外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第88話 ド肝を抜かれました

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 翌朝、普段は閑静で平和な安らぎ亭に、聡の大声が響き渡った。多くの人々は、既に起きている時間なので、騒音で苦情を言われる心配はそれ程無いが、それでも近所迷惑には変わりはないので、口を押さえて気分が落ち着くのを待つ。

「…えっと、今何て言ったか、もう一度言ってもらえますか?」

 朝、突然聡の部屋を訪れたフラウの言葉に、思わず叫び声をあげてしまったのだ。
 あまりにも衝撃的な事だったので、聞き間違いかもしれないと、淡い期待を抱いて聞く。

「こ、これから私をメイドとして、サトシ様に誠心誠意、お仕えさせて頂けないでしょうか?」

「…ちょっと待って下さい。何でその結論に至ったか、理由をお願いします。」

 痛む頭を押さえながら、聡は何とか言葉を絞り出す。気を抜いたら、この悪夢を覚まそうと、二度寝してしまいそうである。

「私は、あのまま森の中で、衰弱死するところでした。しかし、サトシ様は私の状態を正確に見抜いた上で、敵対している種族である私に、充分過ぎる程の血を提供して下さり、更には街で生活する権利を与えて下さいました。この時点で、既に恩義をお返しするには、お仕えするしか無いと考えていました。」

 一度も噛むこと無く、長文でスラスラと理由を言っていく。

「…いや、それは俺がやりたいようにやっただけで、別に恩義を感じるような事じゃ「それでも私は恩義を感じています。」はい…。」

 昨日と同じようなやり取りになりそうだったので、聡の言葉を遮り、有無を言わせない表情で言い切るフラウ。

「そして何より、昨日魔道具マジックアイテムを用いた会話の後、サトシ様は非常に寂しそうな表情をしておられました。どのような理由かは分かりませんが、サトシ様のようなお方ですら、実際に会いに行けないのですから、役に立つかは分かりませんが、少しでもサトシのお力になれたらと、そう思ったのです。」

「…。」

ーえ、何この子。めっちゃええ子やん!てか俺は、そんなに分かりやすい顔してたんか…。ー

 フラウの人柄にホッコリする一方、自身の分かりやすさに落ち込む。それを見て、聡が渋っているのだと勘違いするフラウ。

「ご、ご迷惑でしょうか?」

 ションボリとするフラウに、聡の庇護欲(?)が掻き立てられる。

「い、いや、迷惑という訳では…。」

「でしたら、お仕えさせて頂いても、よろしいでしょうか?」

 キッパリと断れずに、曖昧な返事をするが、それを許諾だと捉えられてしまう。

「いや…その…。」

ーな、何て返せば良い!?15歳の美少女吸血鬼メイド!?設定を詰め込み過ぎだろ!?…じゃ無くて!倫理的にアウトだろこれ!?ー

 想定外の事態に、聡は大混乱中である。そんな聡の耳に、更にとんでもないセリフが飛んでくる。

「い、い、今でしたら、身も心も、サトシ様に捧げます。」

「…は?」

「で、ですから、私の身も心も、全てサトシ様の自由に…。」

「いや、聞こえてるから!態々言い直さなくても良いよ!」

「私のような、何の魅力も無い女の体など、自由に出来たところで、サトシ様には何の得も無いと思いますが、それでも私の覚悟が伝わればと思いまして、どのようなご命令でもお受け致します。」

 真っ直ぐに、真剣な表情を向けられて、聡の考えは漸く纏まってくる。言って事はめちゃくちゃだが、本気なのはしっかりと伝わった。

「…はぁ。分かりました。」

「そ、それでは!」

 聡の言葉に、目を輝かせるフラウ。しかし聡は、近寄ってくるフラウを手で制して、言葉を続ける。

「いえ、勘違いしないで下さい。取り敢えず試用期間という事で、1,2ヵ月様子見をします。それで、合わないようであれば、フラウさんの方から申し出て、雇用契約の解消という事でどうでしょうか?」

「…はい、分かりました。」

 少し落ち込んだような表情になるが、直ぐに何かに納得した様子で、笑顔で頷くフラウ。

「じゃあ、そうと決まれば契約書を作りますね。文字は読めますよね?」

「はい、問題ありません。…しかし、契約書、ですか?」

「何か疑問があるんですか?フラウさんも成人何ですから、こういうのに慣れておかないと、近い将来に、酷い目にあいますよ?」

「そ、そうなんですか?」

「はい、そうなんです。適当に契約書も交わさずに、高い金額の物を売り買いして、トラブルに発展したり、良く読まずにサインしてしまい、とんでもない額の支払いを請求されたり…。まぁ、挙げればキリが無いですね。」

「じ、人族の生活は、そんなにも危険なのですね…。分かりました。目一杯気を付けます!」

 別にこの世界が魔境という訳では無いが、気を付けるに越したことはないので、少し大袈裟に話をもって、注意喚起をすると、フラウは素直に頷いてくれる。

 純粋な子を騙してるようで、良心が非常に痛んだが、今後聡がフラウから離れた時の為にも、生活する上での知識を叩き込む予定である。多少大袈裟にしてでも、危機感を持ってもらう必要があると、そう自分に言い聞かせながら、聡は契約書を作成していくのだった。

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