外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第119話 逃げ出したいです

「いっぷたさいせい?」

『あれ?違うのか?』

 呆けた様子で呟く聡に、一輝は首を傾げる。異世界といえば、男の夢 (一部のみ)であるハーレムであるという、酷い偏見を持っている一輝は、心底不思議そうである。

「そ、そういえば、この世界だと、不貞行為には厳しいくせして、一夫多妻制は認められてるんだった!というより、貴族なら当たり前。一般人でもそれなりに居るってレベルだった!」

 聡は目を見開いて、大声で叫ぶ。

 この世界では、普通の野生動物に加えて、魔物や魔族などがいて、地球よりも人間の天敵が多いのだ。
 その為、財力に余裕があれば、一般市民でも複数の妻を娶る人が居るくらいである。

「反対に、一妻多夫制は何故か認められないという!女性が男を何人囲おうとも、産める子供の数は限られるからって事だろうけど!」

 婚姻については、世界を学ぶ上でも結構な基礎となるので、早い段階で覚えたのだが、他人事のように感じていた為、すっかり忘れてしまっていたのだ。
 というより、知識としてはあるものの、実感としてそういう世界に生きているという感覚が無かったのだろう。

「え?つまり?『俺、結婚してるから…』っていう言い訳は使えないって事か!?性格良い子から告られたら、マトモに断る理由が無くないか!?何このハーレムもののエ○ゲみたいな世界!」

『大分混乱してるところ、申し訳無いんだけど、言ってる事が最低だぞ?』

 言い訳ばっかり気にしてる聡に、呆れながら一輝は言う。

「うぐ…。それは分かってる。でも、急展開すぎて、頭がついていかないんだよ。」

『う〜ん。第三者である俺も、何が何だか分からなくなってきてるから、当事者の聡ならそれは当然か。というか、聡はどうしたいんだよ。』

「また俺がどうしたいかか。」

『そりゃそうだ。当事者のお前がどうしたかってのが大事だろ。相手はもう、意志をハッキリと行動で示してるんだろ?』

「俺の為に、必要とされたいとか何とか言われたな。俺の為になりたいとか、そういう事だろうけど、それが何を意味するのかは、大体分かる。」

 つまりは、必要とされたいのは、恩義もあるし、更には好意を懐いてるから、為になりたいからという事である。

『すっげぇ良い子じゃん。お前これ断るとか、流石に無いわ〜。』

「さっきは俺の気持ちが大事とか言っといて、急に熱い手のひら返しかよ。」

『いやまぁ、さっきのはただの建前で、本音としては、なぁ?』

「『なぁ?』じゃねぇよ!その本音は、ちったあ隠せ!」

 さっきと言ってる事が真逆な一輝に、ツッコミを入れる。聡の意思なぞ、どうでも良いという風である。

『野郎の気持ちなんざ知らんわ!可愛い女の子とキスしやがってこんちきしょう!』

「ただの嫉妬じゃねぇか!気持ちは分からんでもないが。」

 先程までの一輝は何処に行ったのか、みっともなく感情を露にする。

『だってよぉ…。あんな可愛い女の子に、キスを求められるとか、どんだけ恵まれてるんだって話だ…。』

 エーリカの時とは違い、実際にフラウの姿を見ているという事が、一輝に大ダメージを与える要因になったのだろう。

「はぁ〜。頭がついてがなくて、もうどうすれば良いのか、全くもって分からん!」

 エーリカの事は、それなりに前向きに検討すると決めたが、そこにフラウまで追加されてしまい、聡はすっかり及び腰になってしまった。

『そこは男らしく、ドーンと思いを受け止めてやろうぜ?』

「今どき男らしくとか、古いとは思うけど、いっその事開き直った方が良いかもな…。」

 言いながら、聡はあの2人の姿を思い浮かべる。

 そんなに長い付き合いでは無いし、寧ろ知り合って間もないが、2人の人柄は好ましいし、何よりとても可愛いく綺麗だ。

「…。」

『ん?どうした?決意、したのか?』

 無言だった聡に、一輝が声をかける。すると聡は、少し落ち着いた声音で答えた。

「ん。いや、決意とは程遠いけど、今ようやく、あの2人をちゃんと見たって感じかな。」

『…そういう事か。ま、頑張ってくれよ?』

「2日以内に答えを出さないとだから、ホントに考えを振り絞らんとダメだからな。ようやくスタートラインに立った感じだよ。」

『待たせてる時点で、相当ヤバいと思うけどな。』

「うぉい!痛いほど理解してるから、言わんでくれぇ!」

 自身の情けない所を指摘され、聡はガックリと項垂れながら、頭を抱える。

『因みに、他には告白してきた子は居んの?』

「はははは。面白い事言うなぁ。俺に告白してくる子なんて…いや、居るんだけど、エーリカとフラウ以外は居ないね。」

 聡は自虐ネタに走ろうとしたが、ついに使えなくなってしまった事に気が付き、表情を引き攣らせる。

 ある意味、モテないという事を持ちネタとして、歓迎していた聡には、この事実は何とも言えないものだった。

『そんじゃあ、他には仲良くなった女の子は?』

「何でそんな事を聞くんだ?まぁあと…3人か。一応仲良くさせてもらってる子は居るけど?」

『…こりゃ増えるな (ボソッ)』

「何か言ったか?」

『い〜や、何でもないぞ?』

 一輝の不穏な呟きが聞こえなかった聡は、胃は痛いものの、比較的平穏な夜を過ごす事が出来たのであった。

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