T.T.S.
FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 4-4
4
「……妹?」
源の言葉に、ギルバートの動きが止まった。
すかさずその虚を突いた少女の攻撃を、今度は源が弾き飛ばす。
明確な動揺を見せる2人を前に、しかし少女は躊躇いも間断もなく攻撃を浴びせて来ていた。
「テンメッ!ちったぁ空気読めや!」
「読むわけないでしょう?何を言っているの?」
「……源、残念だが彼女が正しい。……で?彼女が妹ってのはどういうことだ?」
何とか動揺を抑え込んだギルバートが戦線に復帰する一方、源の言葉に衝撃を受けた別のモノが揺らいでいた。
「源……妹って」
「……」
自らの腕を覆うWITからの問い掛けに、源は歯を食い縛る。横目にチラリとその渋面を盗み見たギルバートは、僅かな悔しさと遠慮に開きかけた口を閉じた。
「……前に言ったろ。俺を許さなくていぃ。後で好きなだけ訊け」
「……わかった」
短いながらも多分に意味を含んだ会話が、1人の男とAI少女の間で交わされる。
それを聞いていたギルバートの中に悪魔的な発想が湧き上がった。
「源、提案なんだが……」
「ダメだ」
にべもない即答に言葉が詰まるが、現状の彼我の戦力差と周辺に散らばった瓦礫(パレット)の山を鑑みると、ここで案を取り下げる余裕はない。
蹴りでフォークリフトロボットを砕きながら、ギルバートは一喝した。
「……っ、んなこと言ってる場合か!どぉすんだ!このままじゃアイツに殺られるだけだぞ!」
「……っ」
「源!今すぐ決めろ!逃げんのか 闘んのか 俺ぁまだT.T.S.がどぉ動くのか知らねぇんだぞ!どぉすんだ!」
源は歯を食い縛る。強く。強く。強く。
そして呻く。
「畜生……シオン、テメェぜってぇぶん殴ってやっかんな……」
言うが早く、源は拳を四度叩きつけ、畳返しのようにパレットを立て、四方を囲った。
源も含め、神罰を免れる目を持つ者たちには、目に頼り過ぎる悪癖がある。少女の視界を奪った源は、即座にギルバートにある面を指示した。
「ぶっ飛ばせ!」
「了解!」
源自身の手で突破口を自作し、ギルバートの脚で強硬突破の狼煙ならぬパレットを上げた2人は、即座に散開。僅かに残るパレットの山に潜った源は、右手に凶運の掴み手を展開させて、ダルマ落としの要領でパレットを飛ばしていく。
一方、ギルバートはフォークリフトロボットを捕まえてはボレーシュートを決めていた。
様々な角度から放たれたパレットによる面制圧と、フォークリフトロボットによる点制圧のコンビネーションによって、物流倉庫のようだった地下空間は、足の踏み場もない闇の中に沈んだ。
「で?こっからどぉすんだ 」
「奥だ!どっか分かんねぇけど奥に向かえ!」
「奥はこっちよ」
背後からの声と蹴りに、凶運の掴み手の防御がギリギリ何とか間に合った。蹴りをもろに受けた腕が首に食い込み、ミシリという嫌な音こそ聞こえたが、まだ頭は身体の上にある。
問題は、音速に近い速度で吹き飛び続ける身体がどこに叩きつけられるかに変わっていた。ここまでの超高速度では、どれだけ質量の小さなものであれ、接触すれば無事では済まない。
「源!」
慌てて源を追うギルバートだったが、それこそ正に少女の術中だ。
「本当に出来損いね、貴方たち。話にならない」
吐き捨てるように放たれた言葉と共に少女に蹴飛ばされて、吹き飛んだ源を追っていたギルバートの身体は、それ以上のスピードで同方向に吹き飛ぶ。
「クッソ!」
追い抜く形で飛んで来るギルバートの足首をギリギリで掴み、何とか一塊になるべく手繰り寄せる。いかに生物兵器たる神資質持ちとて、三半規管までも一朝一夕に超人的にはなりえない。予期せぬ急加速によるGの負荷で気を失いかけていたギルバートは、その一掴みで意識を取り戻した。
「ギル!投げるぞ!」
「了解!」
すぐ後ろに迫る少女にギルバートを投げつけ、源は凶運の掴み手の腕を伸ばして壁に手をかけ、減速にかかる。振り返れば、そこでは躰道使い同士の試合のような、ギルバートと少女の決闘シーンが展開されていた。
