ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた
上限突破したとか…嘘でしょ?
MMORPG『オール・ワールド』。
そのゲームでの食料は、魔物を倒して得る事が出来た。
厳密に言えば、ドロップアイテムではなく素材として入手したアイテムを調理する事で回復アイテムとなった。
しかし、調理して出来た料理の回復量は微々たる物で、効果としては副次効果に期待を持たれていたぐらい。
かなり不人気だった。なぜあんな機能を付けたか運営に問いたいぐらいだった。
しなかったけど。
一部の物好きしか料理機能を使わないほどの不人気機能。
料理機能を使うぐらいなら、素材を全て売った方が利益が大きく、そのお金で回復アイテムを買った方が儲けが大きかったほどだ。
そんな調理アイテムだけどーー実は持っている。
勿論、試作で作った調理済み料理アイテムだ。
『倉庫』に保管されっぱなしだった。
でも、それが食べれるのかは分からない。
いや食べれるんじゃないか?イベントアイテムである『黄金パンの詰め合わせ』は見た目と香ばしい匂いは美味しそうだった。
実際に俺が食べたわけじゃないけど、ミミルは食べていたわけだし。
確信はない。が、一度試してみなきゃ分からないと言う結論に至った俺は、取り敢えず、『倉庫』内から一番安全そうな料理を取り出す。
間違っても、副次効果がバットステータスの物は取り出さない。
ただ食べれるか試すだけなのに猛毒状態になるような料理を取り出して食べる必要は全くないからだ。
今回取り出すのは、これだ。
『天使のサンドイッチ』
一定時間『天使の祝福』と言う全魔法攻撃耐性の効果を得られる。
『ガツンとジュース』
状態異常"睡眠"から抜け出し、一定時間の耐性を得られる。
二日間寝る間も惜しんでレベ上げして、空腹状態の俺には丁度いいメニューだと言えよう。
それらを取り出すと、銀色に輝くお皿に乗せられたサンドイッチと鈍色のコップに並々に注がれた真っ赤なジュースが出てきた。
どうして皿とコップが一緒に出てくるのか分からないけど、用意する手間が省けたし色々と便利そうだから気にしないでおこう。
さて、そんじゃ早速頂こうかーー。
ーーくううぅぅぅ。
ーーグギュルルルルッ。
サンドイッチを一斤手に取った途端、廊下側から音が聞こえてきた。
可愛らしい腹の音と、堂々とした下品な腹の音。
勿論、俺の腹の音じゃない。
ゆっくりと廊下へと視線を向けると、そこにはブチ切れ寸前で鬼のような形相をしたリョウと、恥ずかしそうに顔を背けて両手でお腹を抑えるミミルが居た。
一体、いつから…。
「た、食べる?」
「…そ、その…「飯あるんならさっさと寄越せ!こちとら腹ペコなんじゃ!ボケェッ!!」…いただきます…」
リョウはお怒りだ。
ミミルはそれを見てから素直に貰う事を選んだようだ。
俺は持っていたサンドイッチを皿に戻して、人数分の料理を取り出して机に並べ始める。
と、リョウは無遠慮に出した側からバクバクと口に詰め込み始め、ミミルは遠慮がちに小さな口でパクパクと食べ始めた。
そして、出した料理は俺が食べる始める前にあっと言う間に底を尽き、俺は苦笑いで配膳をする事に。
コイツ等が食べ終えてから、俺も食事にしよう…。
〜〜〜
次の日、リビングで雑魚寝をした所為で、起きたら全身の節々が痛みで絶叫を上げた。
隣には、なぜか家主である筈のミミルが可愛らしい寝息を立てながら寝ている。
俺の服の裾を握って寝ているその姿は、まるで新しい妹が出来たみたいに感じる。
リアルで居る妹は生意気で口が悪くて性格が捻じ曲がってるから、こんな妹だと大歓迎だ。
服の裾を掴んでいるミミルの手を起こさないように優しく解いてから、立ち上がり、顔を洗うために家の外に向かう。
そして、家から出た俺はある事に気が付いた。
ーー雪が止んでいたのだ。
朝陽が村全体を照らし、積もり積もっていた雪を溶かして、村を煌びやかに光り輝かせている。
それだけじゃない。
他の家々から村人らしき人達が恐る恐る出てきて、互いに手を取り合って喜んでいるのだ。
まるで、世界の終わりと言う危機から脱したような明るい光景が眼前に広がっていた。
……訳が分からない。
扉の前で混乱で立ち止まっていると、村人の中の一人が俺を指差して、続々と集まってきた。
「おぉ、神父様。このような辺境の村を救ってくださった事を感謝致します。これも、全ては女神『アルテナ』様のご加護。ありがたや。ありがたや」
そして、涙ながらに感謝された。
え?なんで?どうして?
本当に分からないんだけど?
