異世界冒険EX
ギルドへ
「……とりあえず、アンタには属性魔法を覚えてもらうわ」
フロリアは目を閉じ、親指と人差し指を擦り合わせている。恐らくあれがフロリアの考える時の癖なのだろう。
どうやら自身の考えていた計画をもとに、俺のステータスを考慮した計画に組み直しているようだ。
「んー。まあいいけど。そんな悠長にしてていいの?」
俺としてはなるべく早く終わらせたいんだけど……。
フロリアは違うのか? 真面目みたいだし、なるべく失敗しないように時間をかけてやるタイプなのかも知れない。
なら、俺は勝手にやるしかないんだけど……。
「いいえ? 悠長にするつもりなんてこれっぽっちもないわ! 奴らを殺せるとしたら、一ヶ月後の勇闘会しかないのだから」
「勇闘会?」
聞き慣れない単語に思わず聞き返すと、フロリアは未だに考え事をしたまま答える。
器用な奴だな。
「ええ。ギルド所属のAランク以上の冒険者の間でトーナメントを行い、優勝者は勇者と戦える……。よく言えば町おこしイベント、本質は勇者達による自分たちの力の誇示よ」
なるほど……。にしてもAランクって。
一ヶ月でいけるのか? いっそもう……。
「そんな面倒な事しなくても、奴らを見つけたら後ろから襲えばいいんじゃないの?」
……自分で言ってあれだけどちょっと卑怯かな……?
でもそれが一番手っ取り早い気がするんだよね。後ろから弓でも槍でも銃でも使ってさぁ。
「確かに……それも考えたわ。奴らは基本的に王城で暮らしてるけど、時々ふらりと街にやってくるからね」
「なら……」
「ただ、全員ではやって来ないのよ。だから降りてきた奴を倒した場合、残りを襲うのが難しくなるうえに、街の人達が報復を受けてしまうわ」
ちっ。面倒な事だ。
一人倒した所で残りの奴らも警戒するだろうし、関係ない街の人達を危険に晒してしまうのでは確かに駄目だ。
なら、城に……ってそう簡単に忍び込めはしないか。
「……私はね、はっきり言ってこの世の誰よりも勇者を殺したいの。その私が考えた計画なのだから、黙って従って貰えないかしら……!」
「っ……わ、わかった」
怖えよ。口は笑ってるのに、見開かれた目の瞳孔が開いてるせいで不気味でしょうがない。
口を挟むなと言うことだろう。
「まずアンタは冒険者を襲って、カードを集めなさい。アンタの協力が必要になるのは、どうやら勇者達との戦いからのようだから」
「え?」
どうやら細かい計画までは教えて貰えないようだ。まだ信用はされていないということだろう。
というか、
「冒険者を襲うってどういうこと?」
「言葉のままよ。殺すか倒すかは任せるけれど、相手の胸に魔力を流したままの手を突っ込むと相手のカードが奪えるわ」
何でもないように答えるフロリア。
……どうやら文化の違いというか、世界の違いというか……。
「……俺は無関係な人を殺すつもりはないし、襲うつもりもない」
「心配しなくてもいいわ。この世界で人を殺しても、元の世界に戻れば関係ないのだから」
「そういうことじゃない……」
「なら、何を気にしているのかしら? この世界はアンタが知る世界とは別物よ? この世界での命は想像以上に軽いわ」
「それは違うだろ……! 別の世界だろうと、なんだろうと、命は命だろ」
命に軽いなんて事はない。どんな命も等しく重いに決まってる。
ファンタジー世界だろうとそれは変わらないはずだ。だからこそ、奪う時は覚悟かそれ相応の理由が必要なのだ。
「……アンタ、今回の任務はどういうものなのかわかっているのかしら?」
フロリアの顔に浮かんでいるのは困惑。何かおかしな事を言っただろうか?
