外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第61話 とても楽しいです

「えっと、さ、サトシ?」

ーサトシの表情が一変した!?サトシって、こんな顔できるんだ…。この顔はこの顔で…良いかも!ー

 嗜逆的な笑みを浮かべた聡に、戸惑うどころか歓喜の声を、心の中てあげるエーリカ。彼女はぼーっと聡を見つめながら、うっとりしてしまう。

「ど、どういう事だ?」

 ダメになってしまったエーリカの代わりに、ルドルフが聞いてくる。

「何か金銭で賠償などをしてもらうのか?」

 ルドガーは不思議そうにする。それなら何故、聡は妙な言い回しをしたのかと、疑問に思ったようだ。

「それなら、私からも出したいのだが…。」

 コルネリウスも、ルドガーと同様の疑問を持ったようだが、今回の騒動はニコラが元凶であるため、何も聞かずに金を用意しようと、まだ部屋の中で待機していたメイドに目配せしようとする。

「いえ、違いますよ。ただ少し、ディルクさんには愚痴に付き合って欲しいと、お願い・・・したいだけですよ?」

 『ふふふ…。』と怪しい笑いを零しそうなほど、Sっ気のある笑みで言う聡。

 その笑みに、エーリカ以外のこの部屋に居る者は、背中に冷たいものを感じてしまい、表情を引き攣らせてしまう。

「そ、その程度でしたら、幾らでもお付き合い致します。それとは別に、賠償もさせていただきます。」

「いえ、賠償については、私の愚痴を聞いてから、という事で。」

「わ、分かりました。」

 ディルクは不承不承といった感じに頷く。そんな簡単な事で許されるのかと、納得がいかないのだろう。しかし、聡としては、高々、一般人が持つ程度の端金など、腹の足しにもならないし、何よりストレス・・・・を発散したい気分だった。

 聡の愚痴とは何なのか、固唾を呑んで待ち受ける一同。
 静まり返る部屋の中で、聡は静かに口を開く。

「まず、私を取り押さえようと、指示を出した時の事です。この街では、罪人は申し開きをさせてもらえないのですか?」

 不問にするとか言っておきながら、いきなり話を蒸し返してくる聡。自身でもみみっちいとは思うが、よほど腹に据えかねたのだろう。

「え、あ、いえ、そんな事は決して…。」

「でしたら、何故、私の話を聞かなかったのか、簡潔に述べて下さい。」

 顔面に笑顔を貼り付けて、問い詰める聡。実に楽しげである。

「それはその、ニコラ様の身が危ないと思い、慌ててしまいまして…。」

「しかし、私は街の外から・・・来ましたよね?しかも、ニコラ様の体に毛布巻いていたとはいえ、顔がしっかりと見える状態で、丁寧に横抱きにして。」

 誘拐犯が態々そんな真似をするだろうか?そんな筈はない。どこからどう見ても、救い出して来たと見るのが普通である。

「…あ。」

「ようやく思い至りましたか?幾ら護衛対象が行方不明とはいえ、隊長であるあなたは、正確な判断が出来なかった。功を焦ったのか、それとも名誉挽回の機会を逃すまいと焦ったのかは分かりませんが、そんな人物が護衛隊長とは笑わせる。」

「ぐ…。」

 聡は鼻で笑いながら、しかし、ディルクの目はしっかりと見ながら言う。

「さて次に、私を取り押さえた際の事です。あれは、私で無ければ普通に圧死していましたが、何か申し開きはありますか?」

「い、いえ、ございません…。」

 ボロカスにこき下ろされ、すっかり意気消沈したディルクは、暗い声音で答える。

「ですよね。あれは言い訳のしようがありません。」

「…サトシ。今の話は本当?」

 若干トリップしていたエーリカが、聡の言葉に反応して現実世界へと戻ってきた。

「え?まぁ、本当だけど?踏んだり蹴ったり殴ったり、首を絞められたり、押し潰したりとか、色んな暴力のフルコースを味わったよ。」

 思い起こし、苦笑しながら答える。『中々酷い目にあったな』と、聡は軽く考えていたのだが、エーリカは違ったようだ。

「ディルクさん?あなたは、サトシに対してそんな事をしたのですか?私たちは、ただ取り押さえたとしか聞いていませんでしたが、どういう事ですか?」

 絶対零度のトーンと視線で、ディルクを睨み付けるエーリカ。隣に居る聡は震え上がってしまいそうだ。
 そんなものを向けられている当の本人は、ガタガタと震えながら答える。

「…は、はい、その通りです。誘拐犯だと思っていたので、報告ではそう書きました…。」

 顔から血の気が引き、真っ白になりがらも、素直に打ち明けるディルク。
 今にも消えて無くなりそうな程、白くなっているが、そこに、聡の声が響き渡る。

「そうそこ!そこに対して、物申したい!」

「「え?」」

 エーリカとディルクの声が重なる。
 コルネリウス達も目をぱちくりしている。
 だが聡はそんな事にはお構い無しに言葉を続ける。

「今回は冤罪だったけど、本当に誘拐犯だった可能性もあるにはあるよ?けど、容疑者を殺したらまずいだろ?何故ならば、容疑者は疑いを被ってる者・・・・・・・・だから。」

「「「「「…。」」」」」

「今回の場合、門での様子から俺を誘拐犯だと思ったようだけど、あの一瞬を切り取ってみて、第三者から俺が確実に有罪だと判断出来るか?出来ないよな?ただ怪しいだけだ。犯人に見えたかもしれんが、それはディルク自身の主観だ。」

 一旦言葉を切りつつ、周囲を見渡す聡。この部屋に居る者達は、もれなく呆気にとられた表情をしていたが、構わず聡は話を続けるのだった。

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