異世界冒険EX

たぬきち

世界の崩壊



「そろそろか……」

 アッシュは両手に持った剣で、田沼と新城の二人の攻撃を軽くあしらいながら呟く。

 あれから二日が経過した。

 ニルギリからの通信でそろそろこの世界の権限をロックしないと奪われると、連絡が入っている。

 現状の戦力で持たせられるか?

 アッシュは考える。自身の知る限りの悠斗の能力と、そこから生み出される戦略を。 

「九割方いけると思うが……」

 制限を受けた悠斗相手ならおよそ問題はない……はずだ。

 アッシュは数分程度、熟考した末に大きく頷いた。

「よし。二人とも、今日はここまでにしよう。一時間程休憩を取ったら……始めるよ」

「ようやくですか。やっとあの時の怨みを返せそうです」

 新城が槍を下げ、呟く。その体は太く、逞しい筋肉が付いている。

 少なくとも中学生の肉体ではない。

「俺もだ。アイツさえあの時いなければ……」

 田沼の肥えていた腹は、そのまま筋肉へと変わり、腕も足も丸太の様な太さになっている。

 一攫千金の効果は食事にも及ぶ。カロリーも栄養素も千倍となり、彼らの血肉となる。

 身長もたった二日で数センチも伸び、中学生の華奢な骨格もガッシリとしたものに変わっている。

 そして、もちろん変わったのは姿形だけではない。

「これが、今の君たちのステータスだよ」

 そういってアッシュが渡してきたメモには二人の現在のステータスが記されていた。


 名前:田沼 護
 性別:男
 種族:人間
 職業:中学生
 レベル:100
 
 体力:100500/100500
 魔力:530000/530000

 物理攻撃力:16600
 物理防御力:17500
 素早さ  :12000
 魔法攻撃力:35500
 魔法防御力:39000
 運    :3000

 スキル: 炎属性魔法 風属性魔法

 固有魔法: 我田引水がでんいんすいⅤ……他者に与えられたプラスの効果全てを自分のものにする。

 名前:新城 司
 性別:男
 種族:人間
 職業:中学生
 レベル:100

 体力:800000/800000
 魔力:9000/9000

 物理攻撃力:43900
 物理防御力:32600
 素早さ  :53000
 魔法攻撃力:15000
 魔法防御力:26600
 運    :9000

 スキル: 強化魔法

 固有魔法: 愛執染着あいしゅうぜんちゃくⅤ……発動時、視界に入った人物が自身に何らかの感情を抱いていた場合、それを愛情に変え、増幅させる。

「これなら……」

「いける」

 二人は成長した自身のステータス、固有魔法を見て確信する。

 これは勝てると。

「ああ。きっと勝てるさ」

 僕は。

 そう心の中でアッシュは付け加える。

「早く行きましょう!」

「神木の奴、どんな顔するんだろうなぁ」

 三人は仮面の集団が待つ丘へと歩き出した。


◆◇◆


「す、すごい数ですね……!」

「それに皆さん……強い」

 田沼と新城の二人は思わず震えてしまう。

 彼ら自身、それなりに鍛えた事で相手の強さが何となくわかるようになっていた。

 そして、丘に集まっている傭兵や冒険者、兵士や獣人、山賊や盗賊の類いまで。

 その全員が格好や種族は違えど、強さは二人の何倍以上にもあるように思えた。

「全員! 聞こえるか!?」

