虐められていた僕は召喚された世界で奈落に落ちて、力を持った俺は地上に返り咲く

黒鉄やまと

第51話 密約

「さすがは神夜だね。もうあの城を落としたのか」

開戦3日後の夜、帰ってきた聖魔隊の部隊長から神夜がグランデン城を落としたという連絡を聞いたアレクサンドリウス1世——アレクは窓の外を見てほほ笑む。

「グランデン……王国の食糧庫ですね。これで帝国の兵站問題は大幅に改善されるでしょう」

「そうだといいね」

自身の妹、リーンの言葉にアレクは微妙な反応をする。
そして目の前にいる聖魔隊のギルザムに問う。

「グランデンに残っていた食料で持たせることはできそうかい?」

「……ほぼ、不可能かと」

「な!なぜですか!?あの城は王国の食糧庫ですよ!?それほどの食糧はあってもいいはずでは……」

「やはりか……」

「兄上?」

リーンが驚く中、アレクは予想通りというように頷く。

「リーン、3年前大飢饉があったのは知っているね?」

「はい。確か王国の半分の農耕地が飢饉を起こし、甚大な被害が出たとか」

リーンの説明にアレクが頷く。

「そう、その時王国はグランデンの食糧を開け放つことで何とか被害を抑えようとした。それでも抑えきれず、10,000人以上の餓死者が出てしまったけど、結果的にグランデンに残った食糧は解放前の5パーセント程度。それほどの被害が出た。」

「それでは3年前の大飢饉からグランデンはまだ回復していなかったということですか?」

「そうだ。もしグランデンが完全回復していたなら帝国軍の兵糧は1年は持つほどの余裕があったはずだ。おそらく今残っているのは満タンの50…いや、30パーセント程度かな?」

「さすがでございます、陛下。調査の結果城に残っていたのは満タンの29パーセントほど。食料を賄うにはまだ足りません。」

ギルザムの言葉にアレクは頷く。

「報告ありがとう。君はこれからどうするんだい?」

「大隊長から陛下の護衛に入るように仰せつかりました。他にこの地の警護もです」

「わかった。もう下がっていいよ」

「それからもう一つご報告が」

「なんだい?」

「大隊長は今、魔王国へと向かっております」

「………!そうか、そういうことか」

ギルザムの報告にアレクは驚きながらも納得する。

「警備については君に任せる。さがれ」

「は。」

ギルザムが部屋を退出すると、リーンはアレクに問いかける。

「どうして魔王国へ向かっているのでしょう?」

「魔王からの手紙では手を結びあいたいと書いてあった。けど、今この状況で帝国が魔王の後ろ盾を得ても他の国から危険視されるだけ。だからこの戦争が終わってある程度落ち着いたら同盟を結ぶつもりでいた。」

