ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

散々な一日 (ラスト)


闇ギルド。それはゲーム『オール・ワールド』にも存在した。
一般人達は知らないものの、裏の世界で暗躍する隠れた組織と言う設定だった。

ゲームでは彼等に何度も邪魔をされし、それだけ助けられた経験がある。

例えるなら、冒険者ギルドが真っ当な正義の組織だとすると、闇ギルドは知っていても見て見ぬ振りをされる必要悪の組織だ。

闇ギルドには闇ギルドなりのルールがあり、それなりの規律によってこの街の悪を統率している。
それ故に、領主やそれに準ずる者達は彼等の事は知っていても知らぬ振りをする。

と言うのが、俺の知ってる内容。

そして、そんなギルドの名が生き返らせた男達の口から吐き出された。

それ以外は、言い訳とか自慢とかばかりで聞くに耐えない話だったけど、必要な箇所だけ摘出して要約すると『闇ギルドをクビになったから盗賊行為を繰り返していた』らしい。

「もう死にたくないなら、シッカリと手に職を付けて働くように」

「「「はいっ!」」

三人が元気一杯。畏怖一杯の返事をしてくれたから、俺は満足気に頷く。

少し前までの身勝手な彼等とは別人のようだ。

まぁ、既に何度か色々な殺し方とか拷問の仕方とか試したから、ここまで恐怖を抱くのも頷ける。

ちなみに、一人少ない理由は本当の意味で死んだから。

死亡者は男の子。『もう嫌だ!生き返りたくないっ!嫌だ!嫌だあぁぁぁっ!!』とか夜中なのに叫び始めたから、近所迷惑だったし、『神聖水』の実験体になってもらったら還らぬ人となってしまった。

あぁ、命とはなんて儚く脆い者なんだろう…。

ちなみに、実験の結果は3分内であれば普通に問題なく復活するけど、3分を過ぎると障害が残る。男の子の場合は目が見えなくなって耳が聴こえなくなっていた。
そして、5分経過した後はどれだけ振り掛けても生き還る事はなかった。

「クフフッ」

でも、成果はあったんだ。嬉しくて笑いが漏れてしまうのも無理はない。
実験の結果を知れたし、なにより、俺の欲求不満を少しだけ埋めることが出来た。

こんな素晴らしいことはない。

「ヒッ…!」

三人の内の一人が悲鳴に似た声を上げたみたいだけど、俺は聴かなかったことにしてこの場から解散させる。

すると、蜘蛛の子を散らしたように逃げ去っていった。

あとは彼等次第。真っ当に生きて行くなら、俺達に関わることはないだろう。

「さて、あとは…」

帰ろう。
眠たいし。

ちなみに、リーリは先に帰らせた。
『死体を届けてくるから、先に帰ってて』と偽って、先に帰らせたのだ。


〜〜〜


真夜中。と言うよりも、朝に近い時間帯。
視界の左上端にある時刻表を見ると、朝の4:16の記載がある時間。

俺は不意に目が覚めた。

いや、厳密に言うと、俺自身はまだまだ寝足りなくて眠たいのに、五感のような何かが俺を叩き起こした。

なぜか、妙な焦りを感じる。

その焦りは違和感となって俺を襲う。
取り敢えず、体を起こしてベッドに腰を落ち着けて天井のシミを見つめる。

「ねむい…」

でも、やっぱり眠たい。
違和感は気の所為。そう思って再び寝入ろうとした時。違和感の正体に気が付いた。

「ーーリョウっ!?」

余りの驚きに目が覚めてしまった。

なんと、隣の部屋で寝てる筈のリョウの青マークが無くなっていたのだ。

どこを探しても、この宿屋内にリョウと思わしき青マークはない。

アルトの部屋に一つ。間違いなくアルトだ。
少し離れた建物にも青マークが四つ。
ここは俺の記憶が正しければ宿屋だった筈だから、俺を兄貴って慕ってくる冒険者達とリーリだと思う。

アイツ等、同じ宿屋なのか…。

そして、冒険者ギルドにも青マークが…これは、あの受付嬢かな?