「神父様!神父様!あのね!あのね!悪い魔物を倒してくれてありがとうっ!」
でも、太陽のような笑顔を見せてくれる子供達や、これからの希望を瞳に宿して喜ぶ人達をみてると、そんな疑問はどうでも良くなってきた。
取り敢えず、彼等の希望通り、神父様の真似事でもするか。
俺は子供の身長に合わせるために体を屈ませて、子供の頭を優しく撫でてから、村人を安心させるように笑みを作って言う。
「…コホンッ。私は女神『カオスト』様の使いです。彼の方は貴方方をいつでも見守っておられます。私がここへ来たのも全て『カオスト』様の意思。貴方方に女神カオスト様の思し召しがあらん事を」
うーん…。ちょっとギコチナイかな?
胸の内側から湧き出す恥じらいを抑え込んで、演技に力を入れる。
「カオスト…様?アルテナ様ではないのですか?」
「はい。混沌の女神『カオスト』様です。私は『カオスト』様の御使いをさせて頂いております、ココハと申します」
片手を胸の前に置いて、大袈裟に頭を下げる。
ちなみに、『カオスト』と言うのが混沌の女神の名前だ。
レベ上げで世話になった分、知名度稼ぎに貢献するつもりで名前を出した。
「カオスト様…ですか…」
「カオスト様!」
「ありがたや。カオスト様。ありがたや」
村人達が口々に『カオスト』の名を口にし始めた。
どうしてこうなったかなんて経緯は分からないけど、万事解決かな?
あ、そうだ。アレは言っておかないと。
「あちらに女神『カオスト』様の教会がおあせられる。信行が廃れてしまい、『カオスト』様は大変お嘆きしておられます」
手を突き出して廃れた教会のある場所を指し示す。
村人達は俺の話に聞き入っている様子だし、あと一押しって所かな。
「今では、教会は崩れてしまい、信行もされなくなった教会です…。しかしっ!『カオスト』様を信じて下されば、このような厄災は金輪際起こらないでしょう!」
「「「おぉー!!」」」
おっ!今のは上手かったかも!
俺、扇動の才能あるかもね!
「『カオスト』様は遊戯とお酒を大変好んでおります。どうか、『カオスト』様に変わって私からのお願いです。これからも『カオスト』様を忘れず、教会に参詣してくれないでしょうか?」
即興だけど、思いのほかスラスラと言葉が出てくるものだね。
正直言うと、女神の好きな物とか俺は知らないし、遊戯って言うのは俺が勝手に付けた設定。
お酒はレベ上げで献上しまくった時に『酒好きなんじゃ?』って考えがあったから付け足しただけで、全部適当に思い付いた事を並べただけだったりする。
でも、そんな事を彼等が知るはずもなく。
「は、はい。必ず…必ず行かせて頂きます!」
「僕も僕も!」
「ありがたや。ありがたや」
こうなるわけだ。
なんてチョロい奴らだ。
笑いを堪えるのに必死になってしまう。
まぁ、あの教会を綺麗にしてくれるかは分からないけど、知名度を広げれたし?面倒事も丸ごと押し付けられたし?
まさにwin&winじゃん?
そんじゃ、言いたい事は全部言えたし、俺はここいらで退散させて貰いますか。
「ま、待って下され!神父様!」
「…え?はい?どう致しましたか?」
クソォ!逃げれなかった!!
「儂はこの村の村長をやっておるハーグトと言う者じゃ。どうか、どうか儂等にせめてものお礼をさせて下され」
杖をついて村人の波を割って現れた老人がプルプルと全身を震わせながらやってきた。
…死にかけじゃん。
今にも死にそうな老人にしか見えない。
「この数年、災害魔獣が付くに住み着いてからは悪天候が続き、凶作続きじゃった…。その日を凌ぐ事も難しく、近隣の街は儂等を見捨ててしもうた…。しかし、神父様が災害魔獣を倒してくれたお陰で儂等にも希望が見えたのじゃ。感謝してもしきれないのじゃ!」
あ、はい。説明ご苦労様です。
それにしても、ふむふむ、成る程。理解した。
要するに、厄災魔獣と呼ばれる謎生物の所為で飯も満足に食えず、近くの街に見捨てられて、餓死寸前だったと。
確かに、皆の見た目はガリガリに痩せ細ってて、控えめに言ってもゾンビにしか見えない。
はぁ…。そんな人達から礼なんて受け取れるわけないじゃん。
俺にお礼をする余裕があるのなら、少しでもこの村を綺麗にしてほしいものだ。
とは言え、話を聞く限りじゃ、それが出来ないほど追い詰められてたみたいだし、それは無理だって話だね。
ええい。こうなりゃ『倉庫』の中身を大放出だ!
「……あー…今、女神『カオスト』様から啓示がありました」
ここで、演出の為に魔法を使用する。
リョウが言うなら、念じるだけで出せるんだ。だったら、俺でも出来る筈なんだ。
出ろ!光よっ!
