T.T.S.
FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 4-5
5
Sample 13。
目の前の鏡写しの文字を、少女は正確に読み取った。生まれて初めて見たモノにも拘わらず、彼女はそれが自身に与えられた名前だと、人工子宮の中で悟った。
9歳ほどの肉体だった。目を開いたその瞬間から、多数の言語と重火器、乗り物を繰る術が分かっていた。多数の意味記憶と手続き記憶を持って生み出された彼女には、それは何の不思議もない、当然のことだった。
ゆえに、Sample 13は大きく感情を揺さぶられることもなく、これまで生きて来た。
だから、こんなことは想定もしていなかった。
「お前は……なに?」
自分の見ているものが、何なのか分からない。
両手を目一杯に広げて、い源、ことSample 9を護ろうとしている。その姿は、人工子宮のフラスコに鏡面反射した自分そのものだった。
「……」
だが、自分に似たナニかは、下唇をぐっと噛み、質問に答えようとしない。
胸の中が凍てつくような感覚に襲われて、Sample 13は自分でも思ってもみなかった行動に出た。
「お前なんだ!」
生まれて初めて懐いた「コワイ」を振り払うように、Sample 13は自分に似たナニかに拳を振るう。
だが、それは空を切る。
同時に、幻影は消え失せ。
代わりにそこには、体勢を整え直した源が拳を固めていた。
「知りてぇならシオンのクソ野郎にでも聞いて来い」
鳩尾に食い込む硬い拳が、Sample 13を吹き飛ばす。
真っ直ぐに吹き飛ぶ少女は、追って浴びせかけられるギルバートの一撃を受けてなお、考えることをやめられなかった。
『アレはなに?』
頭の中で凝るその問いは、もはやメビウスの輪のように、いかなる彼女の思考も行動も絡め取り、雁字搦めにしている。
一方で、紫姫音という目晦ましによってSample 13を一気に戦闘不能に陥らせるというギルバートの狙いが、図らずも果たされた。
「畳みかけるぞ!」
「紫姫音!やれ!」
追撃に走るギルバートの号令に合わせて、源は凶運の掴み手の衝撃を爆発させる。
薔薇乃根突入までに吸ったすべての衝撃を放つ詰めは、身体からヒッグス粒子を排除した神を掴む手での移動とは違うGを感じた。
「ぅおおお……」
数少ないチャンスだ。これを逃せば、あるいは本当に死ぬ可能性もある。
だが、そんな千載一遇を前にして、源もまた、ある思いに頭を埋めつくされていた。
『応えてもらうぞ、お前の足跡を』
それは、ある意味贖罪の意識から来る問い掛け。
妹という存在を知ってから、常に頭の隅にあった思いだった。
Sample 13。
目の前の鏡写しの文字を、少女は正確に読み取った。生まれて初めて見たモノにも拘わらず、彼女はそれが自身に与えられた名前だと、人工子宮の中で悟った。
9歳ほどの肉体だった。目を開いたその瞬間から、多数の言語と重火器、乗り物を繰る術が分かっていた。多数の意味記憶と手続き記憶を持って生み出された彼女には、それは何の不思議もない、当然のことだった。
ゆえに、Sample 13は大きく感情を揺さぶられることもなく、これまで生きて来た。
だから、こんなことは想定もしていなかった。
「お前は……なに?」
自分の見ているものが、何なのか分からない。
両手を目一杯に広げて、い源、ことSample 9を護ろうとしている。その姿は、人工子宮のフラスコに鏡面反射した自分そのものだった。
「……」
だが、自分に似たナニかは、下唇をぐっと噛み、質問に答えようとしない。
胸の中が凍てつくような感覚に襲われて、Sample 13は自分でも思ってもみなかった行動に出た。
「お前なんだ!」
生まれて初めて懐いた「コワイ」を振り払うように、Sample 13は自分に似たナニかに拳を振るう。
だが、それは空を切る。
同時に、幻影は消え失せ。
代わりにそこには、体勢を整え直した源が拳を固めていた。
「知りてぇならシオンのクソ野郎にでも聞いて来い」
鳩尾に食い込む硬い拳が、Sample 13を吹き飛ばす。
真っ直ぐに吹き飛ぶ少女は、追って浴びせかけられるギルバートの一撃を受けてなお、考えることをやめられなかった。
『アレはなに?』
頭の中で凝るその問いは、もはやメビウスの輪のように、いかなる彼女の思考も行動も絡め取り、雁字搦めにしている。
一方で、紫姫音という目晦ましによってSample 13を一気に戦闘不能に陥らせるというギルバートの狙いが、図らずも果たされた。
「畳みかけるぞ!」
「紫姫音!やれ!」
追撃に走るギルバートの号令に合わせて、源は凶運の掴み手の衝撃を爆発させる。
薔薇乃根突入までに吸ったすべての衝撃を放つ詰めは、身体からヒッグス粒子を排除した神を掴む手での移動とは違うGを感じた。
「ぅおおお……」
数少ないチャンスだ。これを逃せば、あるいは本当に死ぬ可能性もある。
だが、そんな千載一遇を前にして、源もまた、ある思いに頭を埋めつくされていた。
『応えてもらうぞ、お前の足跡を』
それは、ある意味贖罪の意識から来る問い掛け。
妹という存在を知ってから、常に頭の隅にあった思いだった。
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