異世界冒険EX
悠斗と茜⑤
「ただいまー」
「お邪魔します」
俺は茜と一緒に茜の家へと戻ってきた。
何故なら茜のお姉さんにそうするよう言われたからだ。
にしても、ちょっと疲れたな。まあ、あれだけ走ったからしょうかないか。
いや、むしろあれだけ走ったにしては、そんなに疲れてないなぁ。
「おかえり。茜、悠斗君」
お姉さんはリビングの扉から顔を出すと、こちらへ来るよう手招きする。
茜と二人、それに誘われるままリビングへと入る。
するとそこには……
「あれ? お母さん?」
お母さんの姿があった。ソファーに座り、複雑な表情で俺と茜を見ている。
「……おかえり、悠斗」
「どしたの? 元気ないけど」
俺はお母さんの隣に座り、話しかける。
少し失礼かと思ったが、今はお母さんが心配だ。
「実はちょっと……二人に話があるの」
「え? な、何か嫌な雰囲気だなぁ」
「…………」
お母さんの言葉に何だか妙な影を感じて、俺は動揺してしまう。
茜も少し緊張したような、不安そうな顔をしている。
……うーん、まさかあの六年生の金○が潰れてしまっていたとかだろうか?
もしそうなら治療費も慰謝料もかかるだろうし、ちょっとはわかるんだけれど……お母さんがその程度で落ち込むかな?
「とにかく、茜も座りなさい」
そう言って俺とお母さんの逆側にお姉さんは座り、茜もその隣に座った。
「……えーと……その実はね。茜の事なんだけれど……」
「茜ちゃんですか?」
なんだろう? 茜は俺と違ってそんな問題を起こしてないと思うけど……。
「あの……茜にはね、ちょっと不思議な力があって……」
「不思議な力ですか?」
実は魔法少女なの。とか言われたらどうしよう。
タキシード野郎と同じポジションが俺に務まるだろうか? いや、茜の為ならやってやろうじゃないの。うん。
「……その力って言うのが、その、触った相手をね……死なせてしまうの」
「……ちょっとその冗談は面白くないですね」
そう言えばこの人が茜にキャラ付けだとか言って一人称を僕にさせたんだっけ? 次は封じられた右腕とかさせるつもりなんだろうか。
現代っ子に中二病は今更流行らんだろう……たぶん。
「……悠斗。それが冗談じゃないのよ」
隣のお母さんもまた俺に真剣な顔でそう告げる。
ノリ良すぎだよ、お母さん。
「茜、今度は邪気眼とか言ってカラコンさせられそうだな……って、茜?」
仕方ないと、少し乗りながら茜を見ると暗い表情でこちらを見ている。
なんでだろう? 初めて会った時と同じ感じだ。
「……あの時の六年生の子、一人死んでたわ」
「え?」
「まあ、私が気づかなかったらね」
そう言うとお姉さんはスマホを取り出し、一枚の写真を見せてくる。
「…………」
そこに写っていたのは確かにあの時の、具合悪そうにしていた奴のようだ。
自発呼吸すら出来ないようで、人工呼吸器を使っている。
そして、臨床モニタと呼ばれる人間のバイタルサインを記録する機械もが繋がれている。
つまり……。
「悠斗君にはまだよくわからないかも知れないけど……」
「何となくはわかります。どうやら死にかけているというのは……」
「実際に私達が向かった時には、もう家族の皆さんも集まっていたわ」
お母さんが難しそうな話で話す。
これは……本当なのか? いやだって俺は……。
「私も実は茜とは違う、別の能力があってね……。人を癒やす事が出来るの」
お姉さんはそう言うと、スマホをスワイプし次の写真を表示する。
そこにはさっきのアイツが起き上がり、親と思われるおばさんとおじさんに抱きつかれている。
……うーん……。
「……壺、とか出てこないですよね?」
念の為、牽制しておく。流石にこんな手の混んだ詐欺はないだろうが、ちょっとそれしか言えなかった。
だって、俺が生きてる理由がわかんない。
茜が触れたら死ぬのなら、とうの昔に俺は死んでないとおかしい。
「信じられないのはわかるわ。でも、本当の事なの」
「でも、それなら俺が生きてるのおかしくないですか?」
「そう。私にとってはそれが本題なの」
お姉さんはそう言うと一つ深呼吸をする。
そして、真剣な瞳で俺を見る。
「……悠斗君も何か、不思議な力を持ってるんじゃないかな?」
「へあ?」
やっぱりこの人、変な人だな。流石にそれは無いわ。どこぞの主人公の様な右腕は持っていない。不幸でもないし。
「無いですよ。お母さんも知ってるでしょ?」
「うーん……それがね、ちょっとだけ心当たりあるのよ」
「え?」
お母さんの意外な返答に、俺は思わず声をあげてしまう。
「あなたがまだ三歳の時にね、階段から落っこちたのよ」
「マジで? え? 全然記憶に無いんだけれど、その衝撃でスタ○ド能力か何かに目覚めたとか?」
「矢ならワンチャンあったかもね……。って、そうじゃなくて、怪我一つ無かったのよ。慌てて病院に連れて行ったら、打ち身一つなくて……」
「うーん……」
「やっぱり何かあるんですよ、きっと」
お姉さんはあくまで俺に何かある事にしたあようだが、うーん……まだ半信半疑かなぁ。
だって、その三歳の時はともかく昨日の怪我だってまだ……あれ?
