異世界冒険EX

たぬきち

続・仮面会議



「さて、と」

 悠斗が結界に閉じ込められるよりも少し前、アッシュはくじ作りを終え、それらを箱の中へと入れていた。

「誰から引こうか?」

「アッシュ!」

 笑みを浮かべたままメンバーを見渡すアッシュの隣。珍しく焦った表情のニルギリがアッシュの名前を呼ぶ。

「どうした? ニルギリ」

 笑みを消したアッシュが真剣な表情で尋ねる。

「視界リンクを!」

 ニルギリはそう言うと手を差し出す。

 視界リンクとは現在、ニルギリが見ている視界をアッシュにも見せる能力だ。

 アッシュはニルギリの手を取ると、目を瞑る。

 目を開けたまま、視界リンクを行うと自身の目で見えている視界と重なって気持ち悪いからだ。

「……神木悠斗……」

 二人が見ているのはカールの視点だ。彼は現在警察署で悠斗と会話中ようだ。

 協調性のないカールとギル。当然その二人は、ニルギリによって監視されていた。

「……どうする……まだ僕には、いや、でも、制限は……こちらの……」

 ブツブツと呟くアッシュを、残されたメンバーは訝しげな目で見ている。

 その中でも二人の少年はアッシュが呟いた名前に思わず反応してしまう。

「あ、あの……神木悠斗って」

 オドオドした様子の田沼護がアッシュに向かい、尋ねる。

「だが……その場合、いや、駄目だな……」

 しかし、アッシュの耳には入らない。

 田沼護はすぐに諦め、他の面々同様アッシュの考えが纏まるのを待った。

「とりあえず情報を渡すわけにはいかないか……」

 アッシュの言葉と同時に手につけていた指輪が光りだす。

 彼の固有魔法は魔法錬金。悠斗と同じ知り得た他者の固有魔法を装備品に付加できる魔法だ。

「カールでどこまで時間を稼げるか……」

 皮肉にもカール自身の固有魔法である記憶操作を発動し、カールと悠斗を対立させる。

「それにもう……。いや、ここが勝負所か」

「アッシュ!」
「え……あれっ!?」
「な、なにを!?」

 アッシュの魔力の波動に身構える仮面の集団の面々だったが、残念ながらそれは無駄だ。

 既に一度、記憶を操作されている彼らでは防ぐことも躱す事も出来ない。

 それはもちろん、遠くにいるギルも含めてだ。

 アッシュは彼らの記憶を操作し、自身に絶対の忠誠を誓わせる。

 しかし田沼護と新城司は別だ。二人はまだ一度も記憶操作を受けていないので、触れなければ操作できない。

「そういえば……」

 アッシュはふと二人を見て、あることに気付く。

「神木悠斗って少年を知ってるかい?」

 彼らが着ている制服。それは先程カールの視界を通して見た悠斗の制服と同じだ。

 その黒の学ランに付けられた校章と思われるバッジも同じ。

「クラスメイトです」

 新城が答える。

 アッシュが隣の田沼に目をやると、こちらもコクコクと頷いている。

 その答えを聞いたアッシュは思わず笑みを浮かべる。

「……これは僕にも運が向いてきたかな? いや、それよりまずは……」

 そしてゆっくりと立ち上がると、少しだけ声を大きくし、メンバーに指示を出す。

「ニルギリ! 君はアイギスの方を頼む。この世界に対して干渉出来ないようにしてくれ!」

「はい」

「残りのメンバーはこれよりカモミールへと向かう! その際、必要となるのが結界術だ! 得意な者はどんな奴でも良いから十分以内にここに連れて来てくれ!」

「わかりました」
「了解!」
「わかったわ」

 仮面のメンバーはそれぞれ指示どおりに自分の知る限りの結界術の使い手を呼びに行く。

 遠方の者はニルギリに頼み、転移させてもらっている。

 そしてニルギリも一通りメンバーからの頼みが落ち着くと、アッシュに向けて一礼し、その姿を消す。

 ただの女神であるニルギリが、女神長であるアイギスの邪魔は出来ないはずだが……。

「それから新城君と田沼君もついてきてもらうよ?」

「は、はい」

 誰もが慌ただしく動き出した中、新城と田沼は居心地が悪そうに立ち尽くしていた。

 そんな二人に向けてアッシュから声がかかり、二人は緊張した面持ちで返事をする。

 間に合うか? アッシュは頭の中に見える光景を見ながら考える。

 銃弾の嵐に襲われている悠斗。

 だがアッシュは確信していた。すぐにカール含め、その場の全員がやられることを。

「ギリギリだな……僕も早く呼ばないといけないな……」

 アッシュはそう呟き、心の中で付け加える。

 本当の仲間を、と。

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