デスゲームは異世界で

鳥もち

1章 5話 マリア・フォンティーユ

 私の名はマリア・フォンティーユ
 とある修道院の修道女で、
 今日も誰よりも早く、修道院に隣接した教会に赴いた。

 朝日がステンドグラスに当たり、日の光が薄っすら教会の内部を照らしている。
 私は、教会奥の十字架の前で跪き、両手を組んでいつもの祈りを捧げる。

「ああ、主よ、未熟な私めにどうかご慈悲を。
 あの方にもう一度会う機会をどうか・・」

 こんなはしたないお祈り、きっと母様やシスターが聞いたら許してくれない。
 だから、私は毎朝ここでひっそりと祈りを捧げます。
 どうしてもまた会いたい。
 会って、きちんとお礼を言わなければ。
 私の、命の恩人に・・。


 --------


 いつものお祈りをしていたら、目の前が真っ白になり、
 気が付いたら白い空間に飛ばされていた。
 そのままそこで説明を受け、そして――

 ここは・・
 雄大なる巨木、グランドマザーツリーを中央に据え、
 ツリーを中心に町が広がっている。レストオブマナという町。
 主にエルフが住まう町だそうだ。

 “大賢者様”が教えてくれた。
 私みたいな、口下手で上手く人と喋れないものにとっては、
 うってつけの“ユニークスキル”だと思う。

 周りを見渡すと、確かに、普通の人ではなく、
 耳は長く、輝く黄色の髪を靡かせ、みなスラッとしている。
 これが、エルフという種族なのだろうか。

 そんな道行く人々が、私を訝しげな目で見ながら通り過ぎていく。
「ひぅ・・・」
 思わず後ずさる。
 私というより、服装に目がいっているようだ。

 どうにも、この修道服の格好が目立つらしい。
 でも、私にはこの服以外を着る事はどうしても出来なかった。

 これからどうしよう。大賢者様は日に何度も呼べないし。
 でも、誰かと会話しようにも、会話なんて殆どシスターと
 母様としかしてなかったし。

 この世界にきて2日程経ったが、上手く生きていける気がしない。
 人と人が殺し合うデスゲームなんて、生き残れる訳がない。
 私は、人通りの少ない木陰に移動し、意を決する。
 そろそろ、いいかな・・・?

「大賢者様、でてきて・・」

 両手を宙にかざし、マリアは目を閉じながら願う。
 すると、ボンッと奇妙な音と共に、それは現れた。

 頭にはツノの様なものが生え、小さな王冠を被り、
 体から長い尻尾のようなものが生えている。真っ白い小竜が宙を浮いていた。
「んー?ふぁー。なんやー、また呼び出しかいなマリアちゃん。
 わしも色々と忙しいんやぞー?色々とー」

 寝起きだろうか、欠伸をした後、小さな手で目を擦りながらマリアに答える。

「ご、ごめんなさい大賢者様。その・・あの・・」

「あー分かった。分かった。マリアちゃんと会ってまだ間もないが、
 大体分かってきたわ。これからどないせーっちゅう感じやろ?」

「・・・はい」

「はぁー。はっきり言うて、知らんがな。貴重なユニークスキルを、
 こないな風に使う子で大丈夫かいな」

「ごめんなさい」
 大賢者様の言う通りであった。そもそもユニークスキル『大賢者』とは、
 全ての質問に答えてくれる、ゲームを有利に進められる代物である。
 だが、次の行動を指し示すと言った行動指針は、
 あくまで自身が決めなければいけない事である。

「しゃーないマリアちゃんやなー。うーん、
 そや、マリアちゃんの持つ特殊能力で、
 信用できる人を見つけるっちゅうのはどや?」

 マリアは一瞬目を見張る。どうしてそれを。と。
 しかし、大賢者様なら納得か。と内心で思う。

「・・でも、これは・・あまり、使いたくないんですが・・」

(ふう、久しぶりに使うなぁ・・)
 意を決し、マリアは一旦目を閉じ、そして開いたかと思うと、
 マリアの翠色の瞳は、左目だけ金色に輝いていた。

「おーそれやそれ。恥ずかしいからあんまわしをみんといてやー」
 大賢者は小さな手で顔を覆うと、恥ずかしそうにふるふると体を動かしている。

「ふふっ」
 左手を口元に当て、マリアは屈託のない笑顔をする。

 そして、マリアは目を閉じ、また開くと、
 金色に輝いていた瞳は普段の翠色になっていた。
 あぁ、思った通り、大賢者様は大賢者様だった。

 この特殊能力は最近使っていなかったが、問題なく発動した。
 若干よく分からない項目も見えた気がしたが。

 少し笑って気が晴れたマリアは、細く白い両手をグッと握る。
「こうしてても・・・どうしようもない・・ですよね。
 私・・少し・・頑張ってみます」

「おーおー、そのいきや!わしはいつでもマリアちゃんの味方やでー。
 ほな、まだ残り時間は残っとるし、折角やから後ろで見といたるから、
 頑張ってなー」
 そう言って手を振りながら、大賢者様の体は見えなくなっていく。

 しかし心細くなる事は無かった。
 そこに居るのが何となく分かったマリアは、
 またふふっと笑いながら歩き出す。

 エルフの町 レストオブマナは、雄大なマザーツリーは勿論、
 それを囲むような街並みもとても素晴らしい。
 マザーツリー程ではないが、立派な木々の上に
 ログハウスのようなものが建てられており、
 それも木々の邪魔をしている訳ではなく、
 木々の生え方に応じて大小の家々が鎮座している。

 夜になると、ログハウスに付けられた灯や、
 人より少し背丈が高い木々に付けられた灯が灯り、
 優しい光源となってこの町を照らして行く。

 この世界の人々にはまだ馴染めていないが、
 自然と調和したこの町に、マリアはとても好感を抱いていた。

 当てもなく、とりあえず歩いていたマリアの視界に、
 徐々に巨大な木の根元が見え始めた。
 いつのまにか、町の中心であるマザーツリーまで来ていたようだ。

 そのまま根元までいくと、マリアは徐に右手をマザーツリーの根元に触れる。
(やっぱり何度見てもすごい、何年かかったらこれほどになるんだろう)
 いつ来ても、マザーツリーの存在感に圧倒されてしまう。


「ん、マリアちゃん、そこから少し離れた方がええ。・・・何か・・くる」
「え?」
 透明になっていた大賢者様の突然の物言いに、マリアは後ずさる。

 すると、マザーツリーの根元に小さな光が現れ
 次第に増えていく。6つ、8つ、それは数えられない程に。

 そして、小さな光達が一箇所に集まったかと思うと、強く発光した。
「きゃ!?」
 突然の事に、マリアは目を閉じ体を強張らせる。

 少しして、薄っすらと目を開けた。どうやら、光の発行は止んだようだった。
 そのままマザーツリーの根元をよく見ると、
 所々血の跡が残る、ズタボロの学生服をきたエルフが、
 根元に寄りかかりながら目を閉じ静かに座っていた。

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