虐められていた僕は召喚された世界で奈落に落ちて、力を持った俺は地上に返り咲く

黒鉄やまと

第48話 攻城戦


「そうか、勇者はいないか…」

斥候からの情報をもとに、作戦をリメイクする。

「やはりおりませんでしたね」

「そうですね、もともと勇者たちは半分ほどは離脱し現在行方知れずです。そのため、数は精々16人程度。さらに先日2人こちら側に帰依したのですでに半数以下のはずです。各地に重要拠点を守るのには重宝するかもしれませんが、かの王のことです。王都に集め自分を守るために動いていることでしょう。ここに居る可能性は低いと思われます」

「うむ、想定内だ。ということは、これで攻略できそうだな」

シャール将軍は広げた地図を見ながらそうつぶやく。

「理論上の話ですがね。実際はどうなるかわかりません。そこの指揮はお願いします」

「もちろんだ。それが俺の仕事でもある」

シャールの言葉にフィンラルは頷き足を運ぶ。

「我々は準備に移ります。ここには連絡役を残しておくので何かあればご連絡ください」

「あい分かった。まずは作戦通り頼む」

「もちろんです」

テントを出てフィンラルは『聖魔隊』の仲間の元に向かう。

「作戦が決まりました。ジードはここに残って将軍の護衛と連絡役を頼みます。それ以外は三つに分かれて行動を開始しましょう」

「「「了解っ」」」

連絡役となったジードをその場に残し、移動を開始する。別れたグループの目的地は3つ。2グループは城門ごと繋がっている山の頂上。最後のひとグループはその真裏である。



そして聖魔隊の全員が散った2日後、本軍は動き始めた。
最初にシャール将軍が降伏勧告をする。

「我はオルフェリアス帝国将軍シャール・オルゴールである!汝らは既に我が軍に包囲されている!降伏をするならば我々はそれを受け入れよう!」

大声で行われた降伏勧告に対し、返答はーーー


「引けぇー!引けぇー!」


大量の矢の雨だった。
全速力で矢の範囲内から離脱し、指揮に戻る。

「ジード殿!聖魔隊の皆に合図を!」

「はっ!」

ジードは所持しているスキル《思念通信》で聖魔隊へいっせいに合図を送る。

「『作戦スタート!』」

その声と共に一瞬の瞬きのあと、城塞の城門は爆発に飲み込まれ、跡形もなく消え去った。

それと同時に城塞の向こう側から大量の砂煙が立ち上がる。予め後ろに回しておいた別働隊・・・・・・・・・・・・・・が山ごと崩された後方から侵入を開始したのだ。

「我々も往くぞぉ!我に続けぇー!」

俺ーーシャールは自ら軍馬に跨り先頭を駆けて行く。その後ろを5000人の軍隊が全速力で進行する。

城門は先程木端微塵に破壊され、防ぐものは何も無く、先程の爆撃で弓兵は殆どやられている為、城塞の内側までいとも簡単に入ることが出来た。

「アグラス隊とヒューズ隊を残し、残りは城主を捕まえる!我に続けぇーっ!」

200人ほどで城塞の出口を固め、脱出路を塞ぐ。そして残った兵でこの地の支配者を捕まえる為に進んで行った。








「上手くいったようですね」

フィンラルは山の上からその様子を見ていた。
シャールは1000人ほどを城壁跡に残し、城主の捕縛に向かった。城自体も耐久度はかなりのものだが、大きさはそれほどでもない。

約4800人の軍隊が一気に城へたどり着く。それとほぼ同時に将軍とは反対側から侵入させた別働隊5000人が城へたどり着いた。
合計9000人の兵士が城を取り囲み城門を破壊、侵入していく。

『ジード、きちんと先回りさせていますか?』

『もちろんです。といっても隠し通路は一つしかないので〈聖魔〉を一人向かわせました。それとどうやら城主はまだ脱出しようとしていないようです』

それはフィンラルも分かっていた。

『まだ覆せる余裕があるとは思えませんが……警戒を怠らないでください。』

『もちろんです。』

そこで<思念通信>を切る。
未だ動かない城主、捕縛を急ごうとしないシャール。

「何か関係がありそうですね」

シャールが裏切っているのか、それとも他に事情がるのか……それはシャールに任せることにした。







巨大な扉を開き、シャールと帝国軍は軍議室に入る。
そこには髪を短く切りそろえた壮年の男とその部下がいる。
敵が突入してきたというのに彼らは動揺する様子もなく椅子に座っている。

