外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第126話 準備しましょう

 受付の女性に大分時間を取られてしまった聡。どうにか落ち着かせてから、諸々の手続きを済ませ、2日後には馬車を用意してくれるという事で、話が纏まった。

「それでは2日後の朝、またお会いしましょう!」

「えぇ、よろしくお願いいたします。」

 そろそろ愛想笑いも疲れてきた聡だが、ようやく開放される喜びからか、この日1番の穏やかな笑みを浮かべながら、商会を後にする。

ー疲れた…。どうにか結構良い機能の馬車を買えたか。にしても、俺が女性と旅する事になるとは。長生きしてみるもんだ。ー

 聡はそんな事をぼんやりと考えながら、もう傾いた日の中を、宿に向かって歩いていく。

ー元々都市には寄るつもりだったけど、移動速度が大分落ちるか。ま、呑気にのんびりってのも、良いかもしれないな。ー

態々買った馬車よりも、聡の徒歩の方が移動速度が早いという、何ともアホみたいな話だが、これはこれで、良い経験になるだろう。

 普段よりも、速度を大分落として歩く聡。
 そんな彼の目に、ふと映るものがあった。

ー寝袋…。いやいや!女性に野宿なんかさせられるか!ー

 普通の人は・・・・・、徒歩で都市から都市へ、1日で歩いて到着する事など無いので、馬車の中や、焚き火を囲ってテントで眠るのが、通常である。

 だが、エーリカとフラウにそんな事をさせる訳にはいかないと、聡は思ってしまった。

ーこれは何とかしないとな。ー

 ここに、自重という言葉を知らない男が爆誕してしまう。

 ただ求めるは、エーリカとフラウの快適な旅生活。持てる限りの知識と素材を駆使し、まだ見ぬ馬車を、魔改造をする事に決める。

ーそうと決まれば、色々と買い出しせにゃ。ー

 より良い旅環境作りの為、聡は良さげな物を見繕おうと、以前街に来たばかりの時に、ティアナを肩車して回った記憶を頼りにして、手当り次第に店を冷やかしていく。

こうして聡が満足して我に返る頃には、もうすっかり日が暮れて、18時過ぎとなっていた。

「あ、あれぇ?もうこんな時間かよ。久々のマトモな買い物が楽し過ぎて、つい時間の事を気にしてなかった!」

 当初の目的などとうに忘れ、ただ単純に買い物を楽しんでいた節もあるが、幸いな事に、早い段階で必要な物は買い揃えられたので、楽しい楽しい魔改造の準備は、既に整っている。

ーさっさと宿に戻らないと、フラウに心配かけるかもしれんし、急いで戻るとするか。ー

 少し急ぎ足で歩く。冒険者たちがすっかり出来上がった状態で、あちこちを歩いてる人混みを形成しており、少し通りずらいが、東京都内の人混みを毎日のように経験していた聡には、ちょろいものである。

 ひょいひょいと器用に避けながら、最短距離で宿を目指す。

ー何か楽しくなってきたな。何でやろ。ー

 今日は色々な事があって、精神状態が普通では無いのだろう。

「ようやく着いた…。」

 少し昂った感情を鎮めながら、静かに宿へと入る。

「ん、おぉ、サトシじゃないか。遅かったな。」

 中に入ると、久々な気がするルドルフが、食事しながら出迎えてくれた。

「ちょっと買い物に夢中になってまして、気が付いたらこの時間に…。フラウはどうしてますか?」

「あの嬢ちゃんなら、エーリカの家で飯食うからって、態々伝言していったぞ?」

「あ、そうなんですか。」

 急いで来たが、徒労に終わったようだ。肩の力を抜きながら、食事中のルドルフの対面に腰掛ける。

「何でも、女子会とやらをするらしいぞ?いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

「は、ははは。女子会…。さ、さて、一体いつの間に何でしょうかねぇ。」

「おい、目が泳いでるぞ?詳しく聞かせてもらえるんだろうな?」

 何と言っていいものかと、誤魔化す方向に持ってきたかった聡だったが、ルドルフに問い詰められてしまう。

「えっと、何と言って良い物か、ちょっと分からないのですが…。」

 言い淀む聡。実の兄である、ルドガーが花束を手に告って断られた相手と、数週間前に突如拾ってきた少女の2人と、そういう関係になったとか、どう奉告すれば良いのか、非常に悩ましいところである。

「まさか、2人と恋仲になったとかか?ま、流石に…おい?サトシ?こっちを見てくれないか?」

「…。」

 言い淀む聡に、中々に鋭い予想をしたルドルフ。

 その的中ぶりに、聡は何も言えなくなって、冷や汗ダラダラかいた状態で、そっぽを向く。

「お、おいまさか、本当にそうなのか?もう手を出したのか?」

「て、手は出してません!というより、俺から手を出すまでもなく、襲われかけt…あ、今のは無しでお願いします。」

「マジか!可能性はあると思ってたが、まさか2人とそうなるとはな!まずは、おめでとうと言っておくわ!」

「あ、ありがとうございます。当人が一番まさかと思ってますよ。正直、このまま独身を貫くつもりだったので、未だに夢見心地です。」

 ポリポリと頬を掻きながら言う。元々の人生で、21年間恋人無しで来たのだ。今更、300年経ってから、アホみたいな力を手に入れて尚、マトモに恋愛できるわけ無いと思っていた。

「ま、詳しくは酒を飲みながら、たっぷり事細かに教えてくれよな?」

「あはは…。お手柔らかにお願いします。」

 2人分の酒を頼み、すっかり聡の話を肴にするつもりらしい。

 聡は乾いた笑みを浮かべながらも、それでも少し楽しそうに話し出すのだった。

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