外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第99話 情けないです

「…あ…れ?」

 体の前面を包む暖かく、柔らかい感触を不思議に思いながら、聡は目を覚ます。

ー昨日は確か…。フラウがやばかったから、スマホにイヤホン繋いで、EDMをガンガンにかけて…寝落ちしたんか!?ー

 ここまで考えて、漸くまともな思考回路に切り替わり、パッと目を見開いて、現状の確認をする。

「あ、もう明るいじゃんか!鳥の鳴き声も聞こえるし。…んで、この全身にのしかかる重さの主は…。」

 もう頭の中ではしっかりと理解しているが、認めたくない気持ちが強く、聡は恐る恐る自分の体へと視線を下ろしていく。

「すぅ…。すぅ…。」

 見ると予想通り、フラウが首に手を回して抱き着きながら、安心しきった表情でぐっすり眠っていた。 

 そんな彼女を起こさないよう、聡はゆっくりと引き剥がして、ベッドから立ち上がる。

ーい、色々とやばかったな。にしても、20分の1も生きてない女の子相手に、意識しちまうなんて、普通に異常な事だよなぁ。まだまだ修行が足らんのぅ…。ー

 床に手と膝をつき、『orz』の形になって落ち込む聡。
 地球の変態紳士諸君とは、諸事情が全く異なるのだが、それでも聡にとっては、それなりにショックが大きいかった。

 未だに耳元で鳴り響くキック音が、その場のシュールさを醸し出しており、余計に聡の心を抉った。取り敢えず落ち着いて考える為に、イヤホンを外してスマホと一緒にポケットに突っ込み、顎に手を当てて目を瞑る。

ーしっかし、これはまずいな。この世界では、寝屋を共にするイコール結婚してるっていうのが、当たり前の価値観だから、誰かに見られでもしたら、大変な事になるぞ!ー

 落ち込む間も無く、聡はどうにかしてこの誤解を受けそうな状況を打破せねばならない。

 間違って誰かに見られでもしたら、その日の内にルドルフなどの耳にも入ってしまい、追及されかねない。
 下手したら、会ったばかりでそんな関係を築くなど有り得ないので、弱みに付け込んだとか考えられてしまうかもしれない。

「お、応急措置として、こっそりフラウを部屋に戻すか?」

 そうすれば、人に見つからずに無かった事に出来るかもしれないと、聡は実行を決意した。

『…(あわわわわ)。』

「…?」

 と、そこで、ドアの方から謎の気配を感じた聡は、何の気なしに見やる。

 すると、何と少し開いたドアの向こうから、小さな犬耳がピコピコ覗いてるのが見えた。

「…ティアナ?」

「ぴゃっ!?」

 その人物、ティアナに声をかけると、小さく悲鳴をあげて、固まっているのが見えた。

「ティアナ、色々と勘違いしてると思うから、ちょっとこっちに来てくれないかな〜?」

 表情はにこやかな笑みを浮かべようとして、失敗して引き攣っており、声音は震えている。

「け、けど、2人の愛の巣に「愛の巣じゃないから、そんな事を廊下で言わないで欲しいな。」は、はい…。」

 誰が聞いてるかも分からないので、聡は大慌てでティアナを部屋に引き入れて、誤解を解くのに必死である。
 ティアナを引き込む姿を見られでもしたら、それはそれで大問題になりそうなのだが、目下の聡の目的は、彼女の誤解を解く事なので、思い至る事も無くドアを閉める。

「…えっと、そういう事じゃないなら、何でお兄ちゃんとフラウさんは、一緒の部屋で寝てたの?」

「い、色々とあって、寝落ちしちゃったんだよ。へ、変な匂いとかしないでしょ?」

 様子から察するに、10歳くらいのティアナも、そういう事は理解してるようなので、弁明の素材を探してそんな事を言ってしまう。

 が、これは完全に墓穴であった。

「くんくん…。少し血の匂いが濃い気がするけど…。あれ?お兄ちゃんの体に、フラウさんの匂いが濃く残ってるよ?」

「…あ。」

 ティアナ達、獣人族は身体能力に秀でている事が多い。犬獣人だと、嗅覚や脚力が特徴になっているので、余計な所まで嗅ぎつかれてしまったようである。

「そ、それはほら、あれじゃん?」

「あ、あれ?」

「え〜っと、あ、そうだ!昨日はコルネリウス様に呼ばれたから、ちょっと気疲れしちゃって、話し合いの時に気が緩んで、2人して寝ちゃったんだ。ほ、ほら、椅子は2つ無いから、ベッドに座ってたから、お互いに距離が近くて、匂いが移ったんじゃないかな?」

 聡は冷や汗ダラダラで、目は完全に泳いでしまっている。言葉数は馬鹿みたいに多くなってるので、テンパっている証拠である。

「首筋にヨダレの匂いが…。」

「カミグセガアルンジャナイカナ?ネテタカラキヅカナカッタヨ!アハ、アハハハハハハ!」

 つい反射的に、噛み付いていた方を手で押さえてしまう聡。
 その行動により、ティアナの疑いの視線が更に強くなるのだが、気が動転している聡は気が付かない。

 致してないという事は理解してもらえたが、残念な事に『そういう関係』じゃないという事の理解まではして貰えずに、刻々とタイムアップの時間が迫るのだった。

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