ハズだった。
「……ウソだろ」
そこに見えのは、ボロのように撃ち捨てられたギルバートと、再加速した少女の姿。そのシルエットさえ、もう目の前に迫っていた。
神を掴む手と神を追う足の上位互換たる少女の存在は、名付けるなら神素体。
半端者の源やギルバートとは違う圧倒的な力の差が、どんどん源に迫って来ていた。
「クッソ!」
だが、源とて神を掴む手の持ち主だ。たとえ彼我の戦力差が絶望的であろうとも、ヒトとしてその手を振るい、神に対峙することは出来る。
音速に僅かに劣る速度で源と同じ手を広げながら迫りくる少女の首を狙って、源は全力で腕を伸ばした。
マッハの速度で首に食い込んだ腕を回転させ、もう片手も相手の脇の下に差し込んで回す。相撲の喉輪の要領で相手をいなしつつ、太極拳の真似事で相手を放る。
だが、少女の表情から余裕が消えることはなかった。
「よく頑張ってるけど、ムダよ」
少女は空気を蹴った。自身の喉に突き刺さった手よりも更に速く、更に鋭く、大気を蹴って天井との間の空気を圧縮した。
源の頭上で逆立ちするように頭からつんのめっていた少女の身体が、真下に突き刺さるベクトルを得る。
その強い推進力の前に、背後に重心を傾けていた源の身体は一溜りもなかった。
グッ……と息を詰まらせながら鉄板にめり込む源に馬乗りになって、少女はトドメの拳を握る。
「さようなら、Sample 9。大したことなかったわ」
『絵美、悪ぃ』
少女の拳が振り下ろされ、それを確認するより僅かに早く、源が死を覚悟した。
その時。
「ヤメテ!」
源の傍らに、もう1人の少女が顕れた。
その瞬間、場は水を打ったような静寂に支配された。
源のWITから飛び出した紫姫音は、少女を真っすぐ見つめながら、今一度繰り返す。
「ヤメテ、源をコロさないで」
神資質を持つ3人の超人を、AI少女が1人で鎮めた。神話の奇跡のような場面がそこにはあった。
「……妹?」
源の言葉に、ギルバートの動きが止まった。
すかさずその虚を突いた少女の攻撃を、今度は源が弾き飛ばす。
明確な動揺を見せる2人を前に、しかし少女は躊躇いも間断もなく攻撃を浴びせて来ていた。
「テンメッ!ちったぁ空気読めや!」
「読むわけないでしょう?何を言っているの?」
「……源、残念だが彼女が正しい。……で?彼女が妹ってのはどういうことだ?」
何とか動揺を抑え込んだギルバートが戦線に復帰する一方、源の言葉に衝撃を受けた別のモノが揺らいでいた。
「源……妹って」
「……」
自らの腕を覆うWITからの問い掛けに、源は歯を食い縛る。横目にチラリとその渋面を盗み見たギルバートは、僅かな悔しさと遠慮に開きかけた口を閉じた。
「……前に言ったろ。俺を許さなくていぃ。後で好きなだけ訊け」
「……わかった」
短いながらも多分に意味を含んだ会話が、1人の男とAI少女の間で交わされる。
それを聞いていたギルバートの中に悪魔的な発想が湧き上がった。
「源、提案なんだが……」
「ダメだ」
にべもない即答に言葉が詰まるが、現状の彼我の戦力差と周辺に散らばった瓦礫(パレット)の山を鑑みると、ここで案を取り下げる余裕はない。
蹴りでフォークリフトロボットを砕きながら、ギルバートは一喝した。
「……っ、んなこと言ってる場合か!どぉすんだ!このままじゃアイツに殺られるだけだぞ!」
「……っ」
「源!今すぐ決めろ!逃げんのか 闘んのか 俺ぁまだT.T.S.がどぉ動くのか知らねぇんだぞ!どぉすんだ!」
源は歯を食い縛る。強く。強く。強く。
そして呻く。
「畜生……シオン、テメェぜってぇぶん殴ってやっかんな……」
言うが早く、源は拳を四度叩きつけ、畳返しのようにパレットを立て、四方を囲った。
源も含め、神罰を免れる目を持つ者たちには、目に頼り過ぎる悪癖がある。少女の視界を奪った源は、即座にギルバートにある面を指示した。
「ぶっ飛ばせ!」
「了解!」
