T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 2-2


~2176年12月23日PM6:48 ダラス~

 全長600Mに及ぶプラットホームに、弾丸のようなリニア車両が音もなく滑り込んで来た。
 延々と続けていた貧乏揺すりをピタリと止め、帷子ギルバートは文字通り光の速さで立ち上がる。周囲の兵士達から一斉に銃口を向けられたにも係わらず、彼の視線が車両から離れることはなかった。
 弾丸の中ほどにゆっくりとドアの形に切り込みが入り、圧力差を感じさせる音と共に車両は開帳される。それを確認した途端、ギルバートはドアの傍らに移っていた。
 目の前で起こった白い閃光の瞬間移動に、兵隊は瞠目し構えを改める。
 そんなプラットホームの緊迫感などつゆ知らず、超上機嫌なイブニングドレスを着た少女と表情の死んだ男が下車した。

「わ!ビックリし……カタビラ!」
「源、また組めるなんて夢みたいだよ」

「あ?あぁ……あぁそぉ」

 ナチュラルなリアクションを見せる紫姫音など、まるで目に入っていないギルバートの言動に対し、源は余りにも捨て鉢な態度だ。
 こちらに銃口を向ける兵隊たちに手を挙げて構えを解かせ、源はギルバートに向き合う。
 その顔に、先ほどまでの虚無感は、もうない。
 あるのは刺し貫くような鋭い殺気と適度な間合いを要求する威圧感だけだ。

「どぉいぅ積もりかしらねぇが、T.T.S.に楯突くんじゃねぇぞ」
「ああ、もちろんだとも。君のいる組織に命を捧げる」

「……また変な仮面もん被りやがって」
「似合わないかな?ぜひ今度君が選んでくれ」

 ペストマスクの鼻先を、源がツンと指で突く。
 ギルバートは変わらず口調で笑っていた。
 その様子を源の陰からジッと覗き見ていた紫姫音は、オズオズと口を挟む。

「もう敵じゃないの?味方なの?」
「ああ、もう君や源を襲うことはないよ」

 優しく言い聞かせるようなギルバートの声音を懐かしく感じながら、源は紫姫音と兵隊たちに声をかける。

「紫姫音、遊びは終わり、仕事すんぞ。人工憑依人体バイオロイドからWITに戻れ。……OKだ!ホセ・セサール・チャベスまで案内してくれ!あと、悪ぃんだがこの人工憑依人体バイオロイド預かっといてくれ!」

 紫姫音がWITに移り、彼女の人工憑依人体バイオロイドはガクリと崩れ落ちた。駆け寄って来た兵士にそれを預けると、源は先導して歩き出す。

「しっかし、いきなり不人気ワースト1の任務に充てられるたぁ、ギルも大概運がねぇな」
「そんなことはないさ。君とならどんな任務だって怖くないからね」

 覚悟はしていたが、ギルバートの口から矢継ぎ早に紡がれる歯の浮くような美辞麗句の数々に、源は早くもウンザリし始めていた。

「……そぉかぃ……まぁいぃや、とにかく、よぉこそT.T.S.へ」

 久々のコンビ結成に浮かれる相棒を見もせずに、源は歩き出す。
 暗い気持ちが晴れるまで、まだまだ忍耐は必要なようだった。

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