異世界冒険EX

たぬきち

急転



「いやいや……好き勝手やりすぎだろ」

「何の事ですか?」

 ケイトの後を追い、建物に入ると中はまさに地球のビルだった。

 エレベーターまであるんだけどこれ電力とかどうなってんのかね? 別の動力で動いているのかも知れないが。

「これ誰が作ったの?」

「ええと……わかりません」

 むう。署長ではないはずだ。奴の能力は十中八九記憶操作系だ。

 と、なると仲間が居るのか……。単純に考えるなら仮面の集団だったか? そいつらだろうけど。

「まあいいや」

 そうこうしているうちに、署長室と記された部屋の前に辿り着いた。

 扉の横にはパスワード入刀の機械と、その下には指を差し込むような穴がある。

「じゃあ、開けますね」

 そういってケイトが穴に指を差し込むと、扉が自動で開かれる。

 ……いや、別に良いけどさ。別に良いんだけどさ。

「署長は三十分後に来られるそうなので、どうぞくつろいでお待ち下さい。コーヒーでよろしいでしょうか?」

 ケイトはそう言うと、部屋の中の扉を開け、別の部屋へと向かう。

「砂糖多め、ミルクも多め。コーヒー牛乳って位で!」

「わかりました」

 通じたし。ペットボトルは知らないのに、コーヒー牛乳は知ってるのかよ。……あ、記憶操作か。

 というか、どこまで地球文化に染まってるんだ。

 そりゃ悪いことじゃないけど、やっぱりそれぞれ独自の文化が……ていうか、西部劇っぼい村にしてるんだから、ビールとか酒類じゃないのか? いや、飲まないけどさ。

「また普通にこれ……」

 部屋の中には作業机と椅子が一つと、長いテーブル。そしてそのテーブルの両端にふかふかのソファーが置かれている。

 あんまりふかふかだと腰痛めるんだよなぁ。

「お菓子もこれキット○ットだし」

 テーブルの上には見慣れたお菓子が置かれている。まあ……好きだけどね。

 おそらく西部劇は好きだけど、自分は快適な生活を続けたいってことなんだろうなぁ。

「お待たせしました」

「……何やってんの?」

 ケイトはお盆にコーヒーという名のコーヒー牛乳を乗せて、俺の目の前へと置いた。

 それは良いんだけど……服が変わっている。

 それまでの警察の制服とやらではなく、体のラインがハッキリとわかる薄手のキャミソール一枚だ。

 大事なところも透けて見えてしまっている。

 なるほどね。いや、うん。……やはりデカい。何がとは言わないけど。

「えーと……色仕掛け、ですかね?」

「俺に聞かれても……」

「そう、ですよね……」

「早く元の服に着替えなよ」

 困ったような表情を浮かべるケイトに優しく言葉をかける。

(まあ、しっかり見てる時点で主人公としてはアウトだけどね)

(……別に主人公じゃないからいいんだよ)

(「誰だって人生の主人公は自分自身なんだよ!」)

(やめろ。まじでやめろ)

 色んな要因で顔が赤くなってしまう。不味い。

「コスチューム派ですか……」

 ケイトが聞き捨てならないことを言いながら奥の扉へと向かう。

「ちょっ、待っ」

 俺の言葉は届かず、ケイトは奥の部屋へと入っていった。

 何か勘違いされた気がする。

「お待たせしました」

 っと、いつの間にか、俺の目の前のソファーに男が一人座っている。

 空間移動系までいるのかよ……。面倒だな。いや……もしかして、女神か?

