勇者パーティーを追放されたゴリラ、辺境の地でバナナを育てる
2話 ゴリラ、バナナと出会う
魔物の心臓とも呼べる魔核に、液体を纏っただけのモンスター、それがスライムである。その強さと身にまとう液体の質は魔核の質に影響される。つまり、質の良い魔核は、よりえげつないものを纏っているという事になる。
「ギュゴゴゴオオ」
「やはり通用しないか……」
僕は思わず舌打ちした。僕の使える中でも最強の攻撃魔法である《メギド》の爆煙の中で、敵のスライムがぴんぴんしているのが見える。
勇者達と別れて二日。興奮して走り続けていた僕の目の前に現れたのは、メタルスライムと呼ばれる魔物だった。生物と金属の両方の性質を持つと呼ばれる《モノゾイドメタル合金》を魔核に纏う、スライム種でも最強の一角。
その特性は、モノゾイドメタル合金による無敵の防御力である。特筆すべきは、モノゾイドの性質によって、魔力を元とした魔法が一切通用しない事にある。
人付き合いが苦手でソロで活動していた若い頃の僕が、それでもパーティを組まなくてはと思い立った原因となったモンスターである。
事実、このモンスターの存在が、冒険者ギルドでの魔法使い職の地位をイマイチにしている要因でもある。魔法職が単体では絶対に倒すことの出来ないモンスター。それがこのメタルスライムなのだ。スキルでも魔法でもなんでもなく。ただ、魔法が効かない、恐ろしい敵だった。メタルスライムの倒し方は、物理攻撃で核を破壊するしかないのだ。
このモンスターと出会ったら、魔法職は味方の攻撃職に支援魔法を使うくらいしかない。それほどまでに、対魔法職キラーな魔物だ。
「だが、幸い今の僕には強力なフィジカルがあるのでね」
爆煙から逃れたメタルスライムに近づき、拳の雨をお見舞いする。一発二発と数え始めて、百辺りでカウントを止めた。
避ける事無く攻撃を受けるメタルスライムだったが、ダメージにはならない。
何度殴っても、まるで水面を叩いているかのような手ごたえの無さだった。いくら殴り続けても、核にまで届く気がしない。
「くっ……」
疲れて攻撃の手が緩んだ瞬間に、距離をとられた。メタルスライムの体が輪状になる。そして、その中央に宝石のような物がある。あれが魔核だ。
その宝石が赤く輝く。そして、血の様な色をした光弾を打ち出してきた。
「――マジックバリア」
咄嗟に防御魔法を発動し、その攻撃を防ぐ。そして、バリアを張りながら、徐々に攻撃形態のメタルスライムに接近していく。
魔法が効かない厄介な生物だが、連打している赤い光弾は大した威力ではない。やがて、手で触れられる距離まで近づくと、連射の隙を突いて、太い腕を伸ばして魔核を掴み取った。強い熱を感じたが、ブルブルとした振動から、メタルスライムが苦しんでいるのが伝わってくる。魔核はまるで石のような硬さだったが、ゴリラと化した僕の握力なら、このまま握りつぶして破壊できる。
「ウ――ホアアアッ!」
握力だけで、メタルスライムの魔核を完全に破壊する事に成功した。同時に、輪状になっていたモノゾイドメタル合金が地面にドロリと落ちた。形状を操る魔核が消滅した事で再び硬くなった合金を拾い上げ、アイテムボックスに仕舞う。高値で売れる素材だ、持っていて損は無い。
「しかし、こうもあっさり強敵を打ち破れるとは……」
メタルスライムは、魔法を中心とした戦闘スタイルを持つ賢者にとっては天敵と言ってよい魔物だ。それを打ち破れたのは、ゴリラ化して得られた肉体のパワーによるものだろう。
「ゴリラって凄い……」
そう呟き、僕はこの場を後にした。
***
「う……ダメだ……。油断した」
ゴリラのフィジカルに感動していた僕は、食事の事をすっかり忘れてしまっていた。どうやら丸三日、飲まず食わずで走り続けていたらしい。食料は全く無く、腹を膨れさせる魔法も無い。僕は這うようにしながら、荒野を進んだ。
「何か、何でもいい。食べるものを……」
頭では、こんな荒野に食料なんてないことは解っている。だが本能が求めるのだ。目をあけているのも辛くなってきた。手で何かが落ちていないかどうかを探りながら、這いずり進む。
どれくらい進んだだろうか。僕の手が、ざらざらとした岩に触れた。なんとか顔を上げると、そこには模様の刻まれた岩石が置かれていた。これでは進めない。そんな事を考えたときだった。
「う……ほ? これは!?」
見たことの無いもののはずなのに、僕はそれが何なのかを理解した。目の前に置かれた石に刻まれた模様に見えるそれは、化石だった。植物の化石だ。
不思議な感覚だった。まるで生き別れの兄弟にでも出会ったかのような感覚が僕を包む。
