外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第8話 日々の過ごし方 (1)

勢いつけて、『討伐開始!』などと言ったが、聡はいきなり切りかからずに、何やら思案顔でトイフェルに言う。

「さて、トイフェルを倒すにあたって、幾つか呑んでもらいたい条件がある。あ、呑まなくても、結局トイフェルは倒すから安心してくれ。」

聡はこう前置きをしながら、トイフェルに条件を出していく。

「まず1つ。俺はトイフェルを連続して攻撃し続けるという事はしない。理由としては、まぁ、人間としてそんな生活は荒みすぎだからだ。」

「ふむ。確かにそうだな。余を倒した後、生活リズムを普通の人間に合わせられないとなると、一般人に紛れて平和に暮らせないからな。まぁ、500年に間に合うなら、それでも良いぞ。」

聡の出す条件は、別にトイフェルにとってマイナスになるものでは無かったため、呆気なく許可を出す。

「そうか、助かるよ。大体8時間位でやるから。」

そんなトイフェルに、聡はほっとした顔で言う。
するとトイフェルは、何かに気が付いたようで、聡に聞く。

「ん?そうなると、時間短縮云々は、嘘になるが?」

痛いところを突かれた聡は、少し顔を赤くしながら、言い訳がましく大声で言う。

「ぐ!べ、別に良いじゃないか!二刀流!これ、男の憧れ!OK!?」

「お、おーけー。…そ、それより、残りの時間は何をするのだ?まさか寝て過ごすなどとは言わないよな?」

そんな聡の気迫に圧されたトイフェルは、取り敢えず頷くが、当然残りの時間の使い方について疑問を抱いたようだ。

「それは2つ目の条件、というかお願いになるな。俺に、この世界の常識を教えて欲しいんだ。いざ外に出て、いきなりポカやらかして、牢屋にぶち込まれるのはゴメンだからな。」

何故か最悪の状況を想定して、そんなお願いをしてくる聡に、トイフェルは少々呆れ気味な表情で言うが、この世界では確かに貴族などに無作法を働けば、即刻首を撥ねられても文句は言えないので、納得して頷く。

「そ、それもそうだな。…常識の範囲内で暮らしていれば、そうそう捕まる事も、ってその常識が無いのだったな。よかろう。余が常識を教えてやる。」

「ありがとう。助かるよ。けど、俺に学が無いみたいな言い方は、ちょっと癇に障るな。一応俺は、こう見えて教師を目指して勉強してたんだ。」

「ほう、教師か。余程優秀だったのだろうな。」

自慢げに言う聡に、トイフェルは些かオーバに感嘆する。
そのオーバな反応に、聡は思い当たる事があるようで、トイフェルに聞いてみる。

「何か勘違いしていないか?この世界がどうかは知らんけど、俺の居た世界では教師の数は、それはもう数え切れないほど居たぞ?」

「何?そうなのか?こちらの世界では、国に20人居れば御の字だぞ?」

「マジか。…あ、そうか。こっちの文明レベルだと、貴族とか金銭に余裕のある奴しか学べないのか。魔法のある世界に、産業革命とか期待しても無駄かな。」

別に聡は魔法を貶している訳では無く、言葉足らずだが、強力な魔法を使える者は貴族に囲われ、結果的に一般市民と貴族との間に、絶対に超えられない壁が存在してしまうと言いたかったのだ。
これは聡の知らない事であるが、魔法は才能のある者しか使えず、使えるなら一般市民であっても、大金を以て貴族に歓迎されるのだ。これでは武力の差は永遠に埋まらないだろう。

「産業革命?まぁ取り敢えずは、教師すら目指せるほどの知識を与えてやろう。無茶言って余の願いを叶えてもらうのだ。報酬には、余の財宝だけでは足りないと思っていたところだ。望むならば、余は何でも与えなければならないだろう。」

軽いノリのお願いから一転、重い事を言い出したトイフェルに、聡は困った表情をする。

「お、おう。そんなマジにならなくても良いのに。それだと俺もやりにくいし。」

「そうか?サトシが言うなら、あまりプレッシャーをかけるような事は言わないでおこう。」

困った表情の聡を見て、トイフェルはニヤリと笑う。

「え?わざとなん?え?ぶち殺されたいん?いや、結局殺すけど。」

両手に握った剣の柄に、更に力を込める聡。

「す、すまん。依頼を受けてもらえると分かり、つい浮かれていたのだ。許してくれ。」

トイフェルはドMだが、別に機嫌を損なわせて、嫌われるのが好きという訳では無いので、慌てて平謝りする。
因みに、聡の言葉に少し表情が緩みそうになったのは秘密だ。

「ま、良いけどな。冗談も言えないようなら、これから先ずっとしんどいからな。先が長いんだから、もう少し気楽に行こうぜ。ただし、質の悪い冗談は禁物な。」

「了解であります!」

ビシッと背筋を伸ばして返事をするトイフェル。見るからに弱そうな青年に、ゴリゴリで滅茶苦茶強そうなイケメンが怯えている図なので、傍らから見れば何処と無く違和感を感じるものであった。
が、指摘する者はこの場に居ないので、話は先に進んで行くのだった。

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