植物人間

透華

金具の音

「ごめんなさい!」
彼女は勢いよく振り返ると俺に頭を下げた。
なんだかいちいち忙しい子だな。
俺は彼女の落とした鞄を拾いながら「大丈夫ですよ」と声を掛けた。
「当店は初めて、ですよね?」
彼女に鞄を渡した俺は笑顔を貼り付け、接客姿勢に戻る。
「…はい」
さっきとは打って変わりか細い声で彼女は答えた。
唇を噛み締め、顔が真っ赤に染まっている。
「では、表にご案内いたします」
俺はそれに気づかなかったように先立って歩き出す。
彼女は鞄を掛けなおすとうなだれたまま後に続いた。
鞄の金具の音だけがやけに鮮明に聞こえた気がした。


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