現在見えているマップではそれだけしか確認できない。

今すぐにリョウを見つけなければならないと焦りを覚え初めて、急ぎマップを拡大して表示するとーー見つけた。

青マークが二つ同じ場所にいる。間違いなく片方はリョウだろう。もう一つは心当たりがないけど、そんな事よりも、リョウが居るその場所に頭痛を覚えた。

その場所というのが…。

「どうして、よりにもよってそこなんだよ…っ」

ついさっき襲ってきた男達を殺して去って行った女の子が向かった建物の前…おそらく、闇ギルドの前だ…。

兎に角、早急に面倒が起きる前に連れて帰らなきゃ…っ!

「『転移』っ!」


〜〜〜


転移した先は、なんだか空気がドンヨリとして薄汚い小道だった。
ゲームでは、ここはスラム街と呼ばれる場所で、数歩歩けば確率で金銭か『イベントリ』内の荷物が盗まれるような場所だ。

俺はそんな場所に『転移』してきて、一瞬で顔を顰めた。

なにせ、臭い。汚い。不潔。の俺の嫌いな三拍子が揃ってるんだ。顔を顰めてしまうのも当然と言えよう。

でも、そんなワガママを言ってる余裕はない。

「何があったっ!?」

なにせ、目の前には誰かも知らないオッサンをアイアンクローをして持ち上げているリョウの姿があったのだから。

そのすぐそばには御者のいない馬車が佇んでる。オッサンの服装や手に持ってる鞭からして、彼がその馬車の御者で間違いないだろう。

でも、どうしてそんな事に?

リョウはバカで問題ばかり起こすけど、関わらない限り危険はない筈なんだけど…。

取り敢えず、リョウのアイアンクローを止めさないと…。これ以上の面倒はゴメンだ。

穏便に事を済ませるのは今からでも遅くないはず…っ!

そう思いながらリョウに近付くと、建物内に居る緑マークが、オセロの駒を裏返したかのように赤マークに一変した。

敵意むき出しじゃん…。

「んあ?おう、ヒビキじゃねぇか。こんなところで何してんだ?」

「リョウこそ何してるんだよっ!」

「俺は…アレだよ。アレ。地図見てたら青が街に来たから見に来たんだよ。で、な?」

同意を求めるかのように言われたけど…『な?』ってなんだよ!『な?』って!
でも、なんとなく分かってしまう俺がいるっ!

要するに、マップを見ていたら青マークが街に入ってきたから、確認しに来たら馬車の中に居て、その馬車を操る御者を問い詰めている。っと、そう言う事なんだね…。

リョウの行動に思わず頭痛を覚えて頭を抱えたくなるのを堪え…堪えきれずに片手で目頭を抑えて空を仰ぐ。

まだ日は出てない。けど、空は少しづつ明るみを増して来ている。

俺に安眠の時は来るのか…。

「取り敢えず、彼を離してあげてよ。話が出来ないでしょ?」

「いや、出来るぞ?」

そう言うと、リョウはオッサンを掴む手に力を込めて叫んだ。

「おいゴラァ!さっきまで俺に話した事、全部テメェの口で説明しやがれっ!」

普通に喋ってもオッサンの耳に届くのに、わざわざオッサンの耳に口を近付けてから大声で怒鳴るリョウ。

ただでさえ普通にしてても怖い顔をしてるのに、今は普段の倍以上怖いよ。
泣く子も黙り込んでしまう怖さだよ。

取り敢えず、このまま喋らせるのは可哀想だ。落ち着いて話せない。

…っと、言うのは建前で、本音は今オッサンが浮かべてる顔が見てみたいと思ってしまった。

「は、はひぃっ!」

オッサンが返事をしてしまったけど、俺は彼が喋り出す前に声を発する。

「ちょっ!ちょっと!リョウ!そのままじゃ会話にならないからっ!離してあげよ?ね?俺はこの人とちゃんと向き合って会話したいから」

「チッ」

舌打ち一つされたけど、リョウはオッサンを解放した。

「ぐっ…ぅぅ…どなたか知りませんが、ありがとうございます…し、神父…様…?」

さっきまでアイアンクローをされてたんだ。頭が痛むのは分かる。でも、最後になぜここに神父が?的な顔をされたので、思わず吹き出しそうになった。

ププッ。その表情、最高に笑いを誘うよ…。

まぁ、俺がここにいる理由を聞かれてもその質問に答えるつもりはないけどね!

