幽霊に恋した透明人間

君名 言葉

第1話 出会い

第1話 出会い


真っ暗な空に砂ぼこりが舞ったように、月の光が差し込んでいた。

廃工場となった場所にあるさびた金属の部品は、淡く、白く輝いていた。


幽霊が不気味な場所に現れやすいというのは、あながち間違っていないと思う。

僕はこう思っている。

なぜなら、



僕は幽霊だからだ。



二年前、僕は通り魔に刺されて死んだ。塾の帰り道で、辺りは暗く、何か考え事をしながら歩いていたような気がする。

今ではあまり思い出せないが、ボーッと歩いていて、後ろから走ってくる通り魔に気付くことができなかった僕は、腹を刺されて即死だった。


人は死んだら天に昇ると思っていたのだが、どうやら、全員が全員ではないようだ。

知り合いのおじさんの幽霊によると、この世に未練を残したまま死んだ人間は、この世に残り続けるらしい。

ありきたりすぎて信じられなかったが、そのおじさんの幽霊の目が真剣だったので、とりあえず信じることにした。

未練なんてものは、あまりなかったような気がする。

強いて言えば、親への感謝の言葉くらいだろうか。

でも、友達も恋人もいない僕は、そんなに人生が楽しかったわけでもなく、かといって第三者に、

「今の人生楽しいですか?」

とでも言われたら、はい。と答えてしまうような人間だった。
優柔不断で長所のない自分があまり好きではなかった。

幽霊になって分かったのは、この世には結構な数の幽霊がいるってこと(数えられる程度だけど)それから、幽霊にもちゃんと足があるってこと。

ただ、物や人に触ることができない。逆に言えば、壁とか障害物を関係なしに移動できる。

その能力を悪用すれば色々なこと(具体的には言えない)ができるのだけれど、そんなことするような性格でもなかったし、元々そんな勇気はないので、僕はしない。


なんでこんなに陰気くさい廃工場なんかにいるかというと、見つかるのが嫌だからだ。人間に。

たまに、一万人に一人くらい、霊感の強い人間がいる。

そういう人は、偶然、僕たちみたいなものが、見えたりしてしてしまう。

昔、小学生のころには、クラスに一人くらいは、

「オレ、霊感あるぜ!」

と自分で言って、周囲を困らせる人がいたような気がするけれど、

今になってみると、こんなに少ないのだ。

そういった人に見られて驚かれるのは、僕も嫌なので、人の多いところには行かない。

中には、驚かすのを生きがいにしてるやつもいるみたいだけど。



さて、そろそろ散歩しよう。



散歩というのは、僕が死んで幽霊になってからずっと続けていることだ。

死んだ日に歩いていたあの路地を毎日歩いて、通り魔がいないか確認するのだ。

もう誰も襲われて欲しくないし、通り魔に復讐するのが、僕がこの世に残した未練のような気がするから。



廃工場に背を向けて、コンビニの方向に歩き出す。

幽霊は、スーって平行移動すると思ってる人が多いかもしれないが、それは違う。

足があるから、普通に歩くのだ。



この二年間、通り魔を見たことは一度もない。

もし見つけたとしても、触れないのにどうやって復讐するんだろう。僕が聞きたいくらいだ。



3つ目の曲がり角を曲がると、細い路地に出る。

僕が殺された場所だ。

一年ほど前はよく置かれていた、供え物や花は、今ではもうない。

ここで一つの命が絶たれたことなど、皆すぐ忘れてしまうのだ。



ああ、まただ。誰もいない。通り魔事件が起こってからというもの、夜にこの路地を通るのは酔っ払いくらいしかいなくなった。

今日はもう帰ろう。

あきらめて背を向けた、その時だった。



コツン・・・ コツン・・・



リズムよく音を刻む靴の音が、心臓に響く。



まさか、通り魔?

いや、それは違った。

そこにいたのは、同い年くらいの、髪を肩くらいでそろえた高校生だった。

そんな人が、制服を着て、こっちに向かって歩いてきたのだった。



こんな時間に何してるんだろう。しかも通り魔のあった場所で女子高生が一人なんて。

すごく心配になる。もしここで通り魔が来ても、僕は何にもできない。



彼女がこちらに近づいてくるにつれ、徐々に緊張が増した。その緊張が、自分の人見知りから来るのか、通り魔の心配なのかは、分からなかった。



無事に通りに出れればいいけど・・・



下を向いて歩いていた彼女だったが、、なぜか、僕の近くに来ると、立ち止まった。



え?何?もしかして霊感ある人なのかも・・・だとしたらなんで見られてるんだろう・・・

額に冷や汗が流れる。そして、



「・・・誰?」



と言い放った。

普通の人間には見えない幽霊の僕の、眼を見て。

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