100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

4話 ちょ……ひっぱらないでっ!

 村人は言う。

「顔が……紫色ですよ……?」

 そりゃそうだ。猛毒くらってんだから……あのクソ親父め!

「私の村はすぐそこなんです! 案内します、そこでゆっくり休んで下さい」

 村人は雑草を掻き分けて近づき、俺の手を取ると『早く早く!』と力強くひっぱる。

 俺は村人の手に引かれ一歩分前に進み……また。

「ぶへぁ!」

 大量の血を吐いた。

 やばい。マジでやばい。

 俺の吐いた鮮血を全身に浴び、村人は戦慄の表情を浮かべて後ずさる。

「ひ……ひゃあ~!」

「ごばっ! ぶふぉ! ばはぁ!」

 俺の口からほとばしる鮮血3連続。まさに出血大サービスだ。

――やめろ。……やめてくれ。

 驚くのは構わない。逃げるのも構わない。

――ただ。

 俺をひっぱらないでくれ……。

 一歩、歩く度にダメージを食らう例の奴だ。あれなんだ。

 吐血しまくる俺を見て、もはや錯乱状態の村人だったが一周回って少し冷静だったのか。

「あ、歩くと……歩くと血を吐くのですか?」

 それ大正解! 君、天才!

 頭は意外と回るのだが、身体がまともに動かない。

 精一杯首を縦に振るがちゃんと振れているだろうか? 全身の痙攣が邪魔をする。

 口から血をとめどなく垂らしながら俺は、なんとか呟く。

「しゅ……しゅてーたしゅ」

 見慣れたステータスが表示される。

―――――――――

 勇猛

 Lv     1
 HP     2/14
 MP     9/9
 職業 勇者
 装備 
 お金 0G
 状態 猛毒
―――――――――

 2……2だと!? 
 
 HP2……って。

 瀕死じゃねえか、あと一歩で死ぬわ。

 プロの勇者半殺しにするなんて、この村人ひょっとして魔王より厄介なんじゃねえのか?

《勇者は村人によって葬り去られました》

 笑えねえ! ってか、なんだよプロの勇者って。なりたくねぇし!

……なってんのか?

 しかし、まずい。本当にまずい、プロの勇者の勘が告げる。

 死亡フラグが立っていらっしゃる。

 どう回避する? この状況。

「もしかして、身包み剥がされて更に口封じの為に毒まで盛られた……とか?」

 この人、本当凄い! 大筋じゃ大正解だよ!

 俺は気力を振り絞り何とか言葉を紡ぐ。

「ある……歩くとダメ……なんです。歩くとダメージを……くらっちゃうやつ……あれなんです」

「なんと……」

「だから……歩かなければ……大丈夫なんです。解毒薬を……持って来ては頂けま……せんか?」

「そんな漫画みたいな事が……」

「しかし……事実なのです……」

 これで信じてくれなきゃ俺は終わりだ。

―――――――――

 ここで軽く仕組みを説明すると。

 転生後、ミッション=やるべき事を。
 
 やり遂げた――再転生。

 やり遂げなかった――消滅。

 なのだ。

―――――――――

 つまり、魔王を倒していない《今の状況》で死ぬと……本当に死ぬ、魂が消滅する。

――101回目の勇者人生は無し。

――だから、それはいらねえって。

 1回目の冴えない会社員でいい。

「分かりました。私が命に代えてでも村にお運び致します!」

「いや……もう……普通に解毒薬を持ってきてくれれば……」

「さっ! 私の背中へ!」

 村人の背中へと誘われる俺。

「あの……動いた判定されたら俺……死ぬんですけど……」

「アナタは絶対に殺させない! 私の命に代えても!」

 村人は走り出す、我が村に向かって。

 俺は走り出す、我が終焉へと向かって。

「解毒薬……持ってきてくれないかなぁ……」

 俺の呟きは燃え盛るような紅葉が彩る秋の空へと溶けた。虫達のさざめきが一際大きく辺りを包んでいた。そんな冒険の初日だった。

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