「…おい」

リョウから送られる冷ややかな視線がオッサンに突き刺さる。
オッサンはビクッと怯えて体を縮こまらせると、ゆっくりと話し始めた。

「お話しします!お話しさせて頂きます!実はーー」

数日前にボロボロの服装をした女の子を見つけた。身体は痩せ細っていたけど、奴隷として売れそうだったから拾った。

そんな話を長々と事細かに、どうでも良い事まで話して来た。時間稼ぎのつもりなんだろう。

マップを確認すると、周囲の建物にある赤マークが続々と増えつつある。
他の建物から隠し通路的なモノを通って赤マークが集まってるみたいだ。
足元にも赤マークが忙しなく動き回ってる事を見る限り、地下通路があるのかな?

どうやって召集をかけてるかは分からないけど、続々と人が集まって来てるのを分かってるからこそ、オッサンは未だに喋り続けているんだろう。
で、それに俺は気付いていながら止めるつもりはない。

馬車の荷台に乗せている青マーク以外の奴隷にする予定の者達の情報。
隣街に起きた事件や、この国の噂や。隣国の噂など。本当に色々な、多種多様な情報が手に入るし、話を止める必要性も感じない。

話させている方が有用性が高い。

リョウはイライラし始めて今にも暴れ出しそうになってるけど、俺はそれを片手で落ち着くように示しながらオッサンの話に聞き入る。

普通に過ごす人なら全く関係のなく、必要性のない情報。だけど、今の俺には凄く必要な情報だ。
今の内に手に入れれるだけい手に入れてみせる。

そう思っていると、赤マークの集団が窓際や路地などに場所を移して待機し始めた。
まだ赤マークは集まって来ているけど、さっきまでと比べれば集まりは悪い。

っと言う事はーー。

「ブヒャ!ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

御者が、さっきまでの媚びた態度から一変。俺達を嘲笑うように大きな笑い声を発した。

「髪燃やすファイア」

その嗤いにリョウさんキレて魔法を放った。

オッサンの薄くなりつつある髪に着弾し、当たった箇所だけ髪が燃え尽きた。

オッサンは落ち武者のような髪型になった。

「プフッ」

あーっ、ダメだコレっ!
面白すぎて堪えきれずに少しだけ笑っちゃったよ。

「な、何をした!?」

髪をサワサワと触るが、そこにはあった筈の髪はなくーー。

「私の…私の髪がないっ!?私の髪がっ!!」

「プフフッ」

また笑いが漏れ出てしまった。

でも、仕方ないと思う。こんな哀れなオッサンを笑わずにはいられない。
周りに隠れている赤マーク達の何人かも、笑いを堪えきれずに声が漏れ出てしまっている程だ。

隠そうとはしているつもりなんだろうけど、よく聞こえてくる。

「こんな事をしてタダで済むと思うなっ貴様等!この一帯の建物は全ては闇ギルドのモノだ!お前達は闇ギルドの奴等に囲まれているんだよっ!もうお前達に逃げ道なんてありはしないんだ!ブヒャヒャヒャヒャヒャッ!」

汚い笑い方だなぁ。
ブタみたい。

それは兎も角、最後の最後に美味い情報ゲット!

確信はなかったけど、オッサンの言葉で確信を持てた。
ご親切にこの辺りにある建物全て闇ギルドの建物だと教えてくれたんだ。嬉しい情報だ。

ゲームじゃ闇ギルドの住処なんて登場しなかったからね。
他の情報も全てペラペラと喋ってくれたお陰で、俺達が今居る国が何をしようとしているのかも分かったし、その他の国がしようとしている事も大体の予測がついた。

