ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

宿屋


前回のあらすじ。路地から戻ると、なぜかリョウが老人と戦ってて、そこに俺まで巻き込まれる事に…。

要するに、何がどうなって、どうしてこうなったか。その経緯が全く分からない状態で、突如として変な老人に襲われたのだ。

なので、詳しい話を聞く為に近くの喫茶店っぽい店に老人を連れて入る事にした。

「でも、このジジイが木刀を渡して斬りかかってきたんだよ」

「ホッホッホ。主からは強者の香りがしたからのぉ」

「な、なんだよ。煽てても言っても何も出ねぇぞ!」

「ホホッ。儂は真実を言ったまでだ。しかし、儂の鼻も遂に逝ったか?戦いを挑んではみたが、お主の動きは余りにもお粗末過ぎて強いとは言えんのぉ」

「っるせぇ!クソジジイ!」

なぜこうなったか。その経緯を尋ねたら、こんな返答が帰って来た。
しかも、途中から話が脱線してるし。

リョウは老人に罵声を浴びせると、近くを通りかかったウエイトレスに飲み物を頼み、ついでにスカートの下からパンツを覗き見ようとし始めていた。

そんなバカを放置して、俺は老人との話を進める事にする。

「はぁ…。まぁ、リョウが剣を握ったのは数日前。実際に始めて振ったのは昨日だし、俺は俺で振った事がないからね」

嘘だけど。
木刀は振った経験がある。

少しの間だけだけど、剣道をしていた時に練習前に振らされるんだ。
確か、型を覚える為…だったかな?
詳しくは知らない。

「ふむ…では、お主達はどうやって強者となったのかのぉ?」

「それはーー」

リョウが要らん事を言おうとしたから即座に口を塞いで、俺が話す。

「色々あるんですよ」

「聞かれて欲しくない事だったかのぉ。であれば、聞かぬ。して、お主達…儂の弟子にならんか?」

随分と話が飛躍したな。
どうして経緯の話から弟子の話になるんだ。

……でも、よくよく考えれば悪くないかもしれない。

技術とは、知識ではなく、身体に身につけるもの。
剣を振る技術は、俺の中に知識として存在はしているが、実際に振れるかと問われれば、否である。

だから、その提案は凄く魅力的だと思う。

でも、それが本当に叶うかは別の話だ。

俺の目的は、リョウを元の世界に返す事。ついでに、旅がしたい。
それに老人が付き合ってくれるなんて保証はないし、俺達の都合を押し付ける気もない。

「俺達は旅をする神父とそのお供で、長い間この街に留まらないつもりなんですけど…」

ちなみに、お供って言うのはリョウの事だ。

それにしても、何度思い返しても、目の前の老人の動きは凄かった。
剣の振り方から一挙手一投足の動きまで。この老人の体捌きは素晴らしい物だった。

これまで剣なんて握った事のない俺達からすれば、彼から剣術を教えてもらえるのなら凄くありがたい話。

この街にいる短い間でも教えてもらえるなら、教えてもらいたい。

でも、そんな上手い話が無償なわけがない。

「お主の考えはわかっておる。儂のように剣の道を納めた者から物を教わるのには相応の対価が必要だと。そう思っているのぉ?」

心まで読めるのか…。

「心までは読めんよ。次に何をするか。何を考えるかを予測してるだけだ」

要するに、将棋で言う場面を予測する。みたいな事かな?
それでも凄いな。俺にも出来るかな?

「お主、随分とズレた事ばかり考えとるのぉ。そこは日程や対価を気にする所じゃろうに…お主の話に合わせるのは苦労するのぉ」

「あっ…」

忘れてた。

「まぁ良い。して、儂が提示する対価だが、儂に新たな道を見せつけて欲しいのだ」

新たな道?

「要は刺激が欲しい…と?」

「そうじゃのぉ。この歳になると、全てが退屈に感じてしまうのだ…」

なんて破天荒なジーサンなんだ…。

「若い頃には国落としを楽しんだものだが、今更そんなことをしてもツマランくてのぉ」

国落としって…何してんの?
このジーサン?