「それはそうですね。私もそれに賛成です。」

「けど、神夜は堂々と同盟を結ぶ前に密約を結ぶことで助力を得ようとしている。」

「しかし、魔族の軍が今戦場に現れても、混乱を招き、他国からも圧力が加わることは間違いありません」

「それに関しては問題ない。そもそも魔王国に兵を出す余裕はないからね」

「え?どうしてですか?」

リーンの質問にアレクは立ち上がって答える。

「つい先月まで内戦中だった国にそんな国力があると思うかい?」

「たしかに!ならどうして密約を?」

「魔王国は長い内戦を一切どの国にも知られることなく結果的に収めた。その情報統制力があれば秘密裏にものを運ぶには何の問題もないだろうね」

「!! そういうことですか。魔王国から食料を秘密裏に輸入するのですね?」

「そういうこと。しかもグランデンの食糧問題は聖魔隊や我々しか知らない。これはグランデンからだといえば魔王国産でも何の問題もない。」

「なるほど!情報の力がここまでとは……すごいですね」

「そうだね。聖魔隊は今、各地に散らばっている。これでやっと地盤が固まった。」

アレクは腕を前に突き出し、ぎゅっと握りしめる。

「王国を完璧にたたきのめす。その時はもう近い……!」





アレクが報告を聞いているとき、神夜たち一行は魔王国に来ていた。

「久しぶりだな、ヴァーミリオン」

「うむ、神夜殿もな。ステラ殿も久方ぶりだな」

「うん、久しぶり」

出迎えてくれた魔王ヴァーミリアン・アルマギアとあいさつを交わす。

「ほう、こやつが今の魔王か」

「魔族の領域に来るのは久しぶりですね」

開闢龍ファフニールと幻想龍オリエルティアがあたりを見回しながら、そういった。
どうやや来たことがあるみたいだ。

「そちらは?前にいらっしゃった時にはいませんでしたが」

「黒髪のほうがファフニール、白髪のほうがオリエルティアだ。二人とも龍種で、俺の新しい仲間だ」

「龍種……どうりで。その異常な魔力をもっていたので、只者ではないと思っていましたが龍種とは。はじめまして、私は今代の魔王ヴァーミリアン・アルマギアです。よろしくお願いします」

「うむ、よろしくな。それにしても今代の魔王はなかなかの力をもっているようじゃな」

「そうですね。初代魔王には及びませんが、なかなかの魔力量です。一時期分裂していたようですが、元に戻ることができてよかったですね」

どうやら二人は魔王が二人いたことを知っているらしい。

「弟はあれからどうだ?」

「相変わらず過激な発言をしていますが、私のいうことを聞いていますし、魔族のことをよく考えてくれています。」

「それならよかった。」

「ところで今日はどんなご用事で?ソルニア王国は内乱がはじまったと聞きましたが、ここにいてよろしいのですか?」

「俺が出るのは勇者が動き出した時だけだ。それにある程度の戦力は残しておいた。それで十二分だろう。」

「ならよかったです。戦力が必要ない。となると神夜殿か尋ねてきたのは………」

「そうだ。食料問題だ。」

「やはりそうでしたか。ここではアレですので中に入ってください。」

四人は魔王城に案内される。一つの応接間につくと話を再開した。

「手紙は王子に渡してくれましたか?」

「ああ、ぜひ同盟を結びたいと言っていた。あとこれからは皇帝で頼むぞ。俺は奴の部下ではないが、役職上奴のほうが上ではあるからな」

「すまない。では今日はその同盟を結びに来たと?」

「いや同盟はまだだ。」

「??ではなんでしょう?」

予想と異なったのかヴァーミリアンは首をかしげる。

「人族が魔族を警戒していることは知っているだろう?奴もこの状況では同盟を結ぶことはできない。ソルニア王国だけでなく他国とも摩擦がおきてしまうからな。」

「確かにそうですね。ではまだ結ぶことはできそうにありませんね。」

「ああ、だから密約を結びに来た」

「密約?……ああ、そういうことですね。わかりました。」

神夜の意図を理解したのか、ヴァーミリアンは頷く。

「こちらの要望は四つ。一つ、双方の領土不可侵、及び相互援助。二つ、食料を帝国に輸出すること。三つ、帝国と王国を他国からの侵略から守ること。四つ、それらすべての行動を極秘裏に行うこと。以上四つだ」

神夜の要望に苦笑する。

「ふふ、ずいぶん率直ですね。わかりました。その要望をすべて飲みましょう。その代わりこちらの要望も飲んでいただきます。」

「なんだ?」

「魔王国からの要求は二つ。一つは終戦後の正式な同盟締結。そして二つ目は……神夜殿、あなたの助力を願いたい。」

「俺の……助力?」

予想外の要求に神夜は首を傾げる。

「はい、あの戦いの後、私たちは国を再統一し、ある程度安定させることができました。ですが、傀儡神の影響は魔王国各地に及んでいました。ルイガスと同じ病が数人発見されたのです。それを治すのに……」

「俺の力が必要なわけか。なるほど。わかった。その要望で密約を結ぼう。」

今、話し合った内容を契約書に書き写し、互いに署名する。

「これで密約は結ばれました。」

「それじゃあ、あとは頼む。食料はグランデン城という場所にいるヴァンジャンスという男に届けてくれ。話は通しておく。」

「任せてください。」

「それじゃあな」

そういうと神夜達四人は一瞬で消えた。










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