100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

8話 村長(後編)

 大樹の木陰で初めて聞く村長の話、愚痴がどうとか言っていたが……。

「本当にいいのか? 勇者殿」

「いいさ、別に急ぐ旅でもないし……で?」

「ホッホッホッ! こんな老人の話を聞きたいとは物好きじゃのう」

 紅葉した大樹の葉が舞い落ち辺りを色鮮やかに染めて行く。

 村長は大樹を見上げて語り出した。

「婆さんの話じゃ。今年の春先にモンスターに襲われてしまってのう……見つけた時にはすでに……事切れておったんじゃ」

「村長……」

 悔しさを噛み殺すように村長は語る。

「突然の事で全く理解出来んかった、その場でただ立ち尽くし婆さんを呼んどった」

『返事は返って来んかったが』と、村長。

「婆さんの仇を討とうと何度、村の外に飛び出した事か。その度に村の人々に止められて、村の人々の目を盗み外に出たはいいが、実際出くわしたモンスターに怖じ気づいて結局何も出来ず村に逃げ帰って、情けないことに今日までこうして生きてしまっておる」

 大樹から視線を落とし握り拳を見つめる村長、その手からは乾いた音が零れ落ちる。 

「今は婆さんの形見のクリスタルと一緒にお迎えを待つだけの、なんとも情けない日々を送っておる」

 なんと、村長にそんな過去が。しかもあの守りのクリスタルは形見だったのか……今まで凄い悪い事をしていた。俺は罪滅ぼしと言うかなんと言うか思いつきである事を聞いてみる。

「村長……仇討ってみるか?」

「勇者殿……しかしワシは見ての通りの老骨じゃ、モンスターと戦うなど夢のまた夢じゃよ」

「俺に考えがある。ちょっと来てくれ!」

 俺は強引に村長の手を引き村の出口へ向かう。

 途中である事を思い出し青い屋根の小さな民家へと寄り道した。

 民家の中に入り奥にあるタンスを開けてクリスタルを取り出す。

「村長のかっこ良い所見せてやろうじゃねえか!」

 守りのクリスタルはネックレスタイプなので村長の首に掛けてやる。

「ホッホッホッ! 婆さんやワシをしっかりと見ていてくれや」

 準備は整い、俺は村の出口付近で小枝を拾い上げて地面に簡単な図形を書いた。

 スライムの絵と村長の絵を書いて、矢印を使ってスライムと村長の移動ルートを示す。

「スライムは絶対に前にしか飛び掛かってこないから村長は常に横に避ければいい。避けたらスライムの背後をとって……ひたすら叩く。これで勝ちだ」

「むう……確かに簡単そうに聞こえるが本当にワシに出来るんじゃろうか?」

「大丈夫だ、自分を信じろ村長!」

 不安を隠せない様子の村長だったが『今回は1人じゃない、俺がいるから』と言い決心をしてくれた。

 おおかたの説明を終えて村の近辺を歩く、するとすぐに《奴》が現れた。

《モンスターが現れた!》

 村長の表情に緊張が走り身体中が小刻みに震える。

 俺は村長の右後方に立ち、村長の右腕を掴んですぐに移動出来るように備える。

 スライムが牙を向いて村長に飛びかかった!

 村長は『ひっ!』とひらりと身をかわす。俺のサポートは必要なかったらしい。

 攻撃を見事にかわしスライムの後頭部に杖を連続で叩きつける。

 スライムは『ぐえ』と断末魔の声を漏らし倒れる。

《戦闘に勝利した!》

「や……やった! 婆さんや! ワシは遂にやったぞ!」

「な? スライムなら楽勝だろ?」

「勇者殿! 本当にありがとう! やっと婆さんの仇が討てたよ! ホッホッホッ!」

「良かったな村長! でも戦うのはスライムだけだぜ? 他のモンスターは強力で危険だ」

「うむ。油断は禁物じゃな」

「村長のステータスを見てみようか」

――――――――――

 村長

Lv     1
HP     5/5
MP     49/49
職業 村長
装備 長老の杖
お金 5G
状態 普通
――――――――――

「ホッホッホッ! これがワシのステータス……」

 実に興味深く自分のステータスを見つめる村長。

「MPが、ちと高い気がするのう」

「村長はもともと魔法使いのタイプなのかもな」

「じゃあ、ワシは魔法を使えるのか!? ホッホッホッ!」

「…………」

 俺は村長をじっと見つめ黙考する。

「村長、俺が今から言う事を復唱してみてくれ」

「ホッホッホッ! なんじゃ、なんじゃ?」

「火の精霊よ我が言葉に耳を傾けたまえ、我ここに汝に誓う、我ここに汝に願う。汝の猛る熱き力もて我が前の敵を焼き払え! ファイヤー!」

「火の精霊よ……ああ、汝が……ええ……」

「一番簡単な火炎魔法なんだけど、やっぱり呪文覚えられないか……」

「ホッホッホッ! 歳をとると覚えるのが難しくなってしまうからのう。仕方がない、魔法は諦めるか……」

 残念そうに肩を竦め歩き出す村長。

「さあ勇者殿! 今度は修行に付き合ってくだされ。魔王を倒さん事には本当に仇を討ったとは言えんじゃろう? ホッホッホッ!」

「ま……魔王って。おい村長!」

「日々精進あるのみじゃ!」

 こうして100回目の勇者人生は村長という新たな仲間を得て、これまでとは全く違う冒険が始まろうとしていたのだった。

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