外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第9話 日々の過ごし方 (2)

「条件その3で、朝昼晩の3食、まともな飯を食わせてもらいたいんだが。なんなら材料と設備さえあれば、俺が作るんだけど。アイテムボックスやらインベントリーやらの中には、食材は無いのか?」

マジ顔で問い詰めるように聞く聡。

「え?お、おう?アイテムボックスの中に、1000人以上の者が、50年は食っていけるくらいの食料は入ってるぞ?【アイテムボックス】の容量と性能は、魔力量で決まるから、時間停止機能もあるから腐る心配も無いしな。」

「ほほぅ。それは凄いな。魔王だからと期待してみたものの、もはや何でもありだな。」

感心半分、呆れ半分といった様子の聡。
聡の感覚からいえば、魔王というのは自分の手では届かない、至高の存在であるので、多少の無茶はきくだろうと思ったのだ。
そしてそんな聡の予想を遥かに超える、桁違いの性能をもつ【アイテムボックス】などという、とんでもアイテムを持っているトイフェル。これぞ魔王であろう。

「そ、そうか?しかし、食材があった所で、サトシに料理なんて出来るのか?一応機材は揃っているのだが。」

そう、それである。トイフェルは永らく生きているが、自炊などはからっきしであり、自身の部下の1人には『よく今まで生きてこられましたね』と、蔑みの目を向けられた事すらある。

「そりゃ勿論、現代っ子の俺には料理なんざ出来るわけも無いだろう。」

聡は何を当然の事をと、自信満々に答える。

「そうか、出来ないのか…って、は!?出来ないのか!?」

聡のちっとも気負いしていない言い方に、思わず流しそうになるが、慌ててトイフェルは問い詰める。
そんなトイフェルの脳裏に蘇る悪夢。
魔王になる以前のある日、トイフェルはいい加減に料理を克服しようと、意気込んで当時用意出来る最高の機材と食材で、レシピに従ってその通りに作ってみた。
そうして出来た物は、見た目は完璧、匂いも食欲をそそるものであった。そのためトイフェルは、『なんだ。余も、やれば出来るではないか!』と、何ら疑う事もせずに1口、料理を口に入れた。
しかし味は無く、食感は泡のように非常に軽いものであった。疑問符を浮かべながら、トイフェルはもう1口食べる。
その瞬間──世界は崩壊した。脳天を突き抜けるかのような苦味、そして込み上げてくる吐き気。舌を刺激するのは今まで味わった事が無いレベルの辛味。鼻を抜けるのは、日本風に言えば、魚の煮凝りにクサヤとパパイヤなどをこれでもかと放り込んでから、更に煮込んで、1ヶ月ほど日向に放置したかのような臭みだった。

「お、おい、トイフェル?どうした、遠い目をして?」

問い詰めるため、詰め寄ってきたトイフェルが急に遠い目をしだしたため、聡は何事かと思い、正気に戻そうとその肩を掴んで揺さぶる。

「…はっ!?あ、あぁ、すまん。遠い昔を思い出していた。余は、料理が苦手なのだ。」

「はぁ?」

正気に戻ったトイフェルの口から出た言葉に、聡は間抜け面で聞き返す。

「苦手って、どのくらい?」

「…それはもう、ある者に言わせれば、『もはや呪いの域』だそうだ。」

「怖っ!そこまでかよ!てか、俺は料理がほぼ未経験なだけで、激マズの暗黒物質作り出すとか、そんな事は無いからな?」

『漫画やアニメ以外にも、現実にそんな奴居るんだな〜』と、聡は本気で引きながら言う。
聡自身、実家暮らしであり特に料理をするような理由も無かったため、強いて言うならば家庭科の授業ぐらいでしか、料理をした事が無い。
だからほぼ未経験者だろう。しかし、そんな一種の芸術作品など、どう足掻いても作る事は難しい。どう間違っても、遠い目をする程食えたもんじゃない味は作り出せない。

「いや、余の場合は、見た目は完璧なのだ。特に焦げ付いた様子も無く、謎の物体がスープに浮いているなどという事も無い。ただ味がおかしいだけだ。」

「寧ろそっちの方がタチが悪いわ!てか、いつからトイフェルが料理苦手って話になったんだ?」

トイフェルの説明に、聡はツッコミを入れるが、いつまでもメシマズの話をしていても仕方が無いので、脱線した話を元に戻すきっかけを作る。

「…さぁな?まぁ、ともかく最初の方は、サトシが試し試しで作ればいいさ。」

「そうだな。条件はこんな感じかな?後は、思い付き次第、追々追加する形で。」

聡は自身の出す条件全てに結論が出たため、一息つく。

「あぁ、分かった。さて、今は夜の9時だが、どうするか?」

そんな聡を尻目に、トイフェルは懐中時計・・・・を懐から取り出し、時刻を確認する。

「…何をサラッと文明の利器を使ってんの?あ、いや、ゼンマイ式の懐中時計なら、中世でもあったか?」

「ん?何を戸惑っているのだ?」

懐中時計を身近に使っていた訳では無いが、現代日本においてそれほど珍しい物ではないため、この世界にもあった事に、聡は意外性を隠しきれない。
聡の様子にトイフェルは首を傾げている。

「いや、何でもない。というか今更ながら、何でこっちの世界でも日本語を使ってるんだ?」

『夜の9時』という、単位や概念も同じという、訳の分からない状況に、聡は疑問を感じて質問する。

「それはだな、召喚の魔法陣によるものだ。折角召喚したものの、言葉が通じないのでは、意味が無いだろう?だからそういう機能を加えたらしい。」

「あ〜、うん、分かった。何しろ異世界から人を呼ぶんだ。言葉が通じる訳が無いと、作成者は脳に直接言語とかを刷り込む機能を付けたのか。」

そんな説明を聞きながら、状況を深く知っていく聡であった。

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