源自身の手で突破口を自作し、ギルバートの脚で強硬突破の狼煙ならぬパレットを上げた2人は、即座に散開。僅かに残るパレットの山に潜った源は、右手に凶運の掴み手を展開させて、ダルマ落としの要領でパレットを飛ばしていく。
一方、ギルバートはフォークリフトロボットを捕まえてはボレーシュートを決めていた。
様々な角度から放たれたパレットによる面制圧と、フォークリフトロボットによる点制圧のコンビネーションによって、物流倉庫のようだった地下空間は、足の踏み場もない闇の中に沈んだ。
「で?こっからどぉすんだ 」
「奥だ!どっか分かんねぇけど奥に向かえ!」
「奥はこっちよ」
背後からの声と蹴りに、凶運の掴み手の防御がギリギリ何とか間に合った。蹴りをもろに受けた腕が首に食い込み、ミシリという嫌な音こそ聞こえたが、まだ頭は身体の上にある。
問題は、音速に近い速度で吹き飛び続ける身体がどこに叩きつけられるかに変わっていた。ここまでの超高速度では、どれだけ質量の小さなものであれ、接触すれば無事では済まない。
「源!」
慌てて源を追うギルバートだったが、それこそ正に少女の術中だ。
「本当に出来損いね、貴方たち。話にならない」
吐き捨てるように放たれた言葉と共に少女に蹴飛ばされて、吹き飛んだ源を追っていたギルバートの身体は、それ以上のスピードで同方向に吹き飛ぶ。
「クッソ!」
追い抜く形で飛んで来るギルバートの足首をギリギリで掴み、何とか一塊になるべく手繰り寄せる。いかに生物兵器たる神資質持ちとて、三半規管までも一朝一夕に超人的にはなりえない。予期せぬ急加速によるGの負荷で気を失いかけていたギルバートは、その一掴みで意識を取り戻した。
「ギル!投げるぞ!」
「了解!」
すぐ後ろに迫る少女にギルバートを投げつけ、源は凶運の掴み手の腕を伸ばして壁に手をかけ、減速にかかる。振り返れば、そこでは躰道使い同士の試合のような、ギルバートと少女の決闘シーンが展開されていた。
ハズだった。
「……ウソだろ」
そこに見えのは、ボロのように撃ち捨てられたギルバートと、再加速した少女の姿。そのシルエットさえ、もう目の前に迫っていた。
神を掴む手と神を追う足の上位互換たる少女の存在は、名付けるなら神素体。
半端者の源やギルバートとは違う圧倒的な力の差が、どんどん源に迫って来ていた。
「クッソ!」
だが、源とて神を掴む手の持ち主だ。たとえ彼我の戦力差が絶望的であろうとも、ヒトとしてその手を振るい、神に対峙することは出来る。
音速に僅かに劣る速度で源と同じ手を広げながら迫りくる少女の首を狙って、源は全力で腕を伸ばした。
マッハの速度で首に食い込んだ腕を回転させ、もう片手も相手の脇の下に差し込んで回す。相撲の喉輪の要領で相手をいなしつつ、太極拳の真似事で相手を放る。
だが、少女の表情から余裕が消えることはなかった。
「よく頑張ってるけど、ムダよ」
少女は空気を蹴った。自身の喉に突き刺さった手よりも更に速く、更に鋭く、大気を蹴って天井との間の空気を圧縮した。
源の頭上で逆立ちするように頭からつんのめっていた少女の身体が、真下に突き刺さるベクトルを得る。
その強い推進力の前に、背後に重心を傾けていた源の身体は一溜りもなかった。
グッ……と息を詰まらせながら鉄板にめり込む源に馬乗りになって、少女はトドメの拳を握る。
「さようなら、Sample 9。大したことなかったわ」
『絵美、悪ぃ』
少女の拳が振り下ろされ、それを確認するより僅かに早く、源が死を覚悟した。
その時。
「ヤメテ!」
源の傍らに、もう1人の少女が顕れた。
その瞬間、場は水を打ったような静寂に支配された。
源のWITから飛び出した紫姫音は、少女を真っすぐ見つめながら、今一度繰り返す。
「ヤメテ、源をコロさないで」
神資質を持つ3人の超人を、AI少女が1人で鎮めた。神話の奇跡のような場面がそこにはあった。
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