「「「おおーっ!!」」」
村人の様子から察するに上手く出来たみたいだな。
俺の背後の扉から光を発するようにした。おそらく、村人からすれば後光で神秘的に輝く俺が見えてる筈だ。
「女神『カオスト』様が貴方方に祝福を授けて下さるそうです」
オーバーアクション気味に両手を天に掲げる。
混沌の女神が祀られている教会で見た『カオスト』の像が取っていたポーズを真似てみたんだけど、上手く出来てるかな?
上手く出来てるか分からないけど、失敗してたら嫌だし、それを誤魔化す為にも多少演出過多にするため手の先にある宙空に強い光を放つ玉を浮かべる。
そして、『イベントリ』にお蔵入りしていた食用になる魔物の素材を大放出。
中にはイベントでしか手に入らない『黄金パンの詰め合わせ』やそれに似た物なども一気に放出する。
「「「おぉーーっ!」」」
村人達は目をキラキラとさせて、神の御業 (如き)を見つめている。
ここまですれば間違いなく彼等は『カオスト』の深い信行者になるだろう。
「私は『カオスト』様の使い。礼など不要です。『カオスト』様は貴方方の笑顔を取り戻させる為に私を使わせたのですから。ですから、皆様には毎日笑顔で、楽しく過ごして頂きたいとーーそう『カオスト』様は願っておられるのです」
「ありがたや…ありがたや…」
「あぁ。感謝致します。『カオスト』様…神父様…」
…堕ちたな。これで完全にバマルツ村の村人は『カオスト』の信行者だ。
さっきからずっと俺に祈ってくるお爺さんは初めから信行者に近い存在だと思うけど、祈る対象が終始俺なんだよなぁ。
俺は神様じゃないぞ?
まぁ、いいや。
これで俺のここでの仕事は終わり。
あとは……厄災魔獣。気になるし、一旦確認しに行った方がいいよな。
本当に危険が去ったのかも確認しとかないと、ここまでリスペクトを上げたのに全部無意味になっちゃう。
でも、その前にーー。
「では、私はこれで…」
さっさとこの場から退散しないと。
「はて?神父様は今、ミミルのお宅に泊まって居られるのですかな?よければ、儂の家に来て欲しいのじゃ」
やめろ。誘うな。
さっさと退散させろ。
こう言うあからさまな演技は凄く疲れるんだ。
主に、羞恥で精神的に疲れるんだ。
と、嫌そうな顔になるのを寸での所で堪えて、笑みを深くして返答する。
「……申し訳ございません。私の友人がこちらに泊まっているもので、そう言ったご招待は大変嬉しいのですが、お受けできないのです」
「では、そのご友人と共に是非っ!」
ああああぁあぁぁ。
頬が引き攣るのが嫌でも分かるぅぅ。
「誠に嬉しい申し出なのですが、なにぶん私の友人は手の付けられない暴れん坊でして…今は暴れ出さないようにこの家を借りて中で軟禁している状態なのです」
「それは…大変なのじゃな…」
「はい…」
笑みだけじゃ俺の内心が隠しきれなくて、苦笑いが漏れ出てしまった。
でも、村長は上手い具合に勘違いしてくれたようだ。
実際、俺が内心で思ってるのは『早くコイツ等から解放されたいっ!』だったりするけど、口が裂けても言えない。
「では、私は失礼します」
もう雑談は懲り懲りだ。
村長達が何か言う前に、さっさと俺は家の中に入ってしまう。
ただでさえ人と話すのが苦手なのに、ここまで頑張ったんだ。だれか褒めてくれよ。
って、俺なんかを褒めてくれる人なんているわけないか。
「はぁ…疲れた…」
ホント、どっと疲れた。
「お?何してんだ?ヒビキ」
俺が扉に背を預けてグッタリしていると、すぐ側の扉から人が出て来た。
そこは、この家に一部屋しかない部屋で、始めに俺が寝かされていた部屋だ。
そんな所から出てくる人物は、俺の知ってる中で一人しかいない。
「あ、ああ。リョウか。……もしかして、お前…昨日、魔法撃った時に何か倒したりした?」
「ん?あぁ、倒したな。つか、山だと思ったら魔物だったみたいで、すっげぇレベル上がった」
「そっか。お前がーー」
ん?
「今、なんて…?」
「あ?でっけぇ魔物だったって…」
「いや、その後」
「倒した」
「そっちじゃない」
「なんだよ。何が聴きたいんだよ」
ムスッと顰めっ面をしてくるリョウに、俺は目で細めて話を促す。
「チッ。レベルが上がったんだよ。で?なんだ?何が言いたいんだ?」
「レベルが…上がった…?」
俺達は、混沌の女神の教会でレベルMAXにした筈。俺は寝る間も惜しんでやって、リョウは何度かサボりながらやってたものの、終わった後にはちゃんとジョブとレベルがMAXになってるのを確認した。
なのに、レベルが上がった…?
「な、なぁ、リョウ?今、お前のレベルは?」
「あ?丁度1000だぞ?」
嘘だろ…おい…。
ゲームじゃ999がMAXだったのに、それを超えた…だと?
厄災魔獣と言い、500年も経ってる事と言い、ここは本当に『オール・ワールド』なのか…?
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