至れり尽くせりすぎて本当に笑えてくる。

「あー…リョウ?殺しちゃダメ。建物の破壊もダメ。後で新しい武器をあげるから、今は穏便に済ませようね?」

今にもオッサンに飛び掛かりそうなリョウに釘を刺しておく。
凄く嫌そうな顔をされたけど、その反応を見る限りは了承してくれたみたいだ。

「何してるっ!早くコイツ等を殺せっ!!」

オッサンが声を荒げるのと、赤マークが飛び出すのはほぼ同時だった。

赤マークの正体である闇ギルドの連中が襲い掛かって来ている最中に、俺は一人で場違いな事に気が付いた。

赤マークに混じって、一人だけ緑マークがいた。

そちらに視線をチラリと向けるとーー俺達を襲った男達を殺して去っていった女の子が居た。
やっぱり、彼女のアジトはここだったか。

でも、彼女の浮かべている瞳に疑問を抱く。
あの目は…観察?いや、違う。なぜか俺達を羨ましそうに、少しだけ興味のある物に向けるような眼差しで見つめている。

取り敢えず、俺は一歩下がって今しがた振り下ろされた剣の攻撃を避けてから、軽く手を振りながら笑いかけてやると、彼女は少し驚いたように目を見開いていた。

まさか、見つかるとは思ってもなかったんだろう。

「ぅおりゃーっ!!」

っと、ここに居たらリョウの攻撃に巻き込まれそうだ。

バックステップで後方に退避すると、目の前を巨漢の男が横切った。
どうやら、リョウの無茶苦茶に振られる剣を受けてしまったようだ。

「おい気を付けろ!コイツの力、尋常じゃねぇぞ!!」

誰かが注意を呼びかけているけど、被害者は増える一方。

リョウに近付けば鞘付きの剣で殴らるし、離れてしまえば攻撃が届かない。
かと言って、矢を射ったり魔法で攻撃しようにも味方が邪魔で出来ないし、したとしてもリョウに攻撃が通るわけがない。

彼等とリョウのレベルとステータスの差が大きすぎるし、ジョブの違いも大きい。なにより、リョウに与えた防具やアクセサリーの力を持ってすれば、これぐらいは無傷で耐え切れる。

魔法なんて、たまに跳ね返されてしまうし、連中からすれば最悪な相手だろう。

「ぐはっ!?」
「がっ…!?」

また一人。また一人と運悪くリョウの攻撃を避けきれなかった者達が殴り飛ばされてゆく。

例え、斬られても、魔法を撃たれても、矢を射られても、リョウには傷一つ付かない。
俺達を傷付ける事が出来るのは、本当の強者だけだ。

そうだな…。例えるなら、LV100を超えていたら鈍の剣でもいけると思う。

この世界の理はまだ全てを把握しきれてないけど、ゲームなら低レベルでもLV999のHPを減らす事が出来ていた。

でもまぁ、武器によって違いはあるけど、大抵は1のダメージで、自動回復とかあったし、1秒で全回復してしまうのがオチだった。

これはゲームじゃないから確信がある訳じゃないけど、これぐらいの敵ならリョウ一人で大丈夫。っと言うよりも、リョウ一人でも過剰戦力になるだろう。

そこに俺が出てしまうと過剰戦力どころか、敵が可哀想な状態になる。
だから、俺は手を出さない。

襲い掛かってくる者達の攻撃や、リョウに吹き飛ばされる者達を避け続ける事に専念する。

「うらぁあぁぁ!!」

「よっと」

正面から上段から振り下ろされる大剣。それをタイミングを見計らって身体を逸らして避けると、背後から「うわっ!?」と声がした。
背後からコッソリと攻撃してこようとしていた奴が居たから、驚かせるタイミングで避けてやったのだ。