自然と目頭が熱くなる。僕は、この植物が食べられるものなのだという事を、知っていた。いや、理解していた。
「しかし、どうすれば……いや」
僕はこの化石に向かって《復元魔法》を発動する。基本的には破壊されたものを修理する魔法だが、色々と応用が利く。枯れた花を一時的に元通りにした事もあった。魔力を込めれば、この植物の失われた時を取り戻すことが出来るかもしれない。
「上手くいってくれ」
僕は、この植物に賭けた。体はもう動かない。残っていた魔力を、込める。
やがて、化石の周囲にあった岩は砂と化し、植物は復活した。葉が数枚と、実と思われる物が二つ。実は黄色く、所々に黒い斑点が出来ている。少し毒々しく感じる。だが、甘い匂いが漂ってくる。そして何より、ゴリラの体が、本能が、この実を欲しているのだ。
それに、食べ方も知っていた。黄色い皮を、指で剥がしていく。この剥き方も、体が覚えていた。普通だった、このまま皮ごと食べる物だと思うだろう。中から現れた白くやわらかいものを、口に放り込んだ。大きな実は、一回噛むだけで溶けるようになり、喉を通って体の中に染み込んでいく。
「甘い!?」
驚いたのはその甘さだ。今まで果実を食べたことは何度もあったが、そのどれとも違う甘みのある甘さだ。
しかし、どこか懐かしい味がした。そこで僕は一つの結論にたどり着く。もしかして、ゴリラはこの植物を食べて暮らしていた獣なのではないかと。だとしたら、これは運命の出会いだ。感動で涙を流す。
それに。
体にみなぎるこのエネルギーはなんだ!? これは、素晴らしい。ボロボロだった体が力を取り戻し、切れかけていた魔力も元に戻っている。
「腹が膨れたどころの騒ぎではないな」
どれ、最後のもう一つを……と考えて、そして思いとどまる。
自慢ではないが、僕はかなりの知識を持っている。皆が体を鍛えている時間を、本を読むことと魔法の修練に費やしたからだ。
だが、こんな植物は見たことも聞いたことも無い。だとすれば、ゴリラと同時期に存在した植物なのだろう。歴史に名を残したのは、ゴリラだけだったという事だ。
「僕の魔法を総動員すれば……このバナナを現代に再び蘇らせる事が出来るかもしれない。いや、できる」
こうして、僕のバナナ復活の為の孤独な戦いが始まったのだった。
「ギュゴゴゴオオ」
「やはり通用しないか……」
僕は思わず舌打ちした。僕の使える中でも最強の攻撃魔法である《メギド》の爆煙の中で、敵のスライムがぴんぴんしているのが見える。
勇者達と別れて二日。興奮して走り続けていた僕の目の前に現れたのは、メタルスライムと呼ばれる魔物だった。生物と金属の両方の性質を持つと呼ばれる《モノゾイドメタル合金》を魔核に纏う、スライム種でも最強の一角。
その特性は、モノゾイドメタル合金による無敵の防御力である。特筆すべきは、モノゾイドの性質によって、魔力を元とした魔法が一切通用しない事にある。
人付き合いが苦手でソロで活動していた若い頃の僕が、それでもパーティを組まなくてはと思い立った原因となったモンスターである。
事実、このモンスターの存在が、冒険者ギルドでの魔法使い職の地位をイマイチにしている要因でもある。魔法職が単体では絶対に倒すことの出来ないモンスター。それがこのメタルスライムなのだ。スキルでも魔法でもなんでもなく。ただ、魔法が効かない、恐ろしい敵だった。メタルスライムの倒し方は、物理攻撃で核を破壊するしかないのだ。
このモンスターと出会ったら、魔法職は味方の攻撃職に支援魔法を使うくらいしかない。それほどまでに、対魔法職キラーな魔物だ。
「だが、幸い今の僕には強力なフィジカルがあるのでね」
爆煙から逃れたメタルスライムに近づき、拳の雨をお見舞いする。一発二発と数え始めて、百辺りでカウントを止めた。
避ける事無く攻撃を受けるメタルスライムだったが、ダメージにはならない。
何度殴っても、まるで水面を叩いているかのような手ごたえの無さだった。いくら殴り続けても、核にまで届く気がしない。
「くっ……」
疲れて攻撃の手が緩んだ瞬間に、距離をとられた。メタルスライムの体が輪状になる。そして、その中央に宝石のような物がある。あれが魔核だ。
その宝石が赤く輝く。そして、血の様な色をした光弾を打ち出してきた。
「――マジックバリア」
咄嗟に防御魔法を発動し、その攻撃を防ぐ。そして、バリアを張りながら、徐々に攻撃形態のメタルスライムに接近していく。