「…帝国軍だ。おとなしく拘束されろ」

深刻そうな顔をしてシャールは要求する。

「……久しぶりだな。」

この城の城主が口を開く。
しかしそれを無視してシャールは部下に指示を出す。

「おい、捕えろ。」

「まあ、待て。久し振りに話でもしようじゃないか」

「………」

シャールは城主を睨みつける。

「あなたと話すことはありません」

「そういうな。たまにはワシの言うことに耳を貸すべきだぞ。我が子シャールよ」

「あなたを父と思ったことなど一度もないっ!!」

この城の城主の名をシェイクス・オルゴールといい、シャールの実の父親だった。

「なぜ王国を裏切ったのだ?」

「あなたに言うことはありません」

「頑固に育ったものだ。なぜそんなふうに育ったのか」

「それはお前が原因だろうがっ!!貴様が母上を!俺を!どんな扱いをしたのか忘れたとは言わさないぞ!」

「ふむ、ワシのせいだというか……」

何かを思案するように顎を擦り、何かを思い出すように口を開く。

「そういえばあの女はどうした?」

「母上はっ……一年前に亡くなられた…」

悲しむようにシャールは俯く。
そして怒鳴るように言い放つ。

「貴様は母上で遊び!子を作らせ!挙句の果てにごみのように捨てたのだ!俺は絶対に貴様を許さない!!貴様は腐っている!それを俺が浄化してやるんだ!」

シャールは腰の剣を抜き、シェイクスに切りかかる。
それをシェイクスは椅子から飛び退くことで避けた。

「俺はあなたがここから動かないことをわかっていた。だからこそ最短距離でここまで来た。あなたを討つために!!」

突然の行為にシャールの部下達も驚く。
そもそも親子関係ということも聞かされていなかったのだ。無理もない。

躱されたシャールの剣が青く輝き出す。

「はァァァっ!『連撃剣』!!」

鋭い斬撃が高速で振るわれる。
しかしそれを··········

「『連撃剣』」

全く同じ技で打ち返した。
互いにザザァッと音を立てて下がる。

「その剣、魔剣か」

「この剣は皇帝陛下から賜った魔剣フェルナンド。母の心の安らぎのため、そして陛下への忠誠を示すため!この魔剣であなたを倒す!」

再び『連撃剣』を放つ。
シェイクスもまた『連撃剣』を放ち対応する。
しかし今度は相打ちにはならなかった。

「むぅ、これは··········」

「ようやく気づいたか。この魔剣の特性に」

シャールの持つ魔剣の名を"崩剣"という。
うち合えば撃ち合うほど相手の剣を崩壊させる魔剣だ。ちなみにこれは神夜がアレクにあげたもので、それを今回は貸すという形でシャールは持っている。
その"崩剣"と2度も『連撃剣』を打ち合ったシェイクスの剣はその1部をボロボロと崩れ始めた。

「また厄介なものを使っているな。」

そう言いながらシェイクスは2本目の剣を抜く。

「お前も知らぬわけではないだろう?オルゴール家に伝わり当主となった者にのみ受け継がれる宝剣ーー魔剣ディルヘイドだ」

黒い刀身を持った美しい魔剣を掲げシェイクスは構える。

「やはり持ってきていたか。厄介なものを··········」

魔剣ディルヘイドの特性は再生だ。別名再生剣と呼ばれる。何度も刃こぼれしようが、刀身が折れようが再生する。オルゴール家では再生の象徴として扱われてきた。
だが、その実態は殺した相手の血液に含まれる鉄分を利用して再生するという血濡れ剣。

「行くぞっ!」

「来るがいい!」

破壊と再生。
その矛盾を纏った魔剣を双方持ち、親子は激突した。




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