T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 2-5



 事の発端は、ダラスから南東に80kmほど離れたアセンズの住人の通報だった。

「郊外で一昨年からずっと工事が続いている。だが、昼夜問わず作業を続けている割に、完成物の輪郭すら見えてこない。さすがにおかしいと、みんな不信がっている。しかも最近気づいたのだが、どうやら昼も夜も同じ人間が作業に当たっているようだ。毎日毎晩不眠不休で作業をすることなど、人間には不可能だ。あのアンドロイドたちは一体何をしているのか」

 地元警察は工事責任者から事情聴取するが、分かったことは施工主が雲隠れしていることだけ。
 しかし支払いだけは変わらず続いていることから、彼らは次に金の流れを洗う。
 だが、このキャッシュフローは思いの外複雑だった。
 複数のネットバンキングと私書箱を経由した金は、やがてある会社の社債に行きつく。
 その会社は、薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスのカヴァーカンパニーと噂される企業だった。
 僅かな時間でそこまで突き止めた地元警察だったが、同時に、事態は一気に彼らの手に余るものに展開していく。
 キャッシュフローが分かった途端、工事現場に詰めていたアンドロイドたちは本性を現した。
 にこやかな作業員たちは、そのツナギの下に戦闘用の凶悪な武器を隠していた。
 レンジフリーの狙撃スコープの目。マシンガンの前腕にランチャーを隠した上腕、膝から下はキャタピラに姿を変え、空中には無数の小形無人爆撃機を展開させて近づく者すべてに威嚇発砲を始めた。
 一方的に火線を敷いたアンドロイドの軍団を前に、彼らには組織力も武力も足りない。
 こうして、P.T.T.S.にお鉢が回って来た。


「以上が事のあらましだ」
「……この時間、必要かい?」

「同感だが規定だからしゃぁねぇんだよ。黙って座ってりゃ終わんだから座ってろ」

 放り投げるだけで組み上がるカーボン支柱の基地ベーステントの中、タクティクスボードに3Dホログラムで資料が広げられていた。
 P.T.T.S.とT.T.S.。双方の組織が万一司法で追及された場合の追及材料削減のために行われる事態推移説明通過儀式も、T.T.S.の面々には不評だ。
 だが、公的権力でもずば抜けて目立つ存在のT.T.S.は、常に多くの敵に狙われている。それを理解しているが故に我慢するしかないのが、もどかしいばかりだ。
 臍をかむ思いで源は話を進める。

「で?現状連中はどんな感じで展開してんだ?」

 ホセは黙って3Dと赤外線、そして亜実体空間のスキャンを合成した空間模型のようなCGモデルをタクティクスボードに表示した。
 アンドロイドとドローンで埋め尽くされた敵地に、改めてホセの顔は深刻な表情になる。
 しかし、ギルバートと源は違った。

「なるほど、これは確かに大した量だね」
「そぉだな、ドローンの数だけでいや軍隊レベルだ」

 何でもない顔で言ってのけた彼らは、継いだ言葉で更なる驚きをホセに与えた。

「これなら特に小細工はいらないね」
「だな。俺らが露払いしてやっから後に続いて堂々と正面切って来い」

「……は?」

 話はおしまいとばかりに煙草に火を点けた源は、目を白黒させるホセに外を指示する。

「腹減ったから飯行って、その足で俺とギルで先行ってるわ。突入場所の座標と時間だけ後で共有しとけ」
「おい、ちょっと待」

「大丈夫だ。僕も源も約束は守るよ。そう育てられたからね」
「育てられたんじゃねぇ、洗脳され」

 テントを先行して出た源が言葉を紡ぎ終えるより早く、ギルバートがその肩を担ぎ上げ、忽然と姿を消した。
 ギルバートの光速の脚など、ホセは知らない。
 だからこの世の誰よりも的確に、正直に、心の底から呟いた。

「……化物どもが」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品