異世界冒険EX
崩落
「……なるほどな」
静まり返った洞窟内の部屋で、一人頷く。
わかったことは三つ。
一つは、ドルゲも誘われたようだが仮面の集団とかいう異世界人だけで作られた中二病集団があること。
いや……俺はリアルに中二だから多少は許されるはずだ。
それから二つ目、ドルゲの固有魔法。
……正直便利すぎる。さっそく指輪の一つに付加した。ドルゲがあれだけ自信満々だったのも頷ける。
そして、三つ目はドルゲの手下共は署長と組んでいる、もしくは利用されているということだ。
ケイトに関しては、名前や最近の出来事については答えたが、署長の能力や警察の勢力等、重要な質問にはわからないしか答えなかった。記憶を弄られている可能性が高い。
「……ん……なんだ、やけに頭が痛い。飲みすぎたつもりは無いんだが……」
「おはようさん、外はもう朝だぞ」
流石にこれだけの人数を調べるのは魔力的にも、体力的にもキツかった。時間も朝までかかったし。
とりあえずドルゲだけは幻術を解除した。
ドルゲ自身はいい奴だ。寝ているうちに元の世界になんて薄情な真似は流石にできない。
「あ、悠斗か? なんかお前と話してた気がしたんだが……」
「ああ。こ○亀が終わった話をしてたところだったな」
「え、マジかよ!? 最終回ってギャグ系だったのか? それとも感動系だったのか?」
「読め」
俺は詰め寄ってくるドルゲに創造魔法で作った雑誌を投げる。二度も近くであんな暑苦しい顔は見たくない。
放たれた雑誌はパラパラと音を立て飛んでいき、ドルゲの顔に着地する。
「うおおおおお! お前の固有魔法、本当に便利だな」
それを気にした様子もなく、ドルゲは歓喜の表情を浮かべて雑誌を手に取る。
「お前のもな」
「あ、なんか言ったか?」
「いや、何にも?」
「そうか」
ドルゲが黙々と雑誌を読み出したので、とりあえず今度はケイトに掛けていた幻術を解く。
こ○亀だけならそう時間はかからないだろうし、話はそれからでも出来る。その間にケイトには町に戻ってもらおう。これ以上、俺の情報を署長に伝えられるのは困る。
「おはよう」
「あ、あれ、私は……。頭痛い」
起き上がったケイトは頭を抑え、ふらつく。あれだけ飲めばそりゃな。
結構ストレスとか溜めてるんだろうか。
「大丈夫かよ? ほら、水だ。飲め」
多少は俺のせいでもあるので、創造魔法で創り出したペットボトルの水を渡す。
「ありがとうございます。……ってあれ? これってどうやって?」
ケイトはペットボトルの蓋を引きちぎる勢いで引っ張っている。ちょっと怖い。
……やっぱり本当にこっちの世界の人間か。
「引っ張るんじゃなくて回すんだよ」
俺が蓋の開け方を教えてやると、ケイトはなるほどっと言った顔で蓋を開け、水を飲む。
「それにしてもお前よく盗賊のアジトで寝れるな? 度胸ありすぎだろ。排除しようとしてたくせに」
「い、いや、すみません。お酒は美味しいですし、料理も美味しいしで、つい。……それに、ユウトさんも居ましたし」
……はあ。もっとしっかりした奴だと思ってたんだがなあ。俺だってそんな信用される程一緒に居た訳じゃないだろ。
まあでも……悪い気はしないけど。
「とりあえずお前は町に戻れ。ドルゲは町の盗賊とは関係ない」
「え? でも署長が……」
「……とにかく俺はまだやることがあるが、ドルゲを排除するつもりはない」
……まあ、元の世界に戻って貰うから、結果的に排除することになるけど。
わざわざそれを伝える必要はないだろう。排除の指示をしたのが署長だとしたら喜ばせてしまうしな。
「そう、ですか。わかりました。仕事もありますし、とりあえず帰ります」
「一応、弾は作っておいたから。持っていけ」
少し肩を落としたケイトだったが、弾を受け取ると笑顔で、しかし痛そうに頭を押さえながら立ち上がり、一礼してそのまま出口へと向かった。
ま、なんにしても署長に会って話を聞くしかないな。女神の指輪持ちって事は女神の関係者だろうし。
加えて屑みたいだしな。心置きなく殺せる。
と、その前に……。
「なあ、ドルゲ。元の世界に戻りたくないか?」