「はじめまして――」

 とりあえず挨拶をしておく。今回はお話ということだからな。利用できる間はそれなりに扱おう。

 そう思ったんだがな。

「……っ!」

「いきなりか……」

 男は持っていた仮面をテーブルに置くと、こちらに手を向け、何らかの魔法を行使してきた。

 だが、当然魔力無効で打ち消す。どうやら拷問がお望みのようだ。

「待って、待って頂きたい」

 俺が手に刀を呼び出すと男は座ったまま、大きく頭を下げた。

「で、どういうつもりだ?」

 刀を持ったまま尋ねる。この距離なら一瞬の内に殺せる。

 ……念の為、強化魔法で筋力と動体視力、思考力も底上げしておく。

「いえ、試してみただけです。この程度の魔法にかかるようでは倒せませんから……仮面の集団を」

 ドヤァと言った顔でこちらを見る男。殺してやろうか。

「まずはお前の名前を言え」

「カールです。……元の世界でもね」

 ふむ。髪と瞳の色からしてアジア系ではないと思っていたが予想通りだな。

 短く刈り込んだ金髪に、白い肌、そして青い瞳。ヨーロッパ系か。まあ、どうでもいい。

「次にお前の固有魔法は?」

「記憶の操作です」

 やはりか。そこは予想通りだな。

「やはり盗賊共と組んでいたのはお前か。……まさかドルゲの記憶も?」

「ええ。とはいえ、そう便利なものではないですがね」

 カールの話では記憶を操作しようと、行動までは操作できないらしい。

 例えば善良な人間に人を殺させる為に、昔から人を殺していた記憶を挿入したとしても、持って生まれた気質が邪魔をするらしい。

 加えて、永遠に効果があるものでもなく、掛けなおさないと効果が持続しないらしい。

「で、お前の目的は?」

「……それは……」

 男は少し言葉に詰まると、視線を泳がせる。言い辛い事でもあるのか?

「言っておくが、俺に嘘は通じないぞ」

 念のため、釘を刺しておく。それこそ嘘だが、まあ牽制ぐらいにはなるだろう。

「私は西部劇が好きでね、この町もそれをイメージして作ったんですよ」

「だろうな。……まぁ、この建物は違うみたいだがな」

「そりゃ不便ですからね」

 事も無げに言うカール。そりゃそうだろうけどさ。

「おっと、話が逸れましたがそういうことです。今、現在支配しているあいつ等を殺し、私が新しい支配者となり、世界を西部劇にする! それこそが私の目的です!」

 ……何言ってんだ。この馬鹿。しょうもなさすぎだろ。……まあ今はいいか。

「じゃあ、次は仮面のほにゃららとかいう馬鹿共の情報だ」

「ああ、まずリーダーの……っ何て、貴様に言う訳がないだろうが!」

「っ!?」

 穏やかな顔で話していたカールの表情が、一瞬にして怒りに変わる。

 ……何だ? 何が起きた?

「死ねえ!」

 懐から取り出した銃をこちらに向けるカール。

 だが、遅い。

「……どうなってんだ」

 既にカールの右腕は切り落としている。銃が握られた右腕がどさりと床に転がる。

「うぐっ……ならば……ケイト! シフル! ゲイガ! 他も全員来い!」

 奥の部屋からケイトが、入ってきた扉から他の少女や少年、男に女、十人程度の人間が入ってくる。

 全員がケイトと同じ制服を着ている。警察という事か。

「……何のつもりだ?」

「うるさいですよ。この屑野郎」

 ……何だってんだ。いきなり屑に屑って言われちまったよ。

「皆さん、あいつが署長のカールです! 今こそ復讐の時ですよ!」

「はあ? って<<風の鎧>>」

 俺に向けて一斉にあらゆる方向から銃弾が飛んでくる。なんとか風魔法で弾き飛ばすが、いかんせん理解が追いつかない。

「ユウトさん!」

 ケイトが俺の名を呼び、カールの元へと向かう。他の奴らも武器を手に俺を囲むように動いている。

「誰だか知らないが、やっと自分の記憶を取り戻す事ができたよ。ありがとな」

 女性がカールに向けて呟く。

「いえ。それよりさっさと片付けてしまいましょう」

 ……そういうことか。あのクソ野郎、俺と自分の姿を入れ替えた記憶を捏造しやがったな……。

 いくら気質が善人でも記憶を操作され、長い事操られてきたと知ったらこうなるか。そしてその罪を俺に着せたわけだ。

 ……外道め。

「ちっ!」

 半分が銃を撃ち、半分が空になった銃に弾を補充する。そうする事でまさに弾幕といった量の銃撃を浴びせられている。信長かよ。

 弾が尽きるまで待ってもいいが……。

「仕方ない……殺すか」

 パチンと指を鳴らす。

 それと同時に激しい弾幕は止まり、世界が一瞬停止する。

「あれ? 皆さん?」

 そして、次の瞬間。

 間抜け面のカールに向けて銃弾の雨が襲い掛かった。

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