T.T.S.
FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 2-7
7
ブリ―・ウィリアムズは、10歳の誕生日を迎えた。
そして今朝方、彼女は羽化した。
ママとパパがプレゼントを用意してくれている予告してくれたが、ブリ―は自身に高潔な意思と鋼の意志をプレゼントした。
初めて自力で起き、ずっと一緒に寝ていた犬のヌイグルミのトムとお別れした。
かくして、ブリ―は一人前の立派なレディになったのだ。
だから、今日から彼女は、今まで以上に背筋を伸ばし、胸を張って街を歩く。一人前のレディは、世の中と対等に渡り合っていくものだから。
「……何?あの人たち……」
街に出て、彼女はすぐにソレらを見つけた。
路上でタバコを燻らせるロングヘアーの褐色肌の男。そしてもう1人。変なマスクをつけた謎の男。
何やら話しているが、路上喫煙は違法行為だし、大仰なマスク姿は怪しさと胡散臭さの塊だ。
社会の仲間入りをした身として、1つ注意しなくてはいけない。ブリ―が10年間培った正義感が、彼女の身体を突き動かした。
「ダメですよ、ここは禁煙です」
「あ?」
「ん?」
見上げるほどの高さから少女を見返す2人の男は、互いの顔を見合わせる。
やがて、ペストマスクが首を横に振って、ポニーテールの男は煙草を握り潰した。火傷を恐れぬ男の行動に少々驚いたが、レディの嗜みとして顔には出さない。
「悪ぃな」
「レディ。こうして彼も火を消したし、これで許していただけないだろうか?」
確かに、ポニーテールの男は即座に対応してくれたので、問題はない。
問題はないが、丁寧な言葉を投げ掛けてくれるその声の主は、マスクの奥に素顔を隠したままだ。
「あの、そのマスク何ですか?ハロウィンでもないのに、どうしてそんなもの着けてるんですか?」
「あ、ああ……そうだね」
「……おぃガキ」
「な、なんですか」
「お前怪我したことあるか?」
「え?」
「転んで擦り剥けた所に絆創膏したことあるか?」
「ある、けど……あ」
男の言葉に、ブリ―はハッとする。
そして自分を恥じた。
レディとして、なんたる見落としだろう。
「コイツ顔にキズがあんだ。それを隠すために、こんなもん着けてんだよ」
「し、失礼しました!」
ブリ―は心の中で強く猛省する。
ハロウィンでなければマスクを着けてはならないわけではない、まずその理由を考えるべきだった。
未知の相手に知った風な口を利くなんて、それこそレディの行いではない。ポニーテールの男の言葉通り、子供の所業だ。
それでもなお、ペストマスクの男は、ブリ―に目線を合わせてくれた。
「いや、いいんだ。気にしなくていい。僕の姿を見れば誰だって不審に思う。君は間違ってない」
「だな。むしろ不審に思ってんのに声を掛けて来るなんざ、大した度胸だ」
ポニーテールの男が励ますように肩を叩いてくれる。
どうやら彼らは、そこまで悪い人ではないようだ。
自身の未熟さと大人の懐の深さを思い知らされた。
しかし、それならばなおの事、ブリ―は彼らに警告しなければならない。
「あの、さっきからBadger St.を見てますけど、あそこにいるサイボーグたちには絶対に近づいちゃダメですよ!この間友達のゾーイが言ってたんですけど、何か凄い高い所から侵入者を見張ってるらしいんです」
「何?」
「それ、本当かい?」
ブリ―の言葉に、男たちの雰囲気が変わった。
俄かに殺気立った剣幕に、少女はたじろぐ。
だが、彼らはそんなことには目もくれず、天を仰いでいた。
「……見えるか?」
「相手は成層圏だよ。無理だって分かってて訊くなんて、相変わらず君は意地悪だね」
何やらブリ―には理解出来ない会話をしているが、これは補足のチャンスだ。
「ゾーイ言ってました。『オオグマ座を見ようとしたら、西側に変な衛星が浮かんでた』って」
「それは何日くらい前の話だ?」
「えっと……1週間くらい前、だったと思う、ます」
「……源」
「あぁ、まずはそっからだな」
まだまだ明るいアセンズの空の向こう。そのどこかにいる衛星を睨みながら、男たちは笑っていた。
ブリ―もそれに続いてみる。
だが、いくらか目を凝らしても、乾いた空に星の煌きはなかった。
「ありがとうレディ。君のお蔭で色々見えて来たよ」
「あんがとな、きっといぃ女になるぜお前」
「いえそんな……でも気をつけて下さ……いね……」
2人の言葉に応えようと顔を上げたブリ―は、目を疑う。
ペストマスクとポニーテール。
インパクトの強い特徴的を持つ2人の姿は、もうどこにもなかった。