俺は未だに雑誌を読み耽るドルゲの元へと歩き、話しかける。
「おーそうだな」
「食べ物も美味いし、漫画やゲーム、娯楽もたくさんだ」
「おーそうだな」
「……お前聞いてないだろ?」
「おーそうだな」
……やっぱり殺すか。その方が手っ取り早いし。
いや、待て待て。こいつの記憶は価値がある。アイギスにしっかりと調べてもらわないと。
仮面の集団とやらに会っているからな。そいつらの容姿や能力を知りたい。
「…………」
だが、まあとりあえず漫画は没収だな。
「あっ!? おい!? 消えたぞ!」
「ちょっと俺の話を聞け」
「なんだよ。急に……」
俺はドルゲの隣に腰掛け、また説得を始める。
「お前、元の世界に戻りたくないか? 食べ物も美味いし、娯楽もたくさんの世界によ」
「うーん……って、戻る方法知ってるのか?」
「ああ」
「マジかよ……お前、本当に何者だ?」
「俺のことはいいだろ。それより、戻りたいか?」
俺が真剣な顔で尋ねると、ドルゲは腕を組み考える。
難しい顔であーでもない、こーでもない、と唸っている。
「うーん……ちょっと考えさせてくれ」
「駄目だ。時間が無い。というかそんな悩む問題か?」
異世界、特にこの世界なんて命の危険はあるし、地球程に文明が発達してないしで最悪だ。
地球に残してきた家族や友人、恋人……はともかく、仲の良い異性の一人ぐらいはいるだろう。
ドルゲにそう伝えると、ドルゲは寝ている手下共を見ながら呟く。
「そりゃ俺としては帰りてーけどよ……」
なるほどね。
「手下共か?」
「ああ。俺が居なくなれば、洞窟は崩れてしまう。そうなるとこいつらの居場所がなくなるだろ? そしたら前の盗賊団の時と同じ事になりそうでな……」
「ふーん……じゃあ、手下共が居なくなりゃ帰るんだな?」
「え?」
手下どもは未だ幻術にかかったままだ。
今のところは眠らせてるだけだが、幻術の魔法を解除し攻撃魔法に変えれば……一瞬だ。
「ちょっ!? お前何するつもりだ!?」
立ち上がった俺の手を慌てて掴んでくるドルゲ。ゴツい手の感触が非常に不愉快だ。
「ドルゲの未練を消すだけだ」
「やめろ。そんな事されたらお前と戦わないといけない」
ドルゲの強い意思の籠もった視線が俺の目を射抜く。だが、
「……はあ。戦いになると思うか? 何で手下共は未だに起きないと思う?」
「はあ? そりゃあんだけ飲んだんだ。寝入ってしまっててもおかしくないだろ?」
「これでもか?」
微弱な風の弾丸を手下の一人に向けて飛ばす。微弱といっても人を弾き飛ばす程度の威力はある。
「おいっ!」
風の弾丸が命中した手下の一人は吹き飛び、そのまま地面に転がる。
しかし、起き上がる事はない。
「な? もうわかっただろう」
「何が……何で……どうやったんだ?」
ドルゲには悪いがそれは答えられない。俺は質問には答えず、説得を続ける。
「当然、お前にも仕込んでいるから無理やり戻すことも出来る。だが、心優しい俺としては納得して戻ってもらいたい。だからこそ、こうして話し合ってる訳だ」
「……お前……本当に一体何者だ?」
またそれかよ。そんなに重要な事かねえ。
「それはどうでもいいから。五秒以内に戻ると決めないと手下共を殺す」
「どこが心優しいんだよ……」
「5」
「わかった。戻る。だが、最後に手下どもと話をさせてくれ」
早い決断だったな。だからこそ報われないが。ドルゲ、すまない。
「却下。じゃあね」
アイギスから貰った転移結晶をドルゲの体にぶつけると、結晶は砕け、ドルゲが光に包まれる。
その光が収まる頃には、ドルゲはどこにも居なくなっていた。
(アイギス。頼んだ)
(りょーかい。記憶の映像を抜き出して調べとくよ。特に仮面の集団について)
さてと、早速カモミールに戻って署長を探すとしようかね。
ドルゲが居なくなり、崩れ始めた洞窟から抜け出し町へと歩き出す。
「…………」
残された手下共は死ぬその瞬間まで、俺の幻術にかかったままだろう。
これが俺のせめてもの温情だ。ドルゲには能力と記憶どっちも使わせてもらうからな。
「悪いな。ドルゲ。でも、こいつらには生かしておく価値は無いんだ……」
静まり返った洞窟内の部屋で、一人頷く。
わかったことは三つ。
一つは、ドルゲも誘われたようだが仮面の集団とかいう異世界人だけで作られた中二病集団があること。
いや……俺はリアルに中二だから多少は許されるはずだ。
それから二つ目、ドルゲの固有魔法。
……正直便利すぎる。さっそく指輪の一つに付加した。ドルゲがあれだけ自信満々だったのも頷ける。
そして、三つ目はドルゲの手下共は署長と組んでいる、もしくは利用されているということだ。
ケイトに関しては、名前や最近の出来事については答えたが、署長の能力や警察の勢力等、重要な質問にはわからないしか答えなかった。記憶を弄られている可能性が高い。
「……ん……なんだ、やけに頭が痛い。飲みすぎたつもりは無いんだが……」
「おはようさん、外はもう朝だぞ」
流石にこれだけの人数を調べるのは魔力的にも、体力的にもキツかった。時間も朝までかかったし。
とりあえずドルゲだけは幻術を解除した。
ドルゲ自身はいい奴だ。寝ているうちに元の世界になんて薄情な真似は流石にできない。
「あ、悠斗か? なんかお前と話してた気がしたんだが……」
「ああ。こ○亀が終わった話をしてたところだったな」
「え、マジかよ!? 最終回ってギャグ系だったのか? それとも感動系だったのか?」
「読め」
俺は詰め寄ってくるドルゲに創造魔法で作った雑誌を投げる。二度も近くであんな暑苦しい顔は見たくない。
放たれた雑誌はパラパラと音を立て飛んでいき、ドルゲの顔に着地する。
「うおおおおお! お前の固有魔法、本当に便利だな」
それを気にした様子もなく、ドルゲは歓喜の表情を浮かべて雑誌を手に取る。
「お前のもな」
「あ、なんか言ったか?」
「いや、何にも?」
「そうか」
ドルゲが黙々と雑誌を読み出したので、とりあえず今度はケイトに掛けていた幻術を解く。
こ○亀だけならそう時間はかからないだろうし、話はそれからでも出来る。その間にケイトには町に戻ってもらおう。これ以上、俺の情報を署長に伝えられるのは困る。
「おはよう」
「あ、あれ、私は……。頭痛い」
起き上がったケイトは頭を抑え、ふらつく。あれだけ飲めばそりゃな。
結構ストレスとか溜めてるんだろうか。
「大丈夫かよ? ほら、水だ。飲め」
多少は俺のせいでもあるので、創造魔法で創り出したペットボトルの水を渡す。
「ありがとうございます。……ってあれ? これってどうやって?」
ケイトはペットボトルの蓋を引きちぎる勢いで引っ張っている。ちょっと怖い。
……やっぱり本当にこっちの世界の人間か。
「引っ張るんじゃなくて回すんだよ」
俺が蓋の開け方を教えてやると、ケイトはなるほどっと言った顔で蓋を開け、水を飲む。
「それにしてもお前よく盗賊のアジトで寝れるな? 度胸ありすぎだろ。排除しようとしてたくせに」
「い、いや、すみません。お酒は美味しいですし、料理も美味しいしで、つい。……それに、ユウトさんも居ましたし」
……はあ。もっとしっかりした奴だと思ってたんだがなあ。俺だってそんな信用される程一緒に居た訳じゃないだろ。
まあでも……悪い気はしないけど。
「とりあえずお前は町に戻れ。ドルゲは町の盗賊とは関係ない」
「え? でも署長が……」
「……とにかく俺はまだやることがあるが、ドルゲを排除するつもりはない」
……まあ、元の世界に戻って貰うから、結果的に排除することになるけど。
わざわざそれを伝える必要はないだろう。排除の指示をしたのが署長だとしたら喜ばせてしまうしな。
「そう、ですか。わかりました。仕事もありますし、とりあえず帰ります」
「一応、弾は作っておいたから。持っていけ」
少し肩を落としたケイトだったが、弾を受け取ると笑顔で、しかし痛そうに頭を押さえながら立ち上がり、一礼してそのまま出口へと向かった。
ま、なんにしても署長に会って話を聞くしかないな。女神の指輪持ちって事は女神の関係者だろうし。
加えて屑みたいだしな。心置きなく殺せる。
と、その前に……。
「なあ、ドルゲ。元の世界に戻りたくないか?」
俺は未だに雑誌を読み耽るドルゲの元へと歩き、話しかける。
「おーそうだな」
「食べ物も美味いし、漫画やゲーム、娯楽もたくさんだ」
「おーそうだな」
「……お前聞いてないだろ?」
「おーそうだな」
……やっぱり殺すか。その方が手っ取り早いし。
いや、待て待て。こいつの記憶は価値がある。アイギスにしっかりと調べてもらわないと。
仮面の集団とやらに会っているからな。そいつらの容姿や能力を知りたい。
「…………」
だが、まあとりあえず漫画は没収だな。
「あっ!? おい!? 消えたぞ!」
「ちょっと俺の話を聞け」
「なんだよ。急に……」
俺はドルゲの隣に腰掛け、また説得を始める。
「お前、元の世界に戻りたくないか? 食べ物も美味いし、娯楽もたくさんの世界によ」
「うーん……って、戻る方法知ってるのか?」
「ああ」
「マジかよ……お前、本当に何者だ?」
「俺のことはいいだろ。それより、戻りたいか?」
俺が真剣な顔で尋ねると、ドルゲは腕を組み考える。
難しい顔であーでもない、こーでもない、と唸っている。
「うーん……ちょっと考えさせてくれ」
「駄目だ。時間が無い。というかそんな悩む問題か?」
異世界、特にこの世界なんて命の危険はあるし、地球程に文明が発達してないしで最悪だ。
地球に残してきた家族や友人、恋人……はともかく、仲の良い異性の一人ぐらいはいるだろう。
ドルゲにそう伝えると、ドルゲは寝ている手下共を見ながら呟く。
「そりゃ俺としては帰りてーけどよ……」
なるほどね。
「手下共か?」
「ああ。俺が居なくなれば、洞窟は崩れてしまう。そうなるとこいつらの居場所がなくなるだろ? そしたら前の盗賊団の時と同じ事になりそうでな……」
「ふーん……じゃあ、手下共が居なくなりゃ帰るんだな?」
「え?」
手下どもは未だ幻術にかかったままだ。
今のところは眠らせてるだけだが、幻術の魔法を解除し攻撃魔法に変えれば……一瞬だ。
「ちょっ!? お前何するつもりだ!?」
立ち上がった俺の手を慌てて掴んでくるドルゲ。ゴツい手の感触が非常に不愉快だ。
「ドルゲの未練を消すだけだ」
「やめろ。そんな事されたらお前と戦わないといけない」
ドルゲの強い意思の籠もった視線が俺の目を射抜く。だが、
「……はあ。戦いになると思うか? 何で手下共は未だに起きないと思う?」
「はあ? そりゃあんだけ飲んだんだ。寝入ってしまっててもおかしくないだろ?」
「これでもか?」
微弱な風の弾丸を手下の一人に向けて飛ばす。微弱といっても人を弾き飛ばす程度の威力はある。
「おいっ!」
風の弾丸が命中した手下の一人は吹き飛び、そのまま地面に転がる。
しかし、起き上がる事はない。
「な? もうわかっただろう」
「何が……何で……どうやったんだ?」
ドルゲには悪いがそれは答えられない。俺は質問には答えず、説得を続ける。
「当然、お前にも仕込んでいるから無理やり戻すことも出来る。だが、心優しい俺としては納得して戻ってもらいたい。だからこそ、こうして話し合ってる訳だ」
「……お前……本当に一体何者だ?」
またそれかよ。そんなに重要な事かねえ。
「それはどうでもいいから。五秒以内に戻ると決めないと手下共を殺す」
「どこが心優しいんだよ……」
「5」
「わかった。戻る。だが、最後に手下どもと話をさせてくれ」
早い決断だったな。だからこそ報われないが。ドルゲ、すまない。
「却下。じゃあね」
アイギスから貰った転移結晶をドルゲの体にぶつけると、結晶は砕け、ドルゲが光に包まれる。
その光が収まる頃には、ドルゲはどこにも居なくなっていた。
(アイギス。頼んだ)
(りょーかい。記憶の映像を抜き出して調べとくよ。特に仮面の集団について)
さてと、早速カモミールに戻って署長を探すとしようかね。
ドルゲが居なくなり、崩れ始めた洞窟から抜け出し町へと歩き出す。
「…………」
残された手下共は死ぬその瞬間まで、俺の幻術にかかったままだろう。
これが俺のせめてもの温情だ。ドルゲには能力と記憶どっちも使わせてもらうからな。
「悪いな。ドルゲ。でも、こいつらには生かしておく価値は無いんだ……」
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