僕は間違っている

ヤミリ

1話

──「彼杵ちゃん、失踪したんだって」

──「え、なんで?」

──「分かんない、心配だよね」

教室はずっとその話題で持ちきりだった。
彼女は自分自身の誕生日の日、五月十日の日曜日に突然二つの置き手紙を残して居なくなった。それからもう一ヶ月経っている。
人気者で生徒会長をやっているから余計と話題の中心となっている。
彼杵とは家が近所で、よく仲が良いと言われる。
下の名前が同じで、「雪菜」と書いて「せつな」と読む。みんな僕等の区別をつけるために苗字で呼んでいる。
彼杵はなぜ居なくなることを選んだ?
そんなことを自分の席に座って考えていると
「彼杵、まだ見つからないんだって?  お前は何か知らないのか?」
親友の篠原達秋(しのはらたつあき)に後ろから声をかけられた。
「分からない、僕が知りたいぐらいだ」
と僕は応えた。
「そうか、そうだよな。すまん」
学校の生徒数人、警察に事情聴取をされたらしいがまだ情報は1つも入ってきていないらしい。
「なあ、颯海!!!」
「なに?」
達秋は真剣な顔で言った。
「一緒に彼杵を探そうぜ」
「警察に任せた方がいいよ」
「警察なんかつかえねーよ!」
「警察が無理なら僕達にも出る出番はないよ。」
あまりに無謀な事を言うので僕は強く反論した。

───「珠里も、手伝う、から」

僕と達秋が会話をしている時、彼杵の親友の西園寺珠里(さいおんじじゅり)が震えながらそう言い、こちらに近付いてきた。
かなり目が腫れた様子で、泣いた後なのだろうか。憔悴しきっていた。
最近珠里はずっとこんな感じだ。
(当たり前か、大切な親友が居なくなったんだから)
「颯海、悲しく、、ないの!!?」
「悲しいに決まってるだろ」
「なら探そうぜ、俺達で!」
「「お願いだから!!」」
大声で言われたせいかクラスメイトの視線が集まる。
「分かった、分かったから」
あまりに断れる状況ではなかったので渋々了承した。


早速情報を集めようということで、放課後に聞き込みをすることにした。
学校周辺や、学校内で3人で分かれて手当り次第行動している。
けれど僕は友達が少ないのもあってかとても苦戦していた。
校内は夕陽が落ち始めているにも関わらず、様々な音で満ち溢れていた。
この時間帯だと部活をしているのだろうか。
偏差値も高い高校だというのもあって、真面目で熱心な生徒が多い。
僕は面倒だという理由で部活に入っていない。
自分の情けなさに呆れ、中庭のベンチで途方に暮れていると、小柄な金髪の女子が近付いてきた。
「颯海、そんなところで何してるの?」
訝しげにそう聞かれ、この学校に似合わない金髪が嫋やかに揺れた。
彼女は彼杵のもう1人の親友、篠原千夏(しのはらちなつ)だ。
「彼杵について聞き込みをしているところだよ。達秋と珠里にせがまれてさ」
と僕は溜息をつき、疲れた顔で言った。
「そうなのね。私も手伝えることがあれば手伝うわね」
「助かるよ。」
「……?ねえ、ほんとに悲しんでいるの?本当は何か、知ってるんじゃ…」
千夏は疑うような目で僕にそう言った。
「貴方彼杵のことが好きなんでしょ…なのに…
「何も知らないよ、それに僕は彼杵とそんな関係じゃない。八つ当たりはやめろ」
千夏が言い終わる前に僕は強く言い放った。
「そうよね、ごめんなさい。じゃあ私も聞き込みをしてくるわ」
そう言い、申し訳なさそうな顔で小走りに中庭から出て行った。
確かに僕は、彼杵が居なくなったのに悲しんでる様に見えないかもしれない。
聞き込みだってあまり熱心にしていない。
僕は昔からそんな性格なんだ、別に悲しんでいない訳では無い。
そろそろ、聞き込みを始めるか。
僕も中庭から出ていった。




小学五年生の頃から彼杵は隣に居た。
いつだって、僕を置いていったりしなかった。
僕達はよく家の近くの小さい森で遊んでいた。
────三年前
「颯海、この花の名前、知ってるか?」
「知らない。変な実が付いてるね」
「桑って言うんだ。花言葉が素敵なんだ」
昔から彼杵は桑が大好きだった。けれど特別美しい訳でもなくて、なぜ好きなのか理解できなかった。
「なんていう花言葉なの?」
「これはな、『────』って意味な
んだ。いつか私も颯海とこうなりたいな」
彼女は満面の笑みで、そう言った。
僕はその笑みがとても嬉しかった。彼女に自分の存在が誰よりも特別だと言われているようで。
「僕もだよ、じゃあ約束しよう?」
「破ったら怒るからな」
「うん」

コメント

コメントを書く

「推理」の人気作品

書籍化作品