「そういう訳でちょっと悠斗君に協力してもらいたいのよ」
「っ! それは良いですけど……」
いつの間にか消えた腕の痣を探していたら、お姉さんに声をかけられる。
「ごめんね。出来れば茜の転入までには終わらせたいから、明日も来てもらえると助かるんだけど……」
「わかりました」
ちょっと今日は疲れてるし、なるべく早く帰りたい。それに他の箇所の痣も確認したい。
俺は二つ返事で返し、席を立とうとする。
しかし、
「まだちょっと待ってね。茜に聞いておかないといけないことがあるの。これは悠斗君にも関わる事なんだけど」
お姉さんはそう言うと、茜の方を向く。
「……茜、何であの六年生の子に触れた事を黙ってたの?」
そして真剣な声で尋ねる。
しかし茜は俯いたまま、話そうとしない。
「茜ちゃん、あなたはちゃんと理解出来てるのかしら? 自分の力が危険だということを」
お母さんはどうやら完全に茜にそんな能力があると考えているようだ。
だが、それにしてもちょっと言い方がキツイ気がする。
「言いたくはないけれど……ウチの悠斗も、もしかすると死んでいたのかも知れないのよ?」
あー……そういうことか。
確かに茜にそんな力があって、俺に特別な力なんてなかったら俺は死んでる。
だからお母さんは怒ってるのか。でも、そんな責めなくても……大丈夫だったんだし。
「まあまあ、お母さん。言わなかったんじゃなくて忘れてただけなんじゃないの?」
「悠斗は黙ってなさい」
何とか助け舟を出そうとするが、お母さんによって握り潰されてしまう。
……不味いな。
「実際、私が気づかなかったらあの子は死んでたのよ?」
お姉さんやお母さんが言っている事はもっともだけれど、大人二人に詰問されて平気な子供がいるわけ無いじゃないか。
何でそんな事がわからないのかなぁ。
「す…………あ……」
俺はボイスレコーダーのスイッチを入れ、小声で録音を終えると、立ち上がる。
「茜、トイレどこ?」
「……部屋を出て……「ごめん、ちょっとわかんないから案内して」
俺はそう言って、茜とリビングを出る。
お姉さんもお母さんも、俺が空気を変えようとしたとでも考えたのか、止められる事はなかった。
「じゃあ、茜。行こうか」
「……え?」
俺は戸惑う茜の手を引き、ボイスレコーダーを靴箱の上に置き、静かに玄関の扉を開ける。
「…………ふう」
夏とはいえ外はもう薄暗く、肌寒い。でも、それが今の俺には少し気持ちよかった。
「とりあえず、もう一度秘密基地へ戻ろう!」
「……ちょっと待ってよ! 悠斗くん」
俺だって馬鹿な事をしている自覚はある。でも、女の子が泣いてるのに何も出来ないなんてかっこ悪いじゃんか。
「大丈夫だから」
それに何だかわからないけど、茜が悲しそうにしてるのは我慢ならないんだ。
茜には子供っぽくないなんて言われたけど、俺もまだまだ子供だったって事なのかなぁ……。
疲れや緊張のせいか痛みを訴える肺に入ってくる空気は冷たくて、無性にドキドキしながら俺は、茜の手を引いて秘密基地へと走った。
「お邪魔します」
俺は茜と一緒に茜の家へと戻ってきた。
何故なら茜のお姉さんにそうするよう言われたからだ。
にしても、ちょっと疲れたな。まあ、あれだけ走ったからしょうかないか。
いや、むしろあれだけ走ったにしては、そんなに疲れてないなぁ。
「おかえり。茜、悠斗君」
お姉さんはリビングの扉から顔を出すと、こちらへ来るよう手招きする。
茜と二人、それに誘われるままリビングへと入る。
するとそこには……
「あれ? お母さん?」
お母さんの姿があった。ソファーに座り、複雑な表情で俺と茜を見ている。
「……おかえり、悠斗」
「どしたの? 元気ないけど」
俺はお母さんの隣に座り、話しかける。
少し失礼かと思ったが、今はお母さんが心配だ。
「実はちょっと……二人に話があるの」
「え? な、何か嫌な雰囲気だなぁ」
「…………」
お母さんの言葉に何だか妙な影を感じて、俺は動揺してしまう。
茜も少し緊張したような、不安そうな顔をしている。
……うーん、まさかあの六年生の金○が潰れてしまっていたとかだろうか?
