死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~
29. 気持ち悪いオルコス
オークとゴブリンの元から帰った俺はフィアに野菜を渡して部屋へと戻る。まだアモル達も戻っていないらしく、屋敷内は静かだった。
今は書物と地図を広げて、次なる野望を考えている所だった。
カチッ
「海と山……ドラゴンも俺を殺す事は出来なかったからなあ……」
正直、このままだと死ぬのは難しい。物理無効はかくも非情に俺の目的を阻むのだ。オルコスさえ居なければこの体は便利なんだけどなあ。
そんな事を考えていると、案の定オルコスから声がかかった。
<お元気ですかクリスさん?>
「スイッチ音がしたから来るかと思ったが……どうした?」
<いえ、たまには様子を伺うのも神の役目……いけませんか?>
……怪しい。
いつもは俺を怒らせるような発言しかしないコイツが俺を心配するなど、明日は世界が滅亡するぞ?
「……いや、構わないが、用が無いなら……」
俺がいつもどおり追い払おうとしたところで、オルコスは急に猫なで声を出してきた。
<いえね、先ほども聞いておりましたが、クリスさんはどぉぉぉぉしても死にたいようですね。私としては是非このまま発展を続けて欲しいのですが、見ていて余りにも不憫……>
「お前がこうやって話しかけてこなかったら別に死ななくてもいいんだけどな?」
<私も考えました。ここで納得のいかない生活を強いるのは可哀想だと、なので死ぬお手伝いをしたいとおもいまして、はい>
「聞けよ! だからそもそもお前が……!」
<クリスさんの領地から西の国に、火山があります>
相変わらずイラつかせてくれるオルコスだが、火山と聞いて俺の耳がピクっと動く。比喩ではなく。
「……続けたまえ」
<は。その丈夫な体、毒も効かないようですが溶岩なら流石に抵抗できず消えるのでは、と考えましてね? 如何でしょう?>
火山か、ウチの領内……そして国内には火山はないからそれは思いつかなかった。確かにいくら丈夫でも溶岩なら消えてなくなる可能性は十分にある!
「何を企んでいるか分からんが、そのアイデアはいただこう。用はそれだけか?」
<ええ! 是非! 隣の国へ行ってくださいね! 今すぐにでも! それがわ……>
ボコ! カチッ
「切れた? 何か鈍い音がしたような? ……ま、いいか。オルコスが酷い目にあう分には」
隣の国、確かグランドベイン王国って名前だっけ? 俺はコーヒーを飲みながら手元の地図を見る。当たっていたようだ。
「お、これは……ま、死ねなくても観光がてら行って来るか」
グランドベインの城がある場所に赤丸をつける。名物でもあれば……と、ここで扉がノックされフィアから声がかかった。
「どうぞー」
「クリス様お食事の準備ができました(あーもう、やっとお話できるー! 最近あのドラゴンの子と仲がいいし、これは油断できない?)
「ああ、サンキュー。すぐ行くよ、アモルとクロミアは戻ってきたのか?」
「先程戻ってきました、今日は野菜炒めです、とても良いお野菜ですね(お野菜もいいけど、クリス様のお顔を見るだけで蕩けそうになるわ……クリス様分も吸収したし今日は良く眠れそう……!」)」
「ゴブリンとオークに何かお礼をしないとな……すぐ行くよ」
フィアは食べ物の目利きが鋭い。そのフィアが良い野菜といったのだから相当なものだろう。俺がすぐ行くと言った後、すぐに扉を閉めて出て行った。
「俺も行くか。しかしオルコスのヤツ、気持ち悪い声を出してたなあ……一体何を企んでいるのか?」
そして俺も夕食のため部屋を出るのであった。
クリスがつけた赤丸の横にはグランドベイン王国に関する資料が添付されていた。
※グランドベイン王国:連山の中心に位置する場所に主となる城を置き、放射線状に町が頒布している。特に火山が多く、活火山は現在一つで、その近くに沸く温泉は薬湯としていくつか湧いている。
クリスが目をつけたのは……「温泉」だった。
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<あの世>
<こんのバカ! 言い方ってもんがあるでしょう!? めちゃくちゃ訝しんでたじゃないのよ>
ハイジアがオルコスの首根っこを引っ張り、スイッチを切断した後、憤慨していた。このアホはいったいどうすればいいかを本気で考えるほどに。
<そうでしたか? 死ねる情報を渡してホクホクじゃないですかね?>
<今すぐ行ってくれとか『何か用意してます』って言ってるようなもんじゃない……でも、とりあえずこれで計画は進むわ>
<ええ、向こうの方には?>
<出発を確認したら神託として、近いうちに出会いがあるとか適当に言っておくわ>
<では、私はしばらく監視をしましょう。向こうへクリスさんが到着したらまたお願いしますよ>
そういってハイジアを見ずにモニターの前に座りなおす。
<……それじゃあね>
ハイジアはそれだけ呟いて部屋から出て行った。
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「今度はグランドベインへ行く?」
「ああ、どうやらいい温泉があるらしいんだ。クロミアの山へ行った時はサーニャの事件でゆっくりできなかったし……」
今回も夕食時に俺は旅行へ行く事を告げる。兄さんはアンジュさんの実家へ行っているため、ここに居るのは父さん、母さんにウェイクとアモル……そしてクロミアだ。
「わらわも行っていいかのう?」
「じゃあわたくしも行きますわ!」
まあここで言ったらそうなるよな、でも今回は国をまたぐのでできれば着いて来てほしい。
「また家族で行く? 私も気になるし温泉」
「すまん、パパ忙しくて行けそうに無い……」
むう、こういう時は意外と合わないもんだな……。
「なら、父さんの都合に合わせるよ。俺もまだ行くって決めただけで計画は立ててないしな」
「お、そうかい? じゃあちょっと明日から張り切るとしよう」
ふふふ、と不敵に笑う父さん。ウェイクも、言葉には出さないが顔は楽しみにしている感じだった。
今回は火口に足を滑らせて落ちるつもりだ。死を目撃したら両親も諦めがつくだろう。一人で行って死んだら、帰らぬ息子をいつまでも探しそうだからな……。
後、クロミアには助けないよう言い含めておかないとな。
俺は準備を始めるのだった。
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息つく暇も無く次の目的地を決めるクリス。
だが、それがオルコスの罠である事は知る由も無かった。
そして、グランドベイン王国で待つものとは一体?
次回『観光地』
ご期待ください。
※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください
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