 アッシュの声が響き渡る。

 珍しく大きな声を上げるアッシュに、その場の全員の視線が集まる。

「それぞれ誰の命令で動いているかはわからないが、今だけは俺の命令を聞いてくれ!」

 口調も一人称も変え、アッシュは叫ぶ。

 この地に集まった者は、国王に言われて来た者、依頼として報酬と引き換えに来たもの、恩や恐怖、様々な理由で集まっている。

 そんなバラバラな目的の奴らが集まった所で、連携は期待できない。

 である以上、複雑な作戦は立てられない訳だ。

「作戦の説明を行う! まずは攻撃と防御、二手に分かれ、攻撃側はカモミールの町を地図から消し去れ!」

 アッシュは周囲を見回し、異論が無いのを確認すると話を進める。

「攻撃側の指揮はフレアとセリエに任せる。基本的な方針は、セリエが町全体を乾燥させ、燃えやすい状況を作る。後はフレアが作り出せる限りの高温の炎で燃やしてくれ」

「……了解」

「わかりました!」

 フレアとセリエはそれぞれ頷くと、カモミールの町へと向かおうとする。しかし、

「待ってくれ。……ライオネルとカッシャ、それからヘーゲル以外の者は二人に付いていき、フレアに続けて自身の得意な魔法を使ってくれ!」

 アッシュは二人を呼び止めると集まった面々の大半をそちらに回す。

「それと一撃離脱で頼む! 一撃に魔力の全てを込め、その後は丘とは逆方向に退却してくれ。フレアとセリエは別だ。魔力を温存しつつ、こちらに戻ってきてくれ」

 アッシュは集まった者達のステータスを当然、鑑定により把握している。

 確かに殆どの者が優れてはいるが、神木悠斗と戦えるレベルにはない。

 これでは容量を広げられ、制限が解除されるだけだ。

 だからこその指示だ。

 彼が知る神木悠斗の魔法の中には魔力無効や無属性魔法といった相手の魔法や物質を消し去る魔法がある。

 この二つは強力な魔法ではあるが、消去する対象によって消費魔力が変化する。

 よって数十人もの魔法を消去するには相当の魔力が必要となるはずだ。その為の駒として使う訳だ。

 その後は容量の事を考え、逆方向へと逃がす。もしも、神木悠斗か彼らを追うならそれはそれで時間稼ぎになる為ありがたい。

「私達はどうすればいいのかにゃ?」

 フレアとセリエが大軍団を連れて行き、随分と寂しくなった丘で、一人というか一匹というか……猫耳に尻尾、それだけで無く全身を柔らかな毛に包まれた女性がアッシュに尋ねる。

 獣人のカッシャだ。

「僕が見たところ、君とヘーゲル、そしてライオネルは他の者と比べて別格の強さだからね……ここで防衛だよ」

 口調を戻したアッシュがそう声をかけると、三人は少し驚いた顔をする。

「それはつまり、あいつらじゃ倒しきれないって事か? 確かに我々には遠く及ばない奴らだが、それでもあれだけの数がいれば国を落とす位の戦力はあると思うぞ?」

 すっぽりと全身をローブで隠した少年が尋ねる。魔族との混血児である彼は、見た目で言えば十歳前後と言った所だが、実年齢は百を超えている。

「国を落とせる程度じゃ、ね。世界を落とせる位じゃ無いと」

 アッシュは肩をすくめて答える。

「ふん……久々に楽しめそうだ」

 大仰な鎧を着込んだ男が呟く。兜で見えないが、どうやらその口元は笑っているようだ。

(アッシュ! そろそろ限界です。これより召喚に移り、その後はロックし、合流します!)

