外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第117話 開いた口が塞がらないです

 『コンコン』

 夕食後、フラウの部屋のドアがノックされる。

「…どうぞ。」

 非常に優れた聴覚を持つ吸血鬼であるフラウには、それが誰の足音か、直ぐに分かったが、女性の部屋に来るような人間では無いので、少し戸惑う。

「失礼します。」

「敬語に戻ってますよ?」

「おっと失敬。ちょっと緊張しちゃってね。あははは…。」

 そう言って入って来るのは、聡であった。ここに宿泊し始めて、1週間ほど経過しているが、今のところ一度も、聡はフラウの部屋に入った事は無いのだ。

「サトシ様がいらっしゃるのは、初めてですね。どうかされたのですか?」

「あ、いや、夕食前にさ、大分こっちを気にしてるようだったから、話しておこうかと。」

「…エ?ナンノコトデショウカ?」

「目を逸らすな。そして片言で言うんじゃありません。バレバレだよ。」

「聞き耳をたてているのが、バレてしまいましたか。申し訳ありません。」

「いや、そこを責めてるんじゃないよ?ただまぁ、大分挙動不審だったから、そんなに気になるのかと、リカバリーに来ただけ。流石に食堂で部屋に来るように言ったり、内容を話したりは出来なかったしね。」

 部屋に来るように言ったりしたら、まず間違いなく他の野郎共から、血涙を流されるか、絡まれるかの2択である。
 そしてエーリカの件を知られれば、血祭りに上げられる事、間違い無しである。

「確かにその通りですね。でも、少し残念ですね。」

 本当に残念そうにしているフラウに、何かそんな要素があっただろうかと、首を傾げる聡。

「何が?」

「私って、一切そういう魅力がないのかと思ってた所に、サトシ様がいらっしゃったので、そういう事かと少し安心したんです。」

 『美少女が何言ってんの?』とか言いたい事は山ほどあるが、それよりも先に突っ込むべき点がある。

「はい?そこは逆なんじゃないか?好きでも無い男が、抵抗出来ない状況下で、部屋を訪ねてくるとか、正直最悪な展開だろ?」

 聡の言う通りである。口にしてから、結構アレな状況だと再認識してしまい、若干自己嫌悪に陥る。もう少し気を利かせて、せめて他に逃げ場があるような状況で、2人きりになるべきだったと。

「誰も頼れる人が居ない中、サトシ様に見捨てられればそれで私は終わりなんです。そうなるぐらいなら、私が必要な状況を作りたい、とか最初は思ったんです。」

「…うん、まぁそれは当然だね。けど、悪いが、それは絶対に、何があろうとも受け入れ無い。俺が保護すると決めたんだ。大人しく、守られてれば良い。」

 眉を顰めながら、聡はフラウを睨む。自身が得する為に、彼女を保護したのでは無い。だからこそ、怒りを感じて、尊大な口調になってしまう。

「何となく、そういう見返りを必要としてない人って事は、最初から分かってました。でも、何と言うか今は、私の為に必要とされたいのでは無く、サトシ様の為に必要とされたいと、そう思います。」

 顔を赤くしながら、意を決したように告げるフラウ。

「???」

 本気で意味が分かってない聡は、『どゆこと?』と、視線で訴えかける。自分の為に必要にされたいとは、一体どういう意味なのか。

「そういう鈍い所は、どうかと思いますが。」

「鈍いか?…まぁ、エーリカにキスされて尚、その気持ちを察せないぐらいだから、鈍いには違いないか。」

 一瞬言い返そうとするが、直ぐに思い当たる節があったので、口に出しながら納得する。

「正直、『血を吸った』というのも、こんな気持ちになった理由の1つだと思いますが、そういう種族特性なんです。だからこれが、吸血鬼として、正しい感情だと思います。」

「…何か聞いた事あるフレーズだな。確か…トイフェルが言ってたような…。」

 フラウの言葉を聞き、何かを思い出せそうな気がする。トイフェルが、魔王としてバリバリ活躍してた頃、誰かから言われたとか…。しかし、聞いたのが遠い昔だったようで、中々掘り返せない。

 その時は、『魔王様はおモテになるんですね』と、たっぷりと嫌味の籠った返しをした気がする。

「魔王トイフェル様ですか?なら言ったのは、『夜の女王』だと思います。」

「あぁ!そうか!そうだった!聞いた話だと、確か、そ言われた後、ヨハンナに熱い視線を送られて、そのまま…キスをされて、押し倒されて、また血を吸われたぁ!?」

 ギョッとして、聡は慌ててフラウを見る。その口は、酸欠の金魚のように、パクパクとしている。
 見ると、彼女の目は、熱で浮かされたかのように視線が定まらず、でもしっかりと聡の姿を捉えてるような気がして―

「落ち着こうか。」

 懇願するように、じっとフラウを見つめて言う聡。

「無理です!昼間、あんな見せ付けられるように、目の前でされたら!」

「は、ははっ。こ、ここに飴ちゃんあるよ?食べる?」

「要りません!それよりも、サトシ様の、唇を!」

「う、うわぁぁぁぁ!?」

 如何にステータスが高くても、それを操る脳がしっかりと機能してなければ、何の意味も成さないことが、今ここで証明される。

  逃げ腰になってる聡に、今まで見せた中でも、一番速い速度で飛びついたフラウは、そのまま聡にキスをするのだった。

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