もしそうなら治療費も慰謝料もかかるだろうし、ちょっとはわかるんだけれど……お母さんがその程度で落ち込むかな?
「とにかく、茜も座りなさい」
そう言って俺とお母さんの逆側にお姉さんは座り、茜もその隣に座った。
「……えーと……その実はね。茜の事なんだけれど……」
「茜ちゃんですか?」
なんだろう? 茜は俺と違ってそんな問題を起こしてないと思うけど……。
「あの……茜にはね、ちょっと不思議な力があって……」
「不思議な力ですか?」
実は魔法少女なの。とか言われたらどうしよう。
タキシード野郎と同じポジションが俺に務まるだろうか? いや、茜の為ならやってやろうじゃないの。うん。
「……その力って言うのが、その、触った相手をね……死なせてしまうの」
「……ちょっとその冗談は面白くないですね」
そう言えばこの人が茜にキャラ付けだとか言って一人称を僕にさせたんだっけ? 次は封じられた右腕とかさせるつもりなんだろうか。
現代っ子に中二病は今更流行らんだろう……たぶん。
「……悠斗。それが冗談じゃないのよ」
隣のお母さんもまた俺に真剣な顔でそう告げる。
ノリ良すぎだよ、お母さん。
「茜、今度は邪気眼とか言ってカラコンさせられそうだな……って、茜?」
仕方ないと、少し乗りながら茜を見ると暗い表情でこちらを見ている。
なんでだろう? 初めて会った時と同じ感じだ。
「……あの時の六年生の子、一人死んでたわ」
「え?」
「まあ、私が気づかなかったらね」
そう言うとお姉さんはスマホを取り出し、一枚の写真を見せてくる。
「…………」
そこに写っていたのは確かにあの時の、具合悪そうにしていた奴のようだ。
自発呼吸すら出来ないようで、人工呼吸器を使っている。
そして、臨床モニタと呼ばれる人間のバイタルサインを記録する機械もが繋がれている。
つまり……。
「悠斗君にはまだよくわからないかも知れないけど……」
「何となくはわかります。どうやら死にかけているというのは……」
「実際に私達が向かった時には、もう家族の皆さんも集まっていたわ」
お母さんが難しそうな話で話す。
これは……本当なのか? いやだって俺は……。
「私も実は茜とは違う、別の能力があってね……。人を癒やす事が出来るの」
お姉さんはそう言うと、スマホをスワイプし次の写真を表示する。
そこにはさっきのアイツが起き上がり、親と思われるおばさんとおじさんに抱きつかれている。
……うーん……。
「……壺、とか出てこないですよね?」
念の為、牽制しておく。流石にこんな手の混んだ詐欺はないだろうが、ちょっとそれしか言えなかった。
だって、俺が生きてる理由がわかんない。
茜が触れたら死ぬのなら、とうの昔に俺は死んでないとおかしい。
「信じられないのはわかるわ。でも、本当の事なの」
「でも、それなら俺が生きてるのおかしくないですか?」
「そう。私にとってはそれが本題なの」
お姉さんはそう言うと一つ深呼吸をする。
そして、真剣な瞳で俺を見る。
「……悠斗君も何か、不思議な力を持ってるんじゃないかな?」
「へあ?」
やっぱりこの人、変な人だな。流石にそれは無いわ。どこぞの主人公の様な右腕は持っていない。不幸でもないし。
「無いですよ。お母さんも知ってるでしょ?」
「うーん……それがね、ちょっとだけ心当たりあるのよ」
「え?」
お母さんの意外な返答に、俺は思わず声をあげてしまう。
「あなたがまだ三歳の時にね、階段から落っこちたのよ」
「マジで? え? 全然記憶に無いんだけれど、その衝撃でスタ○ド能力か何かに目覚めたとか?」
「矢ならワンチャンあったかもね……。って、そうじゃなくて、怪我一つ無かったのよ。慌てて病院に連れて行ったら、打ち身一つなくて……」
「うーん……」
「やっぱり何かあるんですよ、きっと」
お姉さんはあくまで俺に何かある事にしたあようだが、うーん……まだ半信半疑かなぁ。
だって、その三歳の時はともかく昨日の怪我だってまだ……あれ?