魔法が効かない厄介な生物だが、連打している赤い光弾は大した威力ではない。やがて、手で触れられる距離まで近づくと、連射の隙を突いて、太い腕を伸ばして魔核を掴み取った。強い熱を感じたが、ブルブルとした振動から、メタルスライムが苦しんでいるのが伝わってくる。魔核はまるで石のような硬さだったが、ゴリラと化した僕の握力なら、このまま握りつぶして破壊できる。
「ウ――ホアアアッ!」
握力だけで、メタルスライムの魔核を完全に破壊する事に成功した。同時に、輪状になっていたモノゾイドメタル合金が地面にドロリと落ちた。形状を操る魔核が消滅した事で再び硬くなった合金を拾い上げ、アイテムボックスに仕舞う。高値で売れる素材だ、持っていて損は無い。
「しかし、こうもあっさり強敵を打ち破れるとは……」
メタルスライムは、魔法を中心とした戦闘スタイルを持つ賢者にとっては天敵と言ってよい魔物だ。それを打ち破れたのは、ゴリラ化して得られた肉体のパワーによるものだろう。
「ゴリラって凄い……」
そう呟き、僕はこの場を後にした。
***
「う……ダメだ……。油断した」
ゴリラのフィジカルに感動していた僕は、食事の事をすっかり忘れてしまっていた。どうやら丸三日、飲まず食わずで走り続けていたらしい。食料は全く無く、腹を膨れさせる魔法も無い。僕は這うようにしながら、荒野を進んだ。
「何か、何でもいい。食べるものを……」
頭では、こんな荒野に食料なんてないことは解っている。だが本能が求めるのだ。目をあけているのも辛くなってきた。手で何かが落ちていないかどうかを探りながら、這いずり進む。
どれくらい進んだだろうか。僕の手が、ざらざらとした岩に触れた。なんとか顔を上げると、そこには模様の刻まれた岩石が置かれていた。これでは進めない。そんな事を考えたときだった。
「う……ほ? これは!?」
見たことの無いもののはずなのに、僕はそれが何なのかを理解した。目の前に置かれた石に刻まれた模様に見えるそれは、化石だった。植物の化石だ。
不思議な感覚だった。まるで生き別れの兄弟にでも出会ったかのような感覚が僕を包む。
自然と目頭が熱くなる。僕は、この植物が食べられるものなのだという事を、知っていた。いや、理解していた。
「しかし、どうすれば……いや」
僕はこの化石に向かって《復元魔法》を発動する。基本的には破壊されたものを修理する魔法だが、色々と応用が利く。枯れた花を一時的に元通りにした事もあった。魔力を込めれば、この植物の失われた時を取り戻すことが出来るかもしれない。
「上手くいってくれ」
僕は、この植物に賭けた。体はもう動かない。残っていた魔力を、込める。
やがて、化石の周囲にあった岩は砂と化し、植物は復活した。葉が数枚と、実と思われる物が二つ。実は黄色く、所々に黒い斑点が出来ている。少し毒々しく感じる。だが、甘い匂いが漂ってくる。そして何より、ゴリラの体が、本能が、この実を欲しているのだ。
それに、食べ方も知っていた。黄色い皮を、指で剥がしていく。この剥き方も、体が覚えていた。普通だった、このまま皮ごと食べる物だと思うだろう。中から現れた白くやわらかいものを、口に放り込んだ。大きな実は、一回噛むだけで溶けるようになり、喉を通って体の中に染み込んでいく。
「甘い!?」
驚いたのはその甘さだ。今まで果実を食べたことは何度もあったが、そのどれとも違う甘みのある甘さだ。
しかし、どこか懐かしい味がした。そこで僕は一つの結論にたどり着く。もしかして、ゴリラはこの植物を食べて暮らしていた獣なのではないかと。だとしたら、これは運命の出会いだ。感動で涙を流す。
それに。
体にみなぎるこのエネルギーはなんだ!? これは、素晴らしい。ボロボロだった体が力を取り戻し、切れかけていた魔力も元に戻っている。
「腹が膨れたどころの騒ぎではないな」
どれ、最後のもう一つを……と考えて、そして思いとどまる。
自慢ではないが、僕はかなりの知識を持っている。皆が体を鍛えている時間を、本を読むことと魔法の修練に費やしたからだ。
だが、こんな植物は見たことも聞いたことも無い。だとすれば、ゴリラと同時期に存在した植物なのだろう。歴史に名を残したのは、ゴリラだけだったという事だ。
「僕の魔法を総動員すれば……このバナナを現代に再び蘇らせる事が出来るかもしれない。いや、できる」
こうして、僕のバナナ復活の為の孤独な戦いが始まったのだった。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント
ぽんちゃま
面白すぎる...続いてないのがもったいない
に ん げ ん
好きだわwwwハマるwwwwww