世界にたった一人だけの職業

Mei

救出。そして、その後。 ー1

 蓮斗たちがグライシアス鉱山から脱出すると、時刻は既に朝を迎えていた。

「……何とか脱出出来たようだな……」

 蓮斗は無事に脱出できたことにホッと息をついた。

 蓮斗の転移テレポートがあと少しでも遅れていれば、崩れゆく鉱山の下敷きになっていただろう。そう考えただけでもゾッとする。

「さてと……。ここなら人目にはつかないか……?」

「ああ、たぶん大丈夫だろう。ここは普段人通りもないような場所らしいからな」

 それにザティック盗賊団が拠点アジトとして使っていた場所だ。人目の多い場所に構えるなんてことはまずないだろうというような事を秀治は蓮斗に言った。

「……そうか。それもそうだな……。人目の多い場所に盗賊達が拠点を構えるわけがないよな……」

 蓮斗は呟くように反芻した。

「……よし。"万能収納インベントリ"」

 蓮斗がそう唱えると、ブラックホールもどきが出現した。

「出てきてもらって大丈夫ですよー」

 蓮斗が万能収納インベントリの中にいる人々にそう呼び掛ける。子供だけなら敬語を使う必要は無かったが、大人もいたため蓮斗は敬語を使った。

 暫くすると子供達がゾロゾロと出てくる。その後に大人達も出てくる。蓮斗は万能収納インベントリから誰も出てこないことを確認すると、万能収納インベントリを閉じた。

「あ、あの……」

 一人の女性が前に出てきた。人間族の女性だ。歳も若く、日本で言うところの20代くらいだろう。サラサラのショートボブがとても印象的であった。

「この度は私達をお救い下さり、有難うございました。皆を代表してお礼を言わせて頂きます」

 女性はそう言うと頭を下げた。

「い、いえ……。その、なんというか……」

 蓮斗はてっきり反発されるのを覚悟していたため、いきなり礼を言われた事に戸惑った。とりあえず心配が杞憂だった事に蓮斗もホッとした。

「……蓮斗」

「ん? 何だ?」

「街の事は言わなくて良いのか?」

「ああ! すっかり忘れた……。サンキュー、秀治」

 蓮斗は今の今まで救出することに手一杯だったこともあり、自分で街をつくると言ったことが頭から抜けていた。それを覚えている秀治に蓮斗は素直に感心した。

「……んんっ。えーと、皆さん。帰る宛とかってあります?」

 蓮斗がそう尋ねると、首を縦に振る者と横に振る者に別れた。

「……どうする、秀治」

 蓮斗は小声で尋ねる。

「取り敢えず、帰る宛のある人は俺達のどっちかが護衛について見送った方が良いと思う。帰る宛の無い人は……。これも俺達のどっちかがついてここで待つって形でどうだ?」

「う~ん……。待たせてる間はどうするんだ? ただ待たせるっていうのもちょっと……」

「……街について説明すればどうだ? それでも時間が余るのなら街作りに着手してもいいと思うぞ」

 秀治の提案に蓮斗は分かった、と頷いた。

「じゃあ、護衛はどっちが行く?」

「護衛は…………俺が行く。街作りを言い出したのはそもそも蓮斗だしな。説明は任せたぞ」

 秀治はそう言うと蓮斗の肩を叩く。蓮斗はおう、と頷き再び捕らえられていた人達の方へと向き直った。

「えーと。これから二手に分かれてもらいます。俺の方には帰る宛の無い人、帰る宛のある人はそちらの方に集まってください」

 蓮斗は秀治の方を手で示す。秀治の名前を言ってもわからないと思い、蓮斗はそうした。

 蓮斗がそう指示すると、皆一斉に動き始めた。暫くすると、全員きっちりと分かれた。帰る宛の無い人が少し多い気がする。

「秀治、そっちは任せたぞ」

「了解だ」

 そう言うと、秀治は帰る宛のある人を引き連れて、この場を後にした。蓮斗はそれを見送ると、帰る宛の無い人達の方へと向き直る。

「……皆さん。聞いてください」

 蓮斗がそう言うと、皆こっちを向く。蓮斗はどう切り出したら良いものか少し悩んだが、率直に切り出すことを決めた。

「…………ここに街を作ってみませんか?」

 蓮斗がそう提案すると皆動きを止め、固まってしまった。

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