死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~
5. そんなつもりは無かった
「まあ、今度も可愛い男の子ですよ!」
「おお、お前の名前はクリストフだ!!」
真っ暗闇を抜けた後、転生した俺は「クリストフ=ルーベイン」として生を受けた。
この世界では、苗字にあたる家名を持っている者は少なくないが、ルーベインは地方の領主の家名で、由緒ある家柄なのだ。ルーベイン領とはウチのことだ。
……お気づきだろうか? ようするに貴族というヤツである。
俺は冒険者になりたくてこの世界に来たのだが……まあそれはいい。
「それよりも問題があってだな……」
カチッ
<おやおや、どうしたんですか? 問題なんてないですよね? 今日も私に感謝して生活してくださいね?>
カチッ
こいつである。
あのスライドショーを見せ、俺に同意書と契約書を書かせ、あまつさえ妙なギミックで異世界へと送ったヤツだ!
名前はオルコス。
で、何が問題かというと……。
カチッ
<男がいつまでも、過去の事に拘っていたら大成しませんよ? はは> モッチャモッチャ
「何か食ってるなてめぇ!?」
<異なことをおっしゃる。まるで見て来たかのように言うのは辞めて頂きたいですね。それよりもホラ、冒険者になるんでしょう? ご両親に相談に行かないと> ヂュー……。
カチッ
ハンバーガーとコーラってとこか……?
それはいいとして、このオルコス。心の声までは聞こえてないようだが、たまに的確に思っていることを当ててくる。怖い。
そしていちいち俺の行動や言動にちょっかいを入れてくるんだコイツ!
生まれた時から! 16年! ずっと!
最初は神のお告げみたいで面白かったんだ、ちょっとした話相手みたいで。
で、前世の知識を活かして8歳か9歳くらいだったかな? どうしてもトイレに馴染めなかったから水洗式を提案して父さんに作ってもらったんだよ。
これが大当たりで、一気に領内に広まって一躍有名人。その時はオルコスも……
<いやあ、文明レベルが少し進みましたね。この調子でお願いしますよ>
などと比較的まともなコメントを残していたのだが、後は不自由しない生活になったから普通にすくすくと育ったのよ?
そしたら……
<あーあ、貴族の坊ちゃんとか良いですねえ、他の人は農民とかなのに……もしかしたら転生者が領民だったりするかもしれませんね! 知られたら恨まれるんじゃないですかね!>
と、陰湿なものに変わっていき……それでも前世の知識を活かした物を作らなかったら、
<もう人生終了ですかあ? そうですよね、もう領主の息子というだけでなく、トイレで大儲けしましたもんね! 生活はもう安泰。過労死という汚点はこれで水に流したってとこですかね、トイレだけに>
……今思い出してもイラつくな、全然うまくねえ上に面白くねぇし……
そんなわけで、ずっとこいつに付きまとわれているという訳だ。
スライドショーの時にあったハプニングは、何かのスイッチがON/OFFされて起こっていた。それを悪用した形だな。
カチっと聞こえたら向こうと繋がっているという事になるらしい。
今はジュースを飲んでいる音の後で「カチッ」と聞こえたからOFFのハズだ。
スライドショーの時はOFFにしてもこの世界の声は向こうに聞こえていたが、緩くなったスイッチを修理した時に調整してOFF時はこっちの声も届かない。
というか届いてたらマジいかれてるよな……。ちょっと見学するって訳じゃないし……。
まあそんなこんなで16年もそんなことが続き、流石に俺も限界が来た。
16歳になれば成人として認められるので、家を出るチャンス! 幸い(?)俺は次男のため、時期領主という訳でもない。
なので、今から両親に冒険者になることを告げに行くところなのだ。
冒険者になってやりたいこと……それは、とっとと死んであの世界へ戻り、オルコスの馬鹿をめちゃくちゃに……それこそ殺す勢いでぶん殴りたいのだ。どうせ一度死んだ身だ、この命、惜しくは無い。
残りの人生を#あの馬鹿__オルコス__#に付きまとわれて暮らすより遥かにいい!
例えば一歳の時……お、父さんだ。仕事がひと段落ついたかな?
書斎から出てきた父さんを呼び止める。
「父さん、休憩かい?」
「おお、クリスか。ちょっと張り切り過ぎてな、紅茶でも飲もうかと思ってな。お前は?」
「俺は父さんと母さんに話があってね。一緒に行こうかな」
「そうかそうか! 何だ、欲しい物でもあるのか?」
俺は父さんと共にリビングへと向かった。
---------------------------------------------------
「父さん、母さん。俺も16になった、実はやりたい事があって……」
「はっは、クリスなら何でも出来そうだけどな。トイレもそうだが、井戸のくみ上げポンプもお前が作りだしただろ? 父さんは鼻が高いよ。で、何をしたいんだ?」
「うん、俺、冒険者になりたいんだ」
ブー!!!!
汚っ!?
「冒険者になりたい!? どどどどどどうしたのだ、クリス! 家が嫌いになったのかい? 父さん何かしちゃったかなあ? 嫌な事があったらちゃんと相談しておくれよ? お金は……困ってないなうん……」
紹介しそびれていたけど、この世界の俺の父親でマーチェス=ルーベイン。
超心配性で親バカなんだけど、悪い事をした時にはちゃんと怒る良い父親だ。
いざという時は強く、領主会議(あるらしい)で税が少ない事を追及された時に「領民が苦しい時に追い打ちをかけるのか」と怒鳴りつけたそうだ。
その年はあまり作物が育たない年だったので、食べる物が無くなるかも、という事態になりかけたとか。
領民あっての自分達だと、こんこんと説教をしてお偉いさんを黙らせたと言う……。
まあ、尊敬できる人です。
すると今度は母さんが口を開いた。
「……私は反対です! 冒険者は一攫千金を狙って生きていく博打のような生き方ですよ? 頭もいいクリスが冒険者になる理由がありません!」
と、声を荒げたのは母親のシャルロッテ=ルーベイン。
普段はおっとりしていて、歳の割にはまだまだ美人というよくある貴族の奥さんである。
しかし、普段はおっとりしていても今みたいに納得がいかないことや理不尽な行いがあると、ハッキリと物怖じせず自分の意見を言うのだ。後、勘がめちゃくちゃいい。
この世界にも勿論学校があって、貴族と平民で行く公社が分かれているのが特徴なんだけど、俺は軽いいじめにあっていたことがある。と言っても同級生とかではなく、教師にだ。
トイレ事件(悪い意味ではない)で有名になっていた俺が気に入らなかったようで、事あるごとに難癖や居残りをさせられていた。
実際帰るのが遅くなることもあったけど、卒業まで我慢すればいいやーと気にしていなかった俺。
しかし、母さんは帰ってくるのが遅い俺に何かを感じ取ったのか、俺に内緒で学校の調査を依頼していたのだ。
発覚するイジメ。捕縛される教師。泣きながら連行されたのだが、気持ちは分かる。
捕まったら廃人にされると噂される騎士集団、”地獄の台所”に連行されたからだ。結局卒業するまでその教師の顔を見る事は無かった……。
さらに学校……というか校長へ相当なお説教を食らわせるという、いざという時は頼りになる母だ。
たまに色々逸脱するけど。
まあ、尊敬できる母です。
カチッ
<はは、難儀な両親ですねえ? 冒険者になれるんですか?>
「うるせえよ!? お前に比べりゃ百万倍マシだ!」
「ああ、あなた……クリスがまた……」
「また例の発作か……冒険者なんてとてもじゃないが許可できん……」
しまった……やってしまった……。
オルコスの馬鹿に変な事を言われた時に、つい口に出してツッコンでしまうのだ……。
それを聞いたり、見ていた両親が「悪魔に憑かれたんじゃないか」などと勘違いをされてしまった事がある。
俺は大丈夫だと、何度か説得してその時は事なきを得たが、たまに忘れて今みたいにつっこむと発作だと心配してくるのだ……。
「とりあえずクリスよ、冒険者は許可できん。他になりたいものは無いのか?」
「そうですよ。お母さんを心配させないでね? あの子達も悲しむわよ」
「……分かったよ、今は止めとくよ……」
<もう諦めるんですか!? ちょっとメンタル弱いんじゃ……>
くそ……我慢だ……我慢……部屋に戻るまでは……。
カチッ
あの野郎、スイッチ切りやがった!?
「うんうん、クリスは話が分かる子で助かるよ。私の仕事を手伝って欲しいもんだ」
「か、考えとく……じゃあ俺は部屋に戻るね」
満足した顔になった両親を置いて俺は自室へ戻る。
いきなりつまづいた……どうしたものか……。
「おお、お前の名前はクリストフだ!!」
真っ暗闇を抜けた後、転生した俺は「クリストフ=ルーベイン」として生を受けた。
この世界では、苗字にあたる家名を持っている者は少なくないが、ルーベインは地方の領主の家名で、由緒ある家柄なのだ。ルーベイン領とはウチのことだ。
……お気づきだろうか? ようするに貴族というヤツである。
俺は冒険者になりたくてこの世界に来たのだが……まあそれはいい。
「それよりも問題があってだな……」
カチッ
<おやおや、どうしたんですか? 問題なんてないですよね? 今日も私に感謝して生活してくださいね?>
カチッ
こいつである。
あのスライドショーを見せ、俺に同意書と契約書を書かせ、あまつさえ妙なギミックで異世界へと送ったヤツだ!
名前はオルコス。
で、何が問題かというと……。
カチッ
<男がいつまでも、過去の事に拘っていたら大成しませんよ? はは> モッチャモッチャ
「何か食ってるなてめぇ!?」
<異なことをおっしゃる。まるで見て来たかのように言うのは辞めて頂きたいですね。それよりもホラ、冒険者になるんでしょう? ご両親に相談に行かないと> ヂュー……。
カチッ
ハンバーガーとコーラってとこか……?
それはいいとして、このオルコス。心の声までは聞こえてないようだが、たまに的確に思っていることを当ててくる。怖い。
そしていちいち俺の行動や言動にちょっかいを入れてくるんだコイツ!
生まれた時から! 16年! ずっと!
最初は神のお告げみたいで面白かったんだ、ちょっとした話相手みたいで。
で、前世の知識を活かして8歳か9歳くらいだったかな? どうしてもトイレに馴染めなかったから水洗式を提案して父さんに作ってもらったんだよ。
これが大当たりで、一気に領内に広まって一躍有名人。その時はオルコスも……
<いやあ、文明レベルが少し進みましたね。この調子でお願いしますよ>
などと比較的まともなコメントを残していたのだが、後は不自由しない生活になったから普通にすくすくと育ったのよ?
そしたら……
<あーあ、貴族の坊ちゃんとか良いですねえ、他の人は農民とかなのに……もしかしたら転生者が領民だったりするかもしれませんね! 知られたら恨まれるんじゃないですかね!>
と、陰湿なものに変わっていき……それでも前世の知識を活かした物を作らなかったら、
<もう人生終了ですかあ? そうですよね、もう領主の息子というだけでなく、トイレで大儲けしましたもんね! 生活はもう安泰。過労死という汚点はこれで水に流したってとこですかね、トイレだけに>
……今思い出してもイラつくな、全然うまくねえ上に面白くねぇし……
そんなわけで、ずっとこいつに付きまとわれているという訳だ。
スライドショーの時にあったハプニングは、何かのスイッチがON/OFFされて起こっていた。それを悪用した形だな。
カチっと聞こえたら向こうと繋がっているという事になるらしい。
今はジュースを飲んでいる音の後で「カチッ」と聞こえたからOFFのハズだ。
スライドショーの時はOFFにしてもこの世界の声は向こうに聞こえていたが、緩くなったスイッチを修理した時に調整してOFF時はこっちの声も届かない。
というか届いてたらマジいかれてるよな……。ちょっと見学するって訳じゃないし……。
まあそんなこんなで16年もそんなことが続き、流石に俺も限界が来た。
16歳になれば成人として認められるので、家を出るチャンス! 幸い(?)俺は次男のため、時期領主という訳でもない。
なので、今から両親に冒険者になることを告げに行くところなのだ。
冒険者になってやりたいこと……それは、とっとと死んであの世界へ戻り、オルコスの馬鹿をめちゃくちゃに……それこそ殺す勢いでぶん殴りたいのだ。どうせ一度死んだ身だ、この命、惜しくは無い。
残りの人生を#あの馬鹿__オルコス__#に付きまとわれて暮らすより遥かにいい!
例えば一歳の時……お、父さんだ。仕事がひと段落ついたかな?
書斎から出てきた父さんを呼び止める。
「父さん、休憩かい?」
「おお、クリスか。ちょっと張り切り過ぎてな、紅茶でも飲もうかと思ってな。お前は?」
「俺は父さんと母さんに話があってね。一緒に行こうかな」
「そうかそうか! 何だ、欲しい物でもあるのか?」
俺は父さんと共にリビングへと向かった。
---------------------------------------------------
「父さん、母さん。俺も16になった、実はやりたい事があって……」
「はっは、クリスなら何でも出来そうだけどな。トイレもそうだが、井戸のくみ上げポンプもお前が作りだしただろ? 父さんは鼻が高いよ。で、何をしたいんだ?」
「うん、俺、冒険者になりたいんだ」
ブー!!!!
汚っ!?
「冒険者になりたい!? どどどどどどうしたのだ、クリス! 家が嫌いになったのかい? 父さん何かしちゃったかなあ? 嫌な事があったらちゃんと相談しておくれよ? お金は……困ってないなうん……」
紹介しそびれていたけど、この世界の俺の父親でマーチェス=ルーベイン。
超心配性で親バカなんだけど、悪い事をした時にはちゃんと怒る良い父親だ。
いざという時は強く、領主会議(あるらしい)で税が少ない事を追及された時に「領民が苦しい時に追い打ちをかけるのか」と怒鳴りつけたそうだ。
その年はあまり作物が育たない年だったので、食べる物が無くなるかも、という事態になりかけたとか。
領民あっての自分達だと、こんこんと説教をしてお偉いさんを黙らせたと言う……。
まあ、尊敬できる人です。
すると今度は母さんが口を開いた。
「……私は反対です! 冒険者は一攫千金を狙って生きていく博打のような生き方ですよ? 頭もいいクリスが冒険者になる理由がありません!」
と、声を荒げたのは母親のシャルロッテ=ルーベイン。
普段はおっとりしていて、歳の割にはまだまだ美人というよくある貴族の奥さんである。
しかし、普段はおっとりしていても今みたいに納得がいかないことや理不尽な行いがあると、ハッキリと物怖じせず自分の意見を言うのだ。後、勘がめちゃくちゃいい。
この世界にも勿論学校があって、貴族と平民で行く公社が分かれているのが特徴なんだけど、俺は軽いいじめにあっていたことがある。と言っても同級生とかではなく、教師にだ。
トイレ事件(悪い意味ではない)で有名になっていた俺が気に入らなかったようで、事あるごとに難癖や居残りをさせられていた。
実際帰るのが遅くなることもあったけど、卒業まで我慢すればいいやーと気にしていなかった俺。
しかし、母さんは帰ってくるのが遅い俺に何かを感じ取ったのか、俺に内緒で学校の調査を依頼していたのだ。
発覚するイジメ。捕縛される教師。泣きながら連行されたのだが、気持ちは分かる。
捕まったら廃人にされると噂される騎士集団、”地獄の台所”に連行されたからだ。結局卒業するまでその教師の顔を見る事は無かった……。
さらに学校……というか校長へ相当なお説教を食らわせるという、いざという時は頼りになる母だ。
たまに色々逸脱するけど。
まあ、尊敬できる母です。
カチッ
<はは、難儀な両親ですねえ? 冒険者になれるんですか?>
「うるせえよ!? お前に比べりゃ百万倍マシだ!」
「ああ、あなた……クリスがまた……」
「また例の発作か……冒険者なんてとてもじゃないが許可できん……」
しまった……やってしまった……。
オルコスの馬鹿に変な事を言われた時に、つい口に出してツッコンでしまうのだ……。
それを聞いたり、見ていた両親が「悪魔に憑かれたんじゃないか」などと勘違いをされてしまった事がある。
俺は大丈夫だと、何度か説得してその時は事なきを得たが、たまに忘れて今みたいにつっこむと発作だと心配してくるのだ……。
「とりあえずクリスよ、冒険者は許可できん。他になりたいものは無いのか?」
「そうですよ。お母さんを心配させないでね? あの子達も悲しむわよ」
「……分かったよ、今は止めとくよ……」
<もう諦めるんですか!? ちょっとメンタル弱いんじゃ……>
くそ……我慢だ……我慢……部屋に戻るまでは……。
カチッ
あの野郎、スイッチ切りやがった!?
「うんうん、クリスは話が分かる子で助かるよ。私の仕事を手伝って欲しいもんだ」
「か、考えとく……じゃあ俺は部屋に戻るね」
満足した顔になった両親を置いて俺は自室へ戻る。
いきなりつまづいた……どうしたものか……。
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