」

「ふうむ。ノーリスク、ノーリターンという奴じゃな?」

 なぜ何も無かった事になる……。というツッコミは、ここでは控えておこう。

 もうおじいちゃんだしね、仕方ないよね。

「…………」

「ん? 村長どうかした?」

「いや、さっきワシが言ったノーリスクの事なのじゃが……」

 しまった! さっきのはまさか、ボケてくれていたのか!? ボケをスルーするだなんて、ツッコミ担当として最低な真似をしてしまった!

「逆から読むとクスリーノになるんじゃなあ……」

「……うん」

「…………」

――だから何!? それ振りなの!? 

 何か薬屋さんのマスコットキャラクターの名前みたいだね。《皆の味方クスリーノ》

 軌道修正して、

 しかし冷静に状況を見てみると、随分と村長の体力が消耗しているように見える。暴れるゴブリンを押さえ込んでの連続攻撃は、やはり身体にかなりの負担があるらしい。

「大丈夫かい村長? 一角ゴブリンは強いから休憩を十分に挟みながら闘おう」

「ホッホッホッ! そうじゃな。急いては事を仕損じてしまうの」

 それから俺達はタイージュの村と毒泉場を往復する日々が続いた。そして今日は7日目の夕方。

「ホッホッホッ! ほりゃりゃ!」

「ギギャ……」

 辺り一面を朱色に染める夕日の中、毒が湧き毒々しく染まる毒泉場の片隅に一角ゴブリンを2回の攻撃で沈黙させる村長の姿がそこにはあった。

「村長、あれからもう一週間だ。一角ゴブリン退治にも随分余裕が出て来たな」

「ああ。生まれ変わったワシを止められるものは、もう魔王だけじゃろうな。がっはははは! なんなら今から魔王の城を落としてみせようかっ!? がっはははは!」

「急なキャラ変更をするな……」
 
 混乱を招くだろうが。

「ホッホッホッ! 冗談はさて置き、そうじゃのう、油断は出来んがかなりコツを掴んだようじゃ、スライム退治も楽しかったがゴブリン退治もまた違ったスリルがあってクセになるのうホッホッホッ!」

 声も高らかに軽快に笑う村長を見て俺はまたも思案する。そして村長にあることを切り出す。

「……村長、あの――」

「行っといで」

 話の出鼻を挫かれた。村長はにっこりと微笑んで俺を見つめる『言わんでも分かっておる、ワシの事は心配せずに行っておいで』と言いたげに右の親指をぐいと立てた。

「村長……」

 村長との付き合いはまだ短いけど四六時中ずっと一緒にいるせいか俺達の間には妙な感覚が芽生えていた。以心伝心とかテレパシー的な見えない力が作用して何となく互いの考えてる事が分かってしまう。

「でもあまり遅くならんでくれよ? 1人はやはり寂しいわい」

 俺は自分の首元を数回指差した。村長は何の事かと怪訝な表情を浮かべていたがやがて。

「ああ、そうか……婆さんが一緒じゃの」

 照れくさそうに頭を撫でる村長を見て。

「なるべく早く帰るけど、今回は少し遠い街まで行ってくるから……数日は帰れないと思う」

「じゃあ、次会う時にはびっくりするぐらい強くなって待っとるよ!」

「おお!? 俺も負けないぞ! じゃあ行ってくるよ!」

 俺は今後の冒険の準備を整える為に、ここよりずっと先にある水の都ベネツィを目指して走り出した。

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