「ちなみに、儂、どこの国に行っても顔が効くからの?」

うわぁ。売り込みに来たよ。

「どうじゃ?悪い話じゃなかろう?弟子になってはみないかのぉ?」

「確かに悪い話じゃないですね。でも、さっきも言ったんですけど、俺達この街に長く滞在する予定すもりはないんですけど…」

「大丈夫じゃ。儂も神父のお供として付き合うぞいっ」

うわ、このジーサン凄い乗り気だ。
心なしか目が輝いているように見えるんだけど。

「旅をしながらでも剣の教えを請えるのだ。それに、儂が居る事によってお主達にハエは群がらん。どうだ?最良物件だと儂でも思うぞ?」

最良物件って…。

「ふぅ。まだ渋るか…」

いや、渋ってないんだけど…。
ハッキリ言って大歓迎なんだけど、どう返答すれば良いのか思案中なんだけど。

「良し。では、儂の秘術も教えてやろう。ご先祖様が使っていた『忍術』と言うものだ」

『忍術』って…。
ゲームじゃ、ジョブで『忍者』になれば誰でも使えたなんだけどな。

ちなみに、『忍者』のジョブにはスキルや魔法が存在しない。全て『忍術』だった。

だから、全スキルと魔法を習得済みの俺ですら使用できない。

「あと、儂は剣だけでなく他の武器も扱える。得意なのが剣と言う話なだけじゃのぉ」

それは悪くない。っていうか、是非とも教えて欲しい。
俺は超近接戦闘型の『狂戦士』だ。体術の一つや二つぐらい身に付けてなければ、スキルを使うだけのお粗末な戦いになってしまいかねない。

でも…なんか怪しくないか?
このジーサン…?

「ふむ。まだ渋ると言うのか…。もう出し尽くしてしむったのぉ…。……仕方ない。本音を言おう」

……ん?本音?

「ぶっちゃけ、儂、金が無くて死にそう。だから、助けて」

テヘッと舌を出して笑いながら、両手を合わせて頼んでくるジーサン…。

ぶっちゃけすぎだろ…。

「よし、リョウ。帰るか」

「お?おう」

リョウが立ち上がるのと一緒に俺も立ち上がる。

おそらく、このジーサンは冒険者ギルドで俺達の金払いの良さに食い付いてきた種類なんだろう。

それか、門でのやり取りか。

まぁ、どちらにしろ同じだ。

「待て!待つのじゃっ!いや、待って下さい!もう少しだけ話を聞いて欲しいのじゃ!」

立ち去ろうとすると、物凄い速さで俺の服の裾を掴んで、必死に引き留めようし始めたジーサン。

目尻に涙を溜め込んで泣きそうな顔で懇願してくるけど、ジーサンに涙ながらに頼まれる絵面…どんな需要が?

「はぁ…」

でも、やっぱりここまで頼まれて無視する事はリョウに出来ても俺には出来ない。

リョウを引き留めて席に座りなおす。

「わ、儂の話は本当じゃ。儂は霊山で剣聖をしておったのじゃが、その、弟子共がバカ過ぎて教えるのが疲れての…」

徐々に尻すぼみになる言葉。

スラスラと吐き出される言葉だけど、その中に聞き捨てならない言葉があった。
『霊山』で『剣聖』?

うわぁ。ゲーム時代でも絶対に勝てないし、仲間にも出来ないって散々言われてきたチート持ちのNPCじゃん。

ちなみに、仲間にするには戦って勝つしかないらしい。俺は試した事がないけど。

そんな相手の話を、俺は何も言わずに耳を傾け続ける。

「だから、儂、逃げてきたのじゃ。あんなツマラン所に居るよりも、もっと刺激的な生活を送りたくての。でも、冒険者ギルドも傭兵ギルドも一度潰しかけているから門前払いを食らっての…金を稼ぐ宛がないのじゃ」

潰しかけているって…本当にこのジーサン何したんだ?
問題児はリョウで手一杯だよ。

「それで困っている所に見つけたのが主等だ。強者のオーラを身に纏っているのに立ち振る舞いは素人同然。興味を持って当然じゃ。暫く遠目から見させて貰ったが、冒険者ギルドでの一件でお主を最高峰の回復魔法使いと見た。そして、相方の気性の荒さを見るに、それを手懐ける手腕。金遣いの荒さを黙認する懐の大きさ。尾行者を難なく見つけ出し、誘い出して懐柔する豪快さも持っておる。そんなお主なら儂の身を預けても良いと思ったのじゃ!」

途中から徐々にヒートアップ。テンションが上がって行き、最後にはバンっと机を叩いて言い切るオマケ付き。

その観察眼は感服するが、幾つかツッコミたい所がある。

「はぁ…。幾つか指摘するけど、俺は回復魔法使いじゃない。確かに回復魔法は使えるけど、それならリョウの方が上手だよ」

もう敬語擬きは使わない。慣れない言葉を使うと本当に話したい事が話せなくなるから。

それに、このジーサンに敬語を使う必要性がないと判断した。

「…え?」

「次に、俺はリョウを手懐けてる訳じゃない。そんな事できるやつがいたら、土下座して大人しくするように頼みたい」

「へ…?」

「最後に、あの冒険者達は懐柔したんじゃなくて、リョウを暴れさせないようにする為に協力して欲しいって言ったら、勝手に慕ってきただけ」

「…そうじゃったの?」

俺は無言で頷く。

その隣では、長話に飽きたリョウが鼻をほじくって、取り出した鼻くそをピーンッと固まるジーサンに飛ばしている。

ギギギッとジーサンの首が動き、視線がリョウに向けられる。

「もしかして、此奴、危険…?」

いや、違う。
俺は補足として左右に首を振ってから言葉を付け足す。

「魔法の試し撃ちで災害魔獣を一発で倒す」

「………」

ジーサンは顔を真っ青にして固まってしまった。

これで、このジーサンは俺がどれだけ危険な奴と一緒にいるか分かってくれた筈だ。

ここまで言って俺達に付いてくるって言うのなら、俺は拒まない。

ジーサンには知識と技術があり、その需要は高いからだ。
でも、問題児はもういらない。

リョウを大人しくさせる為に付いてきてくれるのなら、本当に大歓迎なんだけど。


〜〜〜


その後。復活したジーサンは『少し頭を冷やして考え直してくるのじゃ…』と言ってどこかに立ち去って行った。

あの様子だと、たぶん帰ってこないと思う。

武術とか色々教えてくれる優良物件だとは思ったけど、問題児は要らない。

本当に要らないんだ。

そして、場所を移り、現在は大通りから少し逸れた所にポツンとある宿屋の前に来た。

「オンボロじゃねぇか」

まぁ、そうだろうね。

この宿屋はゲームでは曰く付きであり、幾つか面白い要素や便利な要素があったりする場所であり、俺の想い出の場所だ。
主に悪い想い出なんだけどね。

でも、今回は確かめたい事があってここを選んだ。

正直、ゲーム時代…勇者が魔王を倒した時代から500年も経ってて残ってるとは思ってなかったけど、残ってて驚いた。

リョウにこの宿屋の裏設定を話すと本気で嫌がると思うけど、今回だけだから話さない。

「まぁ、良いから入ろ?」

ゲーム時代だと、中は外見に反してまだ綺麗だった覚えがあるから、俺はその内装を予想しながら宿屋に足を踏み入れる。

「へいらっしゃーい!お客さん2名ですねーっ!まいどー!銀貨3枚だよーっ!」

ああ、なんて元気の良い店員なんだ…。

疲れた心が…余計に疲れた…。

入ってきて、この出迎え。
ただでさえ疲れていたのに、トドメを刺された気分だ。
このテンションに付いて行けない俺がいる。

店番をしているのは、可愛らしい女の子だ。歳は12、3歳ぐらいに見える。

看板娘とでも言えば良いだろうか?
凄く、本当に凄く元気が良い。

「うぇーい」

「うぇーい?うぇーい!」

リョウが片手を挙げて挨拶するみたいに声を発すると、女の子も同じような言葉をハイテンションで口にして、ついでとばかりに意気投合したかのようにハイタッチまで交わし始めた。

どこに気が合う所があったんだか…。

「うぇーい」

「うぇーい!うぇーい!」

隣で謎会話が始まった。

なんなんだ…こいつら…。

取り敢えず、本当に疲れてるし、さっさと女の子には仕事をしてもらおう。

「楽しんでる所悪いんだけど、泊まりたいんだけど?」

「うぇーい?うぇい!うぇーい!!」

何語だよ…っ!

手を差し出しているって事は…俺も手を…いや、違うな。金か?

そう言えば、入ってきてすぐに何か言ってたっけ?
入るなり早々にドっと疲れるようなハイテンションで何か…。

『へいらっしゃーい!お客さん2名ですねーっ!まいどー!銀貨3枚だよーっ!』

思い出しただけで頭が痛くなってくる。

俺はテンションが異様に高い奴は苦手なんだよ…ホント…。

「はい、銀貨3枚」

「うぇい!うぇいうぇーい!」

女の子は硬貨を受け取ると片方のポケットに硬貨を入れ、反対側から鍵を取り出して渡して来た。

古いタイプの鍵だ。
ピッキングが凄く簡単なやつ。

……ちょっと待て。
なぜ一本なんだ?

「2部屋欲しいんだけど…?」

「うぇい!」

またもや手を差し出して来た。

でも、今回は金額が分からない。
何語を話しているかすら分からないのだ。どうやって理解しろとーー。

「銀貨2枚追加だってよ」

「なんで分かるのっ!?」

謎言語を理解したリョウ。おそるべし…。

取り敢えず、追加で2枚払うと、またもや手を差し出して来た。
でも、手の平には何も載っていない。

「うぇい!」

「鍵を返せ」

なんだよ…ホント…。

鍵を返すと、女の子はポケットの中に鍵を仕舞い込み、新たに2本の鍵を取り出して渡して来た。

俺はそれを受け取らず、追加で注文する。

「301号室と302号室。空いてるよね?」

「うぇい…?うぇーぃ…」

一瞬ビックリされたけど、渋々と出してくれた。
本当に何を言ってるのか分からない。

誰か頼むからこの子の頭を何とかしてくれ。

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