外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第60話 お怒りのようです

 「午後からで良いわ。約束よ?」

 聡の言葉に、嬉しそうにするエーリカ。

「分かったよ、エーリカ。待ち合わせはどうする?」

 この街だと、聡にとって待ち合わせ出来るような場所など、街の真ん中にある、ギルドの近くのどデカい塔の真下か、冒険者ギルドくらいなものだが―

「冒険者ギルドだと、騒ぎになりそうだから…。」

 ―エーリカと待ち合わせなどした日には、他の冒険者から、殺されかねない程の視線を受けるだろう。
 まぁ死なないが。
 しかし、煩わしい事には変わりないので、出来ればごめん蒙りたいところだ。

「サトシの泊まってる宿はどう?」

「あ〜、それなら大丈夫か?昼間なら、冒険者は出払ってるだろうし。」

「で、どこに泊まってるの?」

「安らぎ亭って所。お値段もリーズナブルで、部屋も綺麗で、食事は美味しい。さらに、女将さんは優しいし、娘さんは元気で、結構良い宿だよ。ね?ルドルフさん。ルドルフさんは、結構長い間、利用してるんですよね?」

「あ、あぁ、そうだ。」

 『ここで話を振るのか!?』と、驚愕の表情を浮かべながらも、同意してくれるルドルフ。さっきから全然喋ってなくて、出番をあげようと振ってあげたのに、どうやらあまり嬉しくないようだ。

「…そう。じゃあ待ち合わせは、安らぎ亭ね。」

 ルドルフに一瞬、険しい目付きを向けるも、直ぐに表情を切り替えて、エーリカは笑顔を聡に見せる。

ー俺なんか誘って、何が楽しいんだか?…ま、1日くらい、エーリカの好きにさせてやるか。ー

 何で急にエーリカが誘ってきたのか、マリアナ海溝よりも深く考えるが、一切答えが出ないので、もう流れに身を任せる事に決める聡。

 と、丁度そこに、外から扉が『コンコン』とノックされる。

『お待たせ致しました。ディルク様をお連れしました。』

「入れ。」

 コルネリウスが言うと、メイドが扉を開けて、一礼しながら入ってくる。

 その背後には、聡が捕らえられた際に、指示を出していた、今は顔面を蒼白にしたディルクの姿もあった。

「し、失礼します。…サトシ様!この度は、申し訳ありませんでした!!」

 足を震えさせながら入ってきたディルクは、部屋の中に聡の姿を認めると、その瞬間、地面に頭が着くんじゃないかと思うほど、深く腰を折りながら謝ってくる。

「え?」

 当の本人である聡は、急な展開に驚いてしまい、間抜けな声が出てしまう。
 もっと穏やかに、席に腰を落ち着けてから、謝罪が始まるものだと油断していたようだ。

「あいつが、サトシを…。」

 ボソッと、聡の横で呟くエーリカ。その声色は冷たく、体の芯から熱が奪われてしまいそうな感覚に陥った聡は、ぎこちない動きでエーリカに視線をやる。

「え、エーリカ?」

 見るとエーリカは、人の目からは、こんなにも感情が消えるのかと思うほど、冷徹な視線をディルクに向けていた。

「サトシ?どうしたの?」

「いや、何でもないよ…。…あ、それよりも、ディルクさん、顔を上げて下さい。」

 頭を下げたままのディルクを放置してしまっていた事に気が付いた聡。
 
「…。」

 だが、ディルクは頑なに顔を上げようとしない。

「ディルク。顔を上げなさい。サトシ殿が困っておられるぞ。」

「は、はい!申し訳ございません!」

 コルネリウスが見かねて、助け舟を出すと、ディルクは大慌てで顔を上げてくれる。

「取り敢えず、立ったままお話というのもあれですので…。」

 チラッとコルネリウスに目配せをする。
 すると、ちゃんと聡の意志を汲み取ってくれたコルネリウスが、ディルクに指示する。

「ディルク。そこに一旦座ってくれ。」

「い、いえ!私は謝罪する身です!立ったままで問題ありません!」

 ピシッと気を付けをしながら、必死の形相のディルク。そのあまりな姿に圧倒され、聡は折れるしかないと感じてしまう。

 「そ、そこまで仰られるなら…。」

「感謝致します!」

 またしても深く腰を折るディルクに、若干疲れを感じてくる聡だが、取り敢えず言いたい事は言わせてもらう事にする。

「では、ディルクさん。」

「はい。」

「まず大前提として言っておきたい事は、私としましては、先程の謝罪で、今回の件は不問とさせていただきます。」

「「「「「サトシ(殿)(様)!?」」」」」

 聡の言葉に、ディルク以外から驚きの声があげられる。

「し、しかし、サトシ様。それでは、サトシ様が1人、損をしただけに…。」

 驚きのあまり、ディルクはしどろもどろになりながら、何とか言葉を紡ぐ。

 だがしかし、聡の言葉に、驚きを感じただけでは無い者が居た。

「そうよサトシ!自分が一体、どんな仕打ちを受けたのか、忘れたわけじゃないのよね!?」

 エーリカである。彼女は顔を真っ赤にして、本気で激昴しているようで、今日初めて会った時の凛とした姿からは、想像もつかないほどの大声で、聡に詰め寄る。

「勿論だよ、エーリカ。」

 何でこんなにも怒ってくれる・・・のか、皆目検討もつかないが、嬉しくは思う聡は、少し笑みを浮かべながら、怒りに震えるエーリカの肩に軽く手を添える。

「な、何を?」

 突然の聡の行動に、さっきとは違う意味で顔が赤くなるエーリカ。

「俺は、大前提として・・・・・・、とだけ言ったんだよ?他にも何かあるに決まってるじゃないか。」

 そんなエーリカに、聡は少し嗜逆的な笑みを浮かべるのだった。

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