動作や挙動。使用スキルなどを見るに、低レベルなものばかり。コイツ等のレベルはたかが知れているだろうから、こんな子供騙しにでも簡単に引っかかってくれる。

まぁ、その程度の攻撃ぐらい当たっても痛くも痒くもないんだけど…気持ち的に嫌になるから避ける。避けまくる。

暫くそうしていると、誰も攻撃してこなくなった。全員が俺達を取り囲んでいるけど攻撃してこない。

ようやく攻撃しても意味がないのを悟ったのだろう。

でも、リョウは止まらない。

リョウが一歩踏み込むだけで、イかれたステータスの力を遺憾無く発揮し、その辺の奴等が目で追えないような速度で移動すると、瞬く間に相手を殴り飛ばしている。

無抵抗とは言えないけど、攻撃してこないのに殴るのは可哀想に思える。

俺的には平和的に解決したいんだけどなぁ。

「う、動くなっ!動くなと言っているのが聞こえないのかっ!」

喧騒に紛れてそんな声が聞こえてきた。
でも、リョウには聞こえてないようだ。

俺は声のする方に視線を向けてみるとーー。

「あ、ミミル」

「コ、ココハさん…っ!」

馬車に乗せられていた青マーク。バマルツ村に居る筈のミミルが御者のオッサンに捕らえられ、首筋に短剣を突き立てられていた。

なのに、俺を見た瞬間、表情を怯えから喜びに一変させて、感極まったかのように瞳からポロリと涙を零した。

「はぁ…」

溜息の一つぐらい出したくなる。
どうしてミミルがここに居るのかとか、ミミルを人質に取ろうと思った思考回路とか、リョウの暴れ癖とか、無駄だと分かっていながら襲い掛かってくる者達とか、俺の注意不足とか…。

本当に色々と思う所があって、深い。それはもう、凄く深い溜息を吐いた。

そんな今の俺が隙だらけに見えたのだろう。影からコッソリと忍び寄ってきて不意打ちを仕掛けようとしてきた奴がいた。

でも、そんな明からさまな不意打ちが通じるはずもなく、ひょいっと軽く避けてから、襲ってきた奴の背中をドンっと軽く押してリョウが暴れている場所に突き飛ばす。

「おらぁっ!」

「ぶっ!?」

さすがだ。打ち合わせもしてないのに上手く合わせてくれた。
リョウが振るったフルスイングが見事に男の顔面に直撃して、クルクルと宙を舞いながら俺の足元に落ちた。

死んではいないようだけど、頭を強く打ち付けたんだ。気を失ってしまっている。

取り敢えず、動けないように足の骨でも砕いておくか。
そう思って、足首辺りを少し強めに踏み付けると、力加減を間違えて潰してしまった。

「ぐあああああっ!!」

あ、起きた。
そりゃあ起きるか。

見てるだけで痛そうだもん。

「おいっ!こっちには人質がいるんだぞ!?コイツがどうなっても良いのかっ!」

「いいけど?」

ニッコリと笑みを浮かべながら即答してやると、御者は驚愕に眼を見開いた。
そりゃそうだろう。ミミルは俺達に関与する人間だと思って人質にしたけど、一瞬で見捨てられたんだ。

驚くなと言うのは無理な話だ。

でも、俺の淡白な返事で一番驚いて傷付いたのはミミルだと思う。
なにせ、助けてくれると思った人に見捨てられたのだ。

彼女が悲しそうに瞳を伏せるのも納得できる。

だからこそ、笑って教えてやる。

「その娘を殺せば、お前らは全員殺す。お前も、お前の家族も、お前に関わった奴も、全員、殺す。例外はない」

俺に慈悲はないのか?
そう問われれば、無いとは言い切れない。

でも、俺の勝手な言い分だけど、他人の事なんて知ったこっちゃない。
人が何人死のうが、何人苦しんでいようが、俺には関係のない話だ。

「…っ」

俺の言葉に御者が動揺を見せた。

その隙でも突かせてもらうか。

「『シャドウ・バインド』」

シャドウ・バインド。影による拘束魔法。
効果としては影を踏んでいる者を動けなくする魔法なんだけど…。

実際に見ると、こうなるのか。

影を踏んでる者。ほぼ全員の足に影が纏わりつき、足を動かせないようにさせている。
中には首元まで影に侵食された奴もいるみたいだけど…どうやら、暴れると拘束の範囲が広がるみたいだ。

ちなみに、真っ先に首まで侵食されたのはミミルを人質に取った御者のオッサンだった。

動揺しすぎて暴れたんだろうか?

まぁ良いや。
これで、一件落着なんだし。

さて……ミミルはどうしようか…。

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