「そういう訳でちょっと悠斗君に協力してもらいたいのよ」
「っ! それは良いですけど……」
いつの間にか消えた腕の痣を探していたら、お姉さんに声をかけられる。
「ごめんね。出来れば茜の転入までには終わらせたいから、明日も来てもらえると助かるんだけど……」
「わかりました」
ちょっと今日は疲れてるし、なるべく早く帰りたい。それに他の箇所の痣も確認したい。
俺は二つ返事で返し、席を立とうとする。
しかし、
「まだちょっと待ってね。茜に聞いておかないといけないことがあるの。これは悠斗君にも関わる事なんだけど」
お姉さんはそう言うと、茜の方を向く。
「……茜、何であの六年生の子に触れた事を黙ってたの?」
そして真剣な声で尋ねる。
しかし茜は俯いたまま、話そうとしない。
「茜ちゃん、あなたはちゃんと理解出来てるのかしら? 自分の力が危険だということを」
お母さんはどうやら完全に茜にそんな能力があると考えているようだ。
だが、それにしてもちょっと言い方がキツイ気がする。
「言いたくはないけれど……ウチの悠斗も、もしかすると死んでいたのかも知れないのよ?」
あー……そういうことか。
確かに茜にそんな力があって、俺に特別な力なんてなかったら俺は死んでる。
だからお母さんは怒ってるのか。でも、そんな責めなくても……大丈夫だったんだし。
「まあまあ、お母さん。言わなかったんじゃなくて忘れてただけなんじゃないの?」
「悠斗は黙ってなさい」
何とか助け舟を出そうとするが、お母さんによって握り潰されてしまう。
……不味いな。
「実際、私が気づかなかったらあの子は死んでたのよ?」
お姉さんやお母さんが言っている事はもっともだけれど、大人二人に詰問されて平気な子供がいるわけ無いじゃないか。
何でそんな事がわからないのかなぁ。
「す…………あ……」
俺はボイスレコーダーのスイッチを入れ、小声で録音を終えると、立ち上がる。
「茜、トイレどこ?」
「……部屋を出て……「ごめん、ちょっとわかんないから案内して」
俺はそう言って、茜とリビングを出る。
お姉さんもお母さんも、俺が空気を変えようとしたとでも考えたのか、止められる事はなかった。
「じゃあ、茜。行こうか」
「……え?」
俺は戸惑う茜の手を引き、ボイスレコーダーを靴箱の上に置き、静かに玄関の扉を開ける。
「…………ふう」
夏とはいえ外はもう薄暗く、肌寒い。でも、それが今の俺には少し気持ちよかった。
「とりあえず、もう一度秘密基地へ戻ろう!」
「……ちょっと待ってよ! 悠斗くん」
俺だって馬鹿な事をしている自覚はある。でも、女の子が泣いてるのに何も出来ないなんてかっこ悪いじゃんか。
「大丈夫だから」
それに何だかわからないけど、茜が悲しそうにしてるのは我慢ならないんだ。
茜には子供っぽくないなんて言われたけど、俺もまだまだ子供だったって事なのかなぁ……。
疲れや緊張のせいか痛みを訴える肺に入ってくる空気は冷たくて、無性にドキドキしながら俺は、茜の手を引いて秘密基地へと走った。
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