「勇者を討伐するんだろ?」
「そうよ。そして、勇者も人間よ?」
あー……そういうことか。でもそれは……。
「それはしょうがない。俺だって殺したい訳じゃないけれど、殺さないと俺は元の世界に戻れないんだから」
茜とまた会う為なんだ。そこの犠牲はしょうがない。うん。
命は重い、でもそれ以上に俺は茜と会いたいんだ。
「……ちょっと理解できないわね。それならカード集めだって必要な事よ?」
「いや、違うだろ。無関係な人を傷つけるのは駄目だ」
勇者を殺し、元の世界に帰る。
これが俺の手段と目的だ。そしてこの手段における必要な犠牲は勇者のみ。
それ以外を巻き込むのは、向こうから巻き込まれてこない限りは必要ではない。
俺がそう答えると、フロリアはこめかみを抑え、難しい顔で唸る。
「勇者を殺せばこの世界がどうなるかはわかるわよね?」
「え?」
「アイツらはクズだけれど、それでも今この世界に人類がたくさんいるのはそのおかげ、とも言えるの」
「…………」
「魔王を倒せる今の勇者を殺せば、その次の魔王に人類は虐殺されるわ。ある程度までね。今までだって女神はそうやって管理してきたの。例外はアンタのところ位ね」
そうか……。確かにそうだ……。
そこまで考えが及ばなかった。単純に勇者を倒せばそれで終わりだと思ってた。
ゲームや漫画と違って、この世界はその後も続くんだ。勇者がいなくなり、魔王が支配する世界となって。
「女神とかいう言葉に騙されて、自分を正義の味方か何かだと思っていたのかしら? 女神たちは人類からすれば最悪の悪魔よ。そして、私達はその尖兵と言ったところかしら」
フロリアは自嘲気味に笑う。その笑みはとても十代の女の子の笑みには見えない、深い悲しみと絶望が感じられた。
そうか……フロリアは俺と違って何度もこういう事をやってきたのか……。
俺は……どうしたら……。
本当にいいのか? この世界を犠牲にして元の世界に戻ったとして、茜の横で俺は笑っていられるのだろうか……。
「……まあいいわ。とにかくまずはギルドに行くわよ」
「……わかった」
とりあえず保留だ。考えてもどうすればいいかわかんないし……。
それにしてもギルドか。まあ……定番だよなぁ。
フロリアは目を閉じ、親指と人差し指を擦り合わせている。恐らくあれがフロリアの考える時の癖なのだろう。
どうやら自身の考えていた計画をもとに、俺のステータスを考慮した計画に組み直しているようだ。
「んー。まあいいけど。そんな悠長にしてていいの?」
俺としてはなるべく早く終わらせたいんだけど……。
フロリアは違うのか? 真面目みたいだし、なるべく失敗しないように時間をかけてやるタイプなのかも知れない。
なら、俺は勝手にやるしかないんだけど……。
「いいえ? 悠長にするつもりなんてこれっぽっちもないわ! 奴らを殺せるとしたら、一ヶ月後の勇闘会しかないのだから」
「勇闘会?」
聞き慣れない単語に思わず聞き返すと、フロリアは未だに考え事をしたまま答える。
器用な奴だな。
「ええ。ギルド所属のAランク以上の冒険者の間でトーナメントを行い、優勝者は勇者と戦える……。よく言えば町おこしイベント、本質は勇者達による自分たちの力の誇示よ」
なるほど……。にしてもAランクって。
一ヶ月でいけるのか? いっそもう……。
「そんな面倒な事しなくても、奴らを見つけたら後ろから襲えばいいんじゃないの?」
……自分で言ってあれだけどちょっと卑怯かな……?
