デスゲームは異世界で

鳥もち

1章 1話 プロローグ

 

「ははっ。まさかあの提案が通るとはね。ふふっあははは。
 あれは余程の事だってことかな?」

 この子がこんなに楽しそうなのは、あの時以来だ。
 いや、それ以上かもしれない。

「じゃあじゃあ、あれはこうして、こんなのも付けて、
 ・・あはっ。これもいいね」

 どんどん自分の世界へ入っていく。
 何故最上神様はあんな提案を受け入れたんだろう。


 そして――

「ねぇ、君はどう思う?」

「・・・別に」

 私の想いはただ一つ。
 絶対に、あなたを死なせはしないから。


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 俺の名前は佐伯 悠斗(さえき ゆうと)。今年から高校1年生だ。
 期待と不安を胸に、妹が用意した冷凍食品のハンバーグは、
 少し冷めていたがありがたく掻きこんだ。
 台所で軽く食器を洗い、洗い物入れへ。

「さて、行くか!」

 真新しい制服に身を包み、指定カバンの中身を再チェックだ。
 財布、スマホ、定期、ハンカチ、そしてラノベを一冊。
 完璧(・・)だ。 

 え?ラノベはいらない?何言ってんだ。これがないと始まらないだろう。
(ほら、入学初日だし、友達、すぐできるかも分からないからね。・・ね)
 誰に説明してるんだか。

 パンっ。軽く頬を叩いて気合を入れ、

「いってきます」
 返事はないんだけどね。妹は起きた時には居なかったし。
 ――玄関を開けると、外の光が差し込んだ。

「んー眩しい。今日はいい天気だな。・・・眩しい・・まぶ・・え?」
 おかしい。一向に光が収まらず、景色が変わらない。
 それどころか、身体が動かない。

 どれ程時間が経っただろう。
 5分か、10分か、感覚がとてもあやふやだった。

 そして、更に強い光が辺りを埋め尽くす。

「っく!」
 両腕で塞いでも入ってくる、あまりの光源に目を瞑る。


 暫くして――
 俺は重い瞼をゆっくりと開く。
 ここは・・・?

 どこまでも続く真っ白な空間だった。
 身体も少しずつ動かせるようになってきたのはいいが、
 しかし、なんだこれは。

 白い空間を埋め尽くすような人、人、人。
 何人いるか分からない。俺の身長は170cmくらいだが、
 前も後ろも、人がごった返して奥が全く見えない。

 それに、あの人は、恐らく日本人じゃない。
 金髪にウェーブがかかったような髪型。大きな身体。アメリカ人だろうか?
 スラッとした黒人もいる。
 こっちは・・日本人ぽい見た目だが、
 ブツブツと韓国語のようなものを呟いている。


「・・だぁ」

「え?」

 足元を見ると、はいはいの姿勢で、小さな手をこちらに向け
 満面の笑みを向けている小さな子供が居た。
 って、これ乳児だ。
 どうなってんだ。

 こんな人混みではいはいは危険だ。俺はすぐさま屈み、
 赤ちゃんをゆっくり抱き抱える。
 泣きわめくか心配だったが、どうやら大丈夫なようだ。
 むしろ、きゃっきゃっと腕の中ではしゃいでいる。

「君のお母さんとお父さんはどこに・・」

 周りを見たが、それらしい人はいない。皆困惑の表情だ。
 何故俺より大人の人が沢山いるのに、こんな子供に気を向けられないのか。
 内心でため息を吐くと、突如頭上が輝き始めた。
 そして、全容が見えない程の巨大な円環が表れ、
 見慣れない文字が浮き出てきた。
 魔方陣というやつだろうか?

「だうっ」

「ん?」

 抱きかかえた赤ちゃんが、小さな手を円環の中央であろう方向に向けている。
 その先には――
 純白のワンピースを着た金色に輝く短髪に、
 遠くでよく見えないが、何か模様が描かれた目隠しをした子供が浮いていた。

「やぁやぁようこそ皆!ここは、異世界召喚への前準備の場所さ。
 おめでとう!君たちは選ばれたんだ!色々質問はあるだろうけど、
 君たちには、今から行く異世界である事をしてもらいたい」

「それは、この1000人の中から、最後の一人になってもらう事さ」

「デスゲーム、つまり殺し合いってやつね」


「は?」

 何を言っているんだろう。
 周りもざわつき始める。

「何言ってやがる!」
「That’s Death game? Don't be silly!」
「***!」

「ははっ、あー、拒否権とかはないから、安心してね。」
 かなり遠くにいて、尚且つ目隠しをしているのに、
 何故か嫌な笑みを浮かべているように感じる。

 それに、これだけの人が大騒ぎしているのに、奴の声ははっきりと聞こえる。
 まるで目の前にいるかのように。

「ぐすっ」
 周りの喧騒に、赤ちゃんが今にも泣き出しそうだ。
 あーヨシヨシ。怖くないよー。

「予想以上にいい反応に、僕も嬉しいよ。ふふっ。
 じゃ、簡単に説明するね」

 そう言うと、奴は指をパチンと鳴らした。

 すると、目の前に文字が浮かび上がってきた。


 ・異世界で死んだ場合、それは完全なる死です。元の世界に戻される。
 生き返る。転生するなどの救済はありません。

 ・期限はありません。

 ・最後の一人になった場合、元の世界に戻ることはもちろん、更に、何でも一つ願いを叶えます。

 ・初めに、名前、年齢、性別、職業、種族、スキルを一つ選べます。』


「おーおー、途端に静かになった。皆やる気に満ちてていいね。ふふ。
 それじゃ、頑張ってね」

 すると、目の前が光に包まれ、また真っ白な空間に飛ばされた。
 そこには、先程の人達どころか、抱き抱えていた赤ちゃんも居らず、
 俺1人だけしか居なかった。

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