ブリ―・ウィリアムズは、10歳の誕生日を迎えた。
そして今朝方、彼女は羽化した。
ママとパパがプレゼントを用意してくれている予告してくれたが、ブリ―は自身に高潔な意思と鋼の意志をプレゼントした。
初めて自力で起き、ずっと一緒に寝ていた犬のヌイグルミのトムとお別れした。
かくして、ブリ―は一人前の立派なレディになったのだ。
だから、今日から彼女は、今まで以上に背筋を伸ばし、胸を張って街を歩く。一人前のレディは、世の中と対等に渡り合っていくものだから。
「……何?あの人たち……」
街に出て、彼女はすぐにソレらを見つけた。
路上でタバコを燻らせるロングヘアーの褐色肌の男。そしてもう1人。変なマスクをつけた謎の男。
何やら話しているが、路上喫煙は違法行為だし、大仰なマスク姿は怪しさと胡散臭さの塊だ。
社会の仲間入りをした身として、1つ注意しなくてはいけない。ブリ―が10年間培った正義感が、彼女の身体を突き動かした。
「ダメですよ、ここは禁煙です」
「あ?」
「ん?」
見上げるほどの高さから少女を見返す2人の男は、互いの顔を見合わせる。
やがて、ペストマスクが首を横に振って、ポニーテールの男は煙草を握り潰した。火傷を恐れぬ男の行動に少々驚いたが、レディの嗜みとして顔には出さない。
「悪ぃな」
「レディ。こうして彼も火を消したし、これで許していただけないだろうか?」
確かに、ポニーテールの男は即座に対応してくれたので、問題はない。
問題はないが、丁寧な言葉を投げ掛けてくれるその声の主は、マスクの奥に素顔を隠したままだ。
「あの、そのマスク何ですか?ハロウィンでもないのに、どうしてそんなもの着けてるんですか?」
「あ、ああ……そうだね」
「……おぃガキ」
「な、なんですか」
「お前怪我したことあるか?」
「え?」
「転んで擦り剥けた所に絆創膏したことあるか?」
「ある、けど……あ」
男の言葉に、ブリ―はハッとする。
そして自分を恥じた。
レディとして、なんたる見落としだろう。
「コイツ顔にキズがあんだ。それを隠すために、こんなもん着けてんだよ」
「し、失礼しました!」
ブリ―は心の中で強く猛省する。
ハロウィンでなければマスクを着けてはならないわけではない、まずその理由を考えるべきだった。
未知の相手に知った風な口を利くなんて、それこそレディの行いではない。ポニーテールの男の言葉通り、子供の所業だ。
それでもなお、ペストマスクの男は、ブリ―に目線を合わせてくれた。
「いや、いいんだ。気にしなくていい。僕の姿を見れば誰だって不審に思う。君は間違ってない」
「だな。むしろ不審に思ってんのに声を掛けて来るなんざ、大した度胸だ」
ポニーテールの男が励ますように肩を叩いてくれる。
どうやら彼らは、そこまで悪い人ではないようだ。
自身の未熟さと大人の懐の深さを思い知らされた。
しかし、それならばなおの事、ブリ―は彼らに警告しなければならない。
「あの、さっきからBadger St.を見てますけど、あそこにいるサイボーグたちには絶対に近づいちゃダメですよ!この間友達のゾーイが言ってたんですけど、何か凄い高い所から侵入者を見張ってるらしいんです」
「何?」
「それ、本当かい?」
ブリ―の言葉に、男たちの雰囲気が変わった。
俄かに殺気立った剣幕に、少女はたじろぐ。
だが、彼らはそんなことには目もくれず、天を仰いでいた。
「……見えるか?」
「相手は成層圏だよ。無理だって分かってて訊くなんて、相変わらず君は意地悪だね」
何やらブリ―には理解出来ない会話をしているが、これは補足のチャンスだ。
「ゾーイ言ってました。『オオグマ座を見ようとしたら、西側に変な衛星が浮かんでた』って」
「それは何日くらい前の話だ?」
「えっと……1週間くらい前、だったと思う、ます」
「……源」
「あぁ、まずはそっからだな」
まだまだ明るいアセンズの空の向こう。そのどこかにいる衛星を睨みながら、男たちは笑っていた。
ブリ―もそれに続いてみる。
だが、いくらか目を凝らしても、乾いた空に星の煌きはなかった。
「ありがとうレディ。君のお蔭で色々見えて来たよ」
「あんがとな、きっといぃ女になるぜお前」
「いえそんな……でも気をつけて下さ……いね……」
2人の言葉に応えようと顔を上げたブリ―は、目を疑う。
ペストマスクとポニーテール。
インパクトの強い特徴的を持つ2人の姿は、もうどこにもなかった。
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