 アッシュの頭の中に声が響く。ニルギリの声だ。作戦の開始を意味する連絡を受けて、アッシュは大声で指示を飛ばす。

「僕が立っているここを中心に守りを固めてくれ! 長期戦にはならない! 出し惜しみなく全力で迎撃に当たってくれ!」

「了解!」

 アッシュの指示を受け、仮面の集団の七人と三人の冒険者、それから田沼と新城が配置につく。

 ……田沼と新城はオロオロとアッシュの近くにいるだけだが。

「来た……」

 アッシュの前の空間に歪みが出来る。異世界からの転移の前触れである。


◆◇◆


「ここだな……」

 一方で、フレアとセリエはカモミールの町へと来ていた。

 四重に重ねられた結界で覆われたその町は、まるで時が止まったように静かだ。

「セリエ……準備はいいか?」

「とうの昔に完了してるわ。早く終わらせて、アッシュ様の所に戻りましょ」

 やれやれとフレアはこっそり息を吐く。

 彼自身、アッシュには恩があるので力になってやりたいが、セリエは明らかに行き過ぎている。

「じゃあ……やるか」

 フレアは落ちていた木の枝を結界内部へと投げ入れる。

 カモミールの町を覆う結界は全て内部結界。つまり内部からの現象を防ぐものであり、外部からは簡単に抜けられるのだ。

 そして、

「はぁっ!」

 フレアが声を発すと共に、飛んでいった木の枝が発火し、町の家々を燃やしていく。

 フレアの能力は熱エネルギーの操作。

 つまりは物質の分子や原子の振動の度合いを操る事で、温度を上げる事も、逆に下げることも出来るのだ。

 木の枝の温度が発火点を超え、燃焼を始め、それが木製の家を燃やし、どんどん炎は広がっていく。

 魔法で炎を生み出さなかったのは理由がある。

 炎属性魔法は魔力を炎に変える魔法。

 そこに分子や原子は存在せず、温度を操ることが出来ないのだ。

「よし……いけそうだ!」

 フレアの能力は直接的、間接的に触れたものにしか効果がない。

 だが、今は結界内に自身の操る分子や原子を送り込むことで結界内の空気中にある分子や原子と接触させ、空間全ての温度を操る事が出来る。

「……結界が無ければ死んでるな……」

 結界内は地獄の釜と化している。

 あまりの高温に石や地面が溶融し、物体の殆どは蒸発している。

「ぐわあぁあああああ!」

 そんな中、少年の叫び声が聞こえた。

「今だ! やれ!」

「海流戦禍!」
「神の雷!」
「ダークスフィア!」
「グレイシーバインド!」
「激流裂果!」

 中にいる敵の存在を確信したフレアの声を合図に、様々な属性の魔法が技が結界内に撃ち込まれていく。

 それによって急激に温度が下がった地面がガラス化し、その一瞬後には抉れ、破壊されていく。

 撃った者は指示通りすぐにその場を離れ、フレアとセリエもアッシュが待つ丘へと向かおうとした……その時。

「にゃんちゃって!」

 ふざけた様な明るい少年の声と同期して、カモミールの町とその周辺一帯の地面が消失した。

「あ、ああああ! ごめんなさい! 逃げて下さい!」
「駄目……! 解除出来ない!」
「すまねえ! 抑えきれねえ!」
「ぐあっ!」
「うわあああああっ!」

 突如生まれた落とし穴に、魔法を発動中だった者達の魔法は当然、穴の中の仲間へと向けられる。

 穴の中には爆炎が生まれ、氷が降り注ぎ、風が荒れ狂い……光が、闇が、雷が。

 既に魔法を撃っていた者は、魔力の殆どを使い切り、防ぐ術も無い。
  
 空に浮かんだ少年は、そんな混沌となった穴を眺め、満足そうに笑みを浮かべる。

「さてさてさてさて! 調子に乗りおった馬鹿共め! おしおきだべ~!」

 久々の出番にテンションが上がり、キャラが壊れ気味の少年、神木悠斗は穴に手を向け告げる。

「《創造魔法》」

 突如として消失したはずのカモミールの町と地面が空に浮かび上がる。

 そして、その光景を見た穴の中の人達の顔が一斉に絶望に染まる。

 次の瞬間には訪れるであろう終わりを想像してしまったのだ。

「落ち……なっ!?」

 悠斗の魔法の制御が崩れ、カモミールの町と地面が自然落下を始める。

「な、何でだよ!?」

 狼狽える悠斗の眼には真っ赤に染まった空が、空間に入ったひびが、揺れ動く大地が映っている。

 世界崩壊の前触れである。

 カモミールの町と地面が穴の上に落ち、殆どの者が潰されていく中で、フレアとセリエはギリギリで抜け出し、丘へと走り出す。

 悠斗が操作できなかった分、落下速度が落ちたから出来たことだ。

 当然それに気付きながらも悠斗はただ呆然と呟いた。

「……茜っ……!」

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