でもそれが一番手っ取り早い気がするんだよね。後ろから弓でも槍でも銃でも使ってさぁ。
「確かに……それも考えたわ。奴らは基本的に王城で暮らしてるけど、時々ふらりと街にやってくるからね」
「なら……」
「ただ、全員ではやって来ないのよ。だから降りてきた奴を倒した場合、残りを襲うのが難しくなるうえに、街の人達が報復を受けてしまうわ」
ちっ。面倒な事だ。
一人倒した所で残りの奴らも警戒するだろうし、関係ない街の人達を危険に晒してしまうのでは確かに駄目だ。
なら、城に……ってそう簡単に忍び込めはしないか。
「……私はね、はっきり言ってこの世の誰よりも勇者を殺したいの。その私が考えた計画なのだから、黙って従って貰えないかしら……!」
「っ……わ、わかった」
怖えよ。口は笑ってるのに、見開かれた目の瞳孔が開いてるせいで不気味でしょうがない。
口を挟むなと言うことだろう。
「まずアンタは冒険者を襲って、カードを集めなさい。アンタの協力が必要になるのは、どうやら勇者達との戦いからのようだから」
「え?」
どうやら細かい計画までは教えて貰えないようだ。まだ信用はされていないということだろう。
というか、
「冒険者を襲うってどういうこと?」
「言葉のままよ。殺すか倒すかは任せるけれど、相手の胸に魔力を流したままの手を突っ込むと相手のカードが奪えるわ」
何でもないように答えるフロリア。
……どうやら文化の違いというか、世界の違いというか……。
「……俺は無関係な人を殺すつもりはないし、襲うつもりもない」
「心配しなくてもいいわ。この世界で人を殺しても、元の世界に戻れば関係ないのだから」
「そういうことじゃない……」
「なら、何を気にしているのかしら? この世界はアンタが知る世界とは別物よ? この世界での命は想像以上に軽いわ」
「それは違うだろ……! 別の世界だろうと、なんだろうと、命は命だろ」
命に軽いなんて事はない。どんな命も等しく重いに決まってる。
ファンタジー世界だろうとそれは変わらないはずだ。だからこそ、奪う時は覚悟かそれ相応の理由が必要なのだ。
「……アンタ、今回の任務はどういうものなのかわかっているのかしら?」
フロリアの顔に浮かんでいるのは困惑。何かおかしな事を言っただろうか?
「勇者を討伐するんだろ?」
「そうよ。そして、勇者も人間よ?」
あー……そういうことか。でもそれは……。
「それはしょうがない。俺だって殺したい訳じゃないけれど、殺さないと俺は元の世界に戻れないんだから」
茜とまた会う為なんだ。そこの犠牲はしょうがない。うん。
命は重い、でもそれ以上に俺は茜と会いたいんだ。
「……ちょっと理解できないわね。それならカード集めだって必要な事よ?」
「いや、違うだろ。無関係な人を傷つけるのは駄目だ」
勇者を殺し、元の世界に帰る。
これが俺の手段と目的だ。そしてこの手段における必要な犠牲は勇者のみ。
それ以外を巻き込むのは、向こうから巻き込まれてこない限りは必要ではない。
俺がそう答えると、フロリアはこめかみを抑え、難しい顔で唸る。
「勇者を殺せばこの世界がどうなるかはわかるわよね?」
「え?」
「アイツらはクズだけれど、それでも今この世界に人類がたくさんいるのはそのおかげ、とも言えるの」
「…………」
「魔王を倒せる今の勇者を殺せば、その次の魔王に人類は虐殺されるわ。ある程度までね。今までだって女神はそうやって管理してきたの。例外はアンタのところ位ね」
そうか……。確かにそうだ……。
そこまで考えが及ばなかった。単純に勇者を倒せばそれで終わりだと思ってた。
ゲームや漫画と違って、この世界はその後も続くんだ。勇者がいなくなり、魔王が支配する世界となって。
「女神とかいう言葉に騙されて、自分を正義の味方か何かだと思っていたのかしら? 女神たちは人類からすれば最悪の悪魔よ。そして、私達はその尖兵と言ったところかしら」
フロリアは自嘲気味に笑う。その笑みはとても十代の女の子の笑みには見えない、深い悲しみと絶望が感じられた。
そうか……フロリアは俺と違って何度もこういう事をやってきたのか……。
俺は……どうしたら……。
本当にいいのか? この世界を犠牲にして元の世界に戻ったとして、茜の横で俺は笑っていられるのだろうか……。
「……まあいいわ。とにかくまずはギルドに行くわよ」
「……わかった」
とりあえず保留だ。考えてもどうすればいいかわかんないし……。
それにしてもギルドか